雪に祟られた航空無線通信士試験受験記
航空無線通信士資格は、航空機局と航空局の間に電信が廃止されてしまい、パイロットが電話送受信のオペレーターを兼ねるようになった今では航空無線従事者のグローバルスタンダードたる航空移動業務および航空衛星移動業務の無線電話通信士資格です。上位免許としては第1級および第2級総合無線通信士が該当するようですが、今となっては2総通1総通持ちで航空業務に就いているのは自衛隊関係と管制関係の一部だけでしょうね。航空無線通信士の資格での操作範囲は主に航空機の無線設備および航空局(地上の航空管制等の無線局)航空地球局、航空機のための無線航行局(マーカー、ビーコン等)のモールス以外の通信操作の他に、航空機や出力250ワット以下の無線航行局、レーダの外部の調整部分の技術操作となっており、国際通信のための電話による通信が認められておりますので、英語の試験が科されます。パイロットが管制とやり取りするあの会話ですね。しかし、航空無線通信士資格を取っただけでは航空機の業務に就くことは出来ず、別に国土交通省の航空通信士試験を受け航空通信士免許を取る必要がありますので、航空無線通信士免許を取得しても実際に使うことが出来るのは、ごくごく限られた一部の人ということになるでしょう。カンパニー波といって、各航空会社が業務のために航空機と交わす固有の周波数の無線交信がありますが、これは地上のオペレーターは航空無線通信士資格でいいのかな?そういえば航空無線通信士の試験にはエアライン系の人が多く訪れているようで、その中には女性の姿も多く見られますが、圧倒的に多いのは自衛隊関係者です。部内で配られた過去問題集を持ち込んでますし、受験票の写真が制服だからすぐにわかります(笑)あと、北海道では受験生で該当者がいないとは思うんですが、航空大学校の生徒は、今は宮崎の2年間の間に自力で航空無線通信士試験を取らないと不適格者として放校処分され、帯広の過程に進めないとのこと。チャンスは国試4回分しかありませんが、どうしても無線通信士資格を取得できない航大生のために某航空系雑誌出版社が費用約30万円で養成課程講習会を募集しているようです。毎年に渡ってこの養成課程講習の広告を見るということは、結構参加者がいるっていうことなんでしょうね。ちなみに養成課程講習は第4級海上無線通信士のほうにも法律的には存在するのですが、受験者の数がもともと少ないので、近年開催されたという話は聞きません。
このような、実際に取得してもエアラインもしくは自衛隊関係者以外にとっては余り利用価値のない航空無線通信士の免許ですが、わたくし1アマを取得したときに地元のOMに「1アマ取っても英語が出来なくては仕方がない」と言われて、それなら英語の試験のある無線の資格を取ってやろうじゃないかいと思ったことが取得理由でした(^_^;) 割とこういう事には屈曲した性格で、闘争心をメラメラと燃やすタイプです。ところが8月に4海通試験を受けることになっていましたので、その後の試験というと翌年の2月まで待たなければなりませんでした。余りにも試験までの間隔が空いてしまうので、通信術の科目免除欲しさに10月に航空特殊無線技士を受けたのち、無線資格の試験だけでは飽きてしまうので、割と手軽に受験できる危険物乙4の試験と、12月にわざわざ3日間の実技講習を受けて受験資格を取得した第2級ボイラー技士と並行で勉強することにしました。当初、2週間の間に3つの試験を受験する予定になっていましたが、これだけ異種の資格試験を並行して受験するとどれもこれも取りこぼす可能性があるので、ボイラー試験だけは月に1回ずつ開催されているので1月延ばし、危険物試験の14日後が航空通、さらにその10日後に2級ボイラーという試験日程に変更し、何とかすべて合格させる余裕が出来た感じです。1月中は初めての危険物取扱者資格と、当初は一番最初に受験予定だった2級ボイラーの試験にかかりっきりだったので、実質的に航空通試験の準備が出来たのは危険物試験終了後の14日間だけです。用意した参考書は養成課程教科書の工学、法規、英語の3冊と航空通過去試験問題集のみで、これは8月にはすべて揃えてありましたが航空特のときに工学の教科書を少々使っただけで、このときになって開いてみたものばかりでした。そのなかから航空通特有の分野である無線航行設備関係のものをすべてA4版の紙に書き出し、いつもの壁紙作戦です。そして書いて覚えないといけない部分はポケット版の大学ノートに書き写して覚えていきました。無線工学の基礎関係は既に何回も試験を受けてきているので、過去にまとめた要点整理を見るくらいでした。法規は海通試験と同じで遭難の分野の問題がかなりの部分を占めますので、航空分野特有の部分は書きだしておきます。また遭難通信の基礎はその殆どが海通の部分の共通しますのでで、4海通の時にまとめた部分をもう一度確認しておきます。