ミランダA
昔、千葉を引き払って都落ちし北海道に帰ってくるときに、換金性の高い日本製レンジファインダーコレクションは新宿のカメラのきむらで委託販売に出し、ニッカ・レオタックス・キャノン・タナック・ヤシカ(YF)の本体十数台と共に、トプコール・フジノン・ニッコール・キャノン・ヘキサー・ロッコールのLマウント交換レンズもすべて換金して引っ越し費用に化け、残った代金も車の修理代金(中古エンジン換装)に消えてしまいました。ところが換金性が低いためにまるまる残ってしまったのがミランダの一眼レフ群なのです。ミランダは古い物から比較的新しいものまで本体6台と28ミリから135ミリまでの数々の交換レンズ、ならびに箱付きのアクセサリーの類まで色々と揃っていて、システムの充実ぶりとしてはニコン・キャノンを押さえてうちの中ではナンバーワンのメーカーなのです(笑)あのPMアダプターもあるんで、世界のありとあらゆるプラクティカマウントのレンズもミランダで使えるというわけです。ただしPMのレンズは一本もありませんが(^_^;)
その中でも一番のお気に入りというか、ニコンFを押さえてランキング1番がこのミランダAなんですが、何がすごいというとこのA型、ハッセルブラド同様にミラーがクイックリターンしないタイプの1眼レフなんですね。そのためにミラーショックがなくて非常に静かなカメラですが、ファインダーを覗いたままシャッターを切ると視野がブラックアウトして驚くでしょう。さらにニコンSのような高低二軸式シヤッタースピードダイアル、交換式の大きなペンタプリズムにクロームメッキの大きな鏡胴のレンズはシャッターボタンを押すと絞りが絞り込まれるというプリミーティブな自動復元手動絞りです。おそらくこのタイプの絞りを使用したのはエキザクタ以外では国産でいうとトプコンRくらいなものだったのではないでしょうか?またクロームメッキのレンズというのもライカフレックスみたいで異彩を放ちますが、ライカフレックスのほうは外式露出計の測光に影響してすぐにレンズが黒塗りになったようです。そして、ファインダーの視野の中はマイクロプリズムもスプリットイメージもないまったくのマット面だけのファインダーで、あれこれごたごたとしたファインダーになれている目で見ると、なんと新鮮な眺めか。ただし滅茶苦茶暗いですけどね(笑)
ミランダのカメラで手作り感のある重厚な印象のカメラはT型から始まってA,B,C型までです。D型になると見た目にもいきなりコストダウンされたような安っぽさが目に付き、以後精密感とは無縁の「手頃で安いカメラ」の代名詞になりました。なにせD型になるまでは本体が安物の合成皮じゃなくて本皮ですよ。手に持った感触からしてしっとりとした高級感が感じられるのはそこのためかもしれません。さらにこの頃までのミランダはアメリカでも「特別なカメラ」だったわけで、それは距離計連動機や2眼レフがヌーキーとかプロクサーなどというアクセサリーを使わなければ出来なかった近接撮影が本体だけで行うことができ、さらにビゾフレックスなどのアクセサリー無しに顕微鏡撮影から天体望遠鏡撮影などの学術撮影に使うことが出来るという機能からでした。そのために多くのミランダが大学や研究機関で使用されましたが、D型以降はだんだん大衆機としての意味合いしかなくなってきました。
ところで、ミランダは基本的にダイカストがT型の12角型から発展したラウンド型とオートメックスの系統の2つしかなくて、それをセンソマート系統・センソレックス系統まで改良しながらずっと同じ金型を使い続けたというのが驚異的です。言うなれば金型の呪縛に縛られ、同じ金型を使いながら中身を改良していったわけで、まったく新しいものといえば倒産直前に出したdx-3というプログラムオート機しかないのですね。そのために最後までデザインに陳腐さが拭いきれず、ついにはキャノンのAE-1発表により企業として成り立たなくなったわけですね。
このミランダAは16年ほど前に松坂屋カメラで捕獲してきたアメリカ帰りのもので、この時代は国内販売していなかった為に当然すべて海外からの里帰りカメラになります。湿気による痛み、カビがないのはいいのですが、ミラーを他のものに変えたらしく、そのミラーも端が少し欠けていて、さらに絞り羽根にオイルがべっとり付いていて粘って絞りが絞られず、ミランダ全般が最後までそうでしたがスローガバナーの動きが宜しくないということで、手を加えないと殆ど飾りのためのカメラというようなシロモノでした。そのために、いままでずっと防湿庫に入りっぱなしで一度もフィルムが入ったことがありません。最近、カメラの分解ばかりやってましたので、こいつもまな板ならぬ分解マットの上に乗ることになりました。レンズの分解ですが、最近は数もこなしてきましたので、簡単に前群・後群を外し、前から絞り羽根を押さえている円筒を外せば絞り羽根が現れます。これを1枚1枚外してオイル分を洗浄して乾かし、1枚つづ組み付けてゆけばそれ良いのですが、組立に手間取って少し時間を食ってしまいました。しかしアメリカ帰りのカメラには絞り羽根に油分がべっとり付いて、羽根がくっついて動かないものが良くありますが、レンズシャッターに差した油が絞り羽根に回るのはまだしも、1眼レフの絞りの基部に油を差すなんてどういう神経しているんでしょ。もう一台のセンソレックスも絞りに油が回って膠着してました。スローガバナーの動きが思わしくないのはA型以降のラウンド型系統共通のもので、1軸不回転ダイアルのセンソマートの時代になってもその症状が良くあるようです。これは基本的にスローガバナーの設計と材料が悪いのが原因のようで、これは底板を分解してスローガバナーを洗浄し、注油して何回か作動させる以外に動きを良くする方法がないみたいです。少しでも使わないとまたスローガバナーの動きが悪くなるようで、頻繁にスローシャッター切ってやる以外に予防法はないのですが、当時でも有名メーカーのカメラのスローガバナーはメッキされたギアが使われて加工精度もよかったものを、ミランダのスローガバナーは真鍮の切りっぱなしのギアだったりしますから、なんとなく安物のピンレバーウオッチのメカみたいで、ここいらの問題も大きいのでしょう。低速は精度が出ないと割り切って1/30以上のシャッターしか使わない方が利口です。でもうちのD型はスローガバナーは絶好調だし、センソレックス系はダイアルを回してもギアの音が聞こえず、スローガバナーが効かなかったということもありません。基本的にセンソレックス系はスローガバナーの構造がまったく違うんでしょう。個人的にはダイアル回すたびにギアの音がギーギー聞こえるのはあんまりいい感じはしませんが。ということで、未だにスローガバナーの調子は完調ではありませんが、とりあえず絞りの方が作動するようになって、曲がりなりにもフィルムを詰めて写真を撮れるレベルにまで持ってきました。T型にはズノーのレンズが装着されていたことが知られていますが、このA型に付いているレンズはソリゴール50mm/f1.9です。この時代はフジタ66の藤田工学あたりか、コーワのレンズだっていう話だったかなぁ、詳しいことは忘れましたが、同じソリゴール50mm/f1.9であってもA型から数えて16年後のオートセンソレックスEE用ソリゴール50mm/f1.9 EEまで新旧5本のレンズがあるので、これを全て同じ条件で撮り比べてみるのも面白いかもしれません(笑)
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