問題は英語ですが、国際電気通信連合憲章と国際通信条約の英語条文が出題されるとのこと。本来はこれらの英語和訳本を手に入れて勉強するべきなんでしょうが、そんなことをやっている時間はありません。英語の教科書もあまり使わず仕舞でした。英語試験には1海特のときに受けたのと同様に英語のヒアリング試験があって、7問のうち3問未満しか出来なかったら筆記の英語試験がいくら良くても不合格という足切り点が存在します。そもそも英語は学生時代から補習、再履修続きで全くの不得意分野でしたが、会社に入って外国との商取引をするようになって必要に迫られて使えるようになっただけで、今でも文章見せられると30%くらいの単語の意味は正確にはわかっていないと思います。でも文章の前後関係で大意を読みとる術と、割と耳は良いほうだと思っているので今持っている自分の英語の能力の試金石がこの航空通試験の英語試験だと思いました。とりあえす過去問題集から英語の問題をピックアップしてやってみますが、海通の英語試験よりは長文にも難しい単語が出てこなくて簡単なようでした。このように英語の試験がネックになった航空通試験でしたが、ボーダーラインが105点中60点で、英会話試験7問の配点が1問5点で35点あり、英会話試験で1問間違えたとしても筆記試験で6問正解すればこれで合格です。これでだいぶ気が楽になりました。英会話試験さえ落とさなければ、筆記がさほど得意じゃなくとも大丈夫です。とはいえ、まったく英語に縁のない人にとっては、一朝一夕に英語が出来るようになるわけではないので、英語だけはモールス通信術の習得より難しいかもしれません。
航空通の工学の試験は3アマ並に14問しかありません。試験時間も1時間30分で、70点満点中49点以上が合格です。法規の試験も1時間30分で、問題は20問。100点満点で70点以上が合格。英語も英会話試験を除き筆記試験は1時間30分で、英会話試験を合わせて105点中60点以上で合格です。英語の試験だけは100点満点換算で57%取れば合格になっているんで、無線の資格試験の合格基準の中では特別に低いボーダーラインとなっているようです。各科目には科目合格制度があり、科目合格日の翌月から3年以内に他の科目に合格すれば良いようになっています。あと、英語試験の終了後に英語電報送受話の通信術試験がありますが、3時40分から受験番号順に進められるためにいつになったら終わるのか予想が付かず、その通信術免除のためだけに航空特を取ってありましたが、このおかげで札幌で足止めを食らわずに済みました。
2月の早々に届いた受験票によると22日日曜日の試験会場は1陸特のときと同じNTT北海道セミナーセンターということになっています。ということは1陸特並みに受験者が多いということでしょうか。今の季節にいつも心配になることなんですが、当日雪で交通機関が動かなくなっても試験が中止になることはありません。試験場にたどり着くことは自己責任で、交通機関のせいで救済措置を求めることは出来ないのです。特に北海道では1月の中頃に低気圧が3日に渡って居座り、交通機関が3日間もマヒしたことがあったので、万が一試験当日に交通機関が動かないことが予想されるときは前日に移動して札幌に宿泊することを計画していました。冬場の試験は過去2回受けていますが幸いにも前日宿泊しなければいけない目には一度も遭っていません。ところが今回は試験当日に大荒れの空模様になりました。
試験当日、これから大雪の天気予報が出ていますが、未だに雪は降っていません。いつもの手稲行き2番電車に乗った途端に雪が降り始めました。無事に札幌駅に到着し、地下鉄で薄野にむかい、路面電車に乗り込もうとするときにはずっと雪が降り続いていて、もうかなりの積雪があるみたいです。電車の中には明らかに同じ試験場に向かう人間が5人くらい乗っており、過去問題集を懸命に暗記している人間もいました。幌南小学校電停で降りると、3分ほどで試験会場です。日曜日だからか他の研修で来ている小学生の集団が多くて賑わっている感じでしたが、NTT職員が休みのためか売店さえ開いていません。試験場では奥の列の一番前から到着順に座らせています。何たる偶然、3往復目の最前列に着席順を指定され、これで最前列の試験も4回目となり、最初から何か見えない力で運を掴んでいるような感じがしました。受験人数は75人あまりで、科目合格者が入れ替わり何人かあるみたいです。受験者の顔ぶれは圧倒的に自衛隊員が多いらしくてちらほら女性隊員らしきYLも混じってます。あとはエアライン関係者とおぼしきスーツの集団、航空関係とか関係なさそうな年輩の女性のほかは、おそらく航空オタと呼ばれる人種とわたくしみたいな免許マニアという感じでしょうか。英語がネックになるためか、資格欄を埋めたい高校生の姿は殆ど見あたりませんでした。9時20分からお定まりの説明が始まり、問題用紙が配られますが、14問しか問題がないために問題用紙は3枚綴りで迫力がありません(笑) ただし問題数が少ないだけに点数を取りにくく、少しの問題でも取りこぼす事ができません。定刻に試験が開始になりました。航空設備等をはじめとしてさほど難しい問題はありませんが、航空通試験に付き物のGPアンテナ、スリーブアンテナ、ブレードアンテナの問題ではなくアマチュアには付き物の八木アンテナに関する新問題が出てきています。電力の利得に関するデシベル換算の問題も「無線工学の基礎」レベルを超えているような感じがしますが出題されていました。とりあえず深く考えないと出来ないような問題はないので、20分くらいで書き上げて退出時間を待ち、45分後の退出可能時間になってから一番で答案を出して退出しました。相変わらず雪はどんどん降り積もって、晴れる気配はまったくありません。この分じゃ札幌周辺も相当交通にマヒを来しているのが予想されますが、試験場までたどり着いてしまえばもうこっちのものです。工学の試験終了時間は11時ちょうどで、10分の休みを挟んですぐに法規の試験が始まります。ここで科目合格者が10人ほど入れ替わりました。工学よりも法規の方が科目合格が取りにくいのか、工学の時よりも人数が増えた感じです。
法規の試験は以前からさんざん繰り返してきたことですし、遭難通信の取扱及び国際条約に関しては4海通法規と共通するところばかりなのでまったく問題はなく、10分で解答を書き上げ、退出時間を待ちます。45分の退出時間のコールが掛かって一番で解答を提出、センターの中で食事でもと思ったら、センターの食堂は団体研修利用者であらかじめ予約をしていない者は利用できないとのこと。売店は日曜で開いていないし、外に食事をとりに出なければいけませんが、試験場にコートを置きっぱなしです。これでは雪が降り続いている外に出るわけにもいかないんで、最後の人間が退出するのを待っていたんですが、法規の試験ごときで最後の5人が結局試験終了時まで残ってしまい、英語の試験まで30分しかなく、慌ててコートを着て外に飛び出すも雪は深いわ、回りにコンビニさえ見あたらず、電車の一駅分歩いてやっとコンビニを発見し、弁当を調達。すぐにとって返して5分で食事を済ませてまもなく英語の試験の時間です。NTTセミナーセンターで午前午後に渡って試験を受ける方は、あらかじめ食事の用意をしていったほうが慌てなくて済むと思います。1時から英語の試験が始まりますが、最初に英会話の試験、それが終了して筆記の試験にはいります。英会話試験は1海特のときと同じように3回、質問形式の英文が読まれ、最初はゆっくりと、2回目は普通に、3回目は早く流れて1分のインターバルの間にその答えとして正しいものの番号を選んでマークシートに記入するというものです。3回目の読み上げは人にとっては何を言っているのか聞き取れないくらいに早く感じるでしょうから、2回目の読み上げまでにしっかりと質問の意味を把握している必要があります。マークシートは筆記試験のものを兼ねているので、筆記試験中に間違いに気が付いたら答えを修正することも可能です。英会話試験の35点配分のうち、25点から30点くらい取ることが出来ると、大体合格点の半分近い点数がこれだけで獲得出来るので、ここで点数を落とせないと思ったら妙に緊張して、手に持つ鉛筆が震えてきました。最初の設問がテープ(毎試験ごとに新しく問題が作成されるので、試験場で初めて開封されるカセット)から流れてきますが、正確に聞き取ったとは思うんですが、手が震えて1海特のときみたいに一言一句書き取ることが出来ません。書き取れないうちに正しい答えの選択肢と思われる物を選んでいきますが、よく質問の意味を考えないと正しい答えが出てこないものもあります。たとえば「ランディングギアは着陸の時だけに使用するか?」などという質問で、答えは離陸の時にも地上を移動するときにもエアブレーキ代わりに緊急時にスピードを落とすときにも使いますから答えは「NO」を選ばなければいけません。こういう質問は考えている間にすぐ1分が経ってしまいます。こういう問題を7問こなしましたが、1問だけ質問の意味がよく解らなかったものがあって、これ以外は全部質問の意味を把握出来たので、7問中5問程度は出来たのではないかと思います。次に筆記試験の3枚綴りの問題が配られますが、英語の長文に関しては近年希に見る平易な長文で、このわたくしでさえ意味の解らない単語が一つもなかったくらいですから。長文を読解してそれに対する設問に答え、国際通信条約の条文の英英訳も意味としてわかっているものが出てきたようです。和文英訳は虫食い部分に英文をはめ込む問題ですが、1問だけ言い回しの違いで単語のはめ込みがよくわからない物があります、英語試験は過去の英語力に依存するところばかりなので、得手不得手の違いが大きく、わたくしもさすがに1番で答案を提出して退出するわけにはいきませんでしたが、5番目くらいに答案を提出して荷物をすべて持って退出です。解答を提出してからふと英語のみの再受験者の解答用紙が目にはいると、英会話試験の解答以外はいまだに全て白紙の状態でした。英語だけ科目合格できずに再試験にやってくる受験者が意外に沢山いるのですが、やはり英語が不得手の人に取ってはいつまでも英語試験のボーダーラインは高いようです。
これで通信術試験を待たずして航空通試験の3科目を全て終了しました。雪は未だに強く降り続いており、晴れる気配も全くないので、これから15時40分になっての通信術試験の順番待ちなどしていると確実に家に帰れない事態が予想されますので、通信術免除を取って置いたのは見えない力に最初から導かれてそのレールに乗せられていたからかもしれません。試験場を離れ、札幌駅に向かいましたが家に帰る路線バスは高速道路が閉鎖になったために全て運休です。札幌駅に着いたときも千歳空港が雪で閉鎖され、快速エアポートも全て運休、ローカル列車も全て運休でしたが、定刻15時10分の地元に向かう普通電車が駅に着いた直後に1時間10分遅れで午後に初めて動く電車として出発することになり、すぐそれに乗ると1席分だけ残っていた座席に着席出来すぐに発車。途中で特急の通過待ちもまったくなく17時過ぎには、あの大雪の日としては、奇跡的にまったくの待ち時間もなくすんなり地元に帰ってくることが出来ました。たぶん試験場ではいまだに通信術の試験の順番待ちをしている受験者がいることでしょう。
家に帰って無線資格系の会議室を覗くと、試験の私的解答速報をしている人がいましたが、英語の英会話の解答が自分のものとまったく違ってました。質問の聞き取った意味がまったく違うんです。確か最初の問題は「寒さを感じたときにどうするか?」で「ストーブのスイッチを入れる」と聞き取ったのに「暑いときにどうするか?」「窓を開ける(本当は窓を開け続ける)」とか「フライトアテンダントは飛行中にどこで働いているか」を「乗客は飛行機のどこにいるか?」に聞き取ったりで、何かこっちのほうが間違えて聞き取ったのかと思って不安になりましたが、無線協会の正式な回答が上がって不安が解消。英会話部分は1問だけ落として7問中6問の正解でした。無線工学はちょっと勘違いが多くて、56/70。法規は何と満点。英語は76/105でボーダーラインを大幅に上回ってとりあえず一発で全科目合格です。
試験結果通知書は3月16日付で18日に到着。すぐ申請しないと申請書の様式が代わり、申請料も値上がりするので即日総通局に免許申請し、3月27日に3月26日付の免許が到着しました。次回の試験から航空通試験は受験料が値下げになったために、最後の高い受験料の航空通試験となりました(笑)
航空無線通信士は航空従事者以外には使いようのない無線資格ですけど、合格して何よりうれしかったのは、苦手意識のあった英語試験に通って国家的なお墨付きを頂いたことです。航空通で英検2級程度と言われているので、個人的には英検2級同等の実力所持かなぁ、なんて思ったりしますが、アマチュア無線的には英語で外国と自由に交信できるかどうかということに関しては別問題です(^_^;)
航空通資格取得費用
受験料 9,780円(当時)
工学教科書 1,900円
法規教科書 1,900円
英語教科書 1,300円
過去問題集 1,860円
英文電報受信テープ なし (1海特流用)
免許申請料 1,650円
郵送料・その他 570円
合 計 18,960円
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Comments
本庄様
このサイトの持ち主さんではありませんが、お役に立てば・・・
お持ちの無線従事者の資格は、今でも有効です。お書きになった、従事者免許証番号も、北海道電監1970年交付のもので間違いないようです。
こちらのページを参照下さい。
http://www.tele.soumu.go.jp/j/operator/qanda.htm
自家用飛行機とは、なかなか良いご趣味ですね。
Posted by: dohi | September 20, 2005 01:54 AM
お尋ねします。
楽しく読ませて頂きました。突然ですが小生今年63歳となり、会社を退職し趣味で自家用機の操縦を習いたいと思い、昭和45年に航空級無線通信士の資格を取得した事を思い出し引き出しを捜しましたが見当たりません。
現在でもその資格は通用するのでしょうか?
通用する場合、再交付の申請はどのようにすれば良いかお教え下さい。
ちなみに当時は札幌の電波管理局に申請して受験し免許発行者は郵政大臣、免許番号はJUE1号です。
Posted by: 本庄一雄 | September 15, 2005 11:19 AM