HEMMI P-253の丸洗い
今回入手いたしました計算尺はプラスチック尺のHEMMI No.P-253です。この計算尺は金園社版の「計算尺の使い方」という書籍の表紙にも登場していまして、計算尺1級検定まで使える計算尺としては値段もリーズナブルでしたので、なかなか人気があり、長い間に渡って作られてきたようです。「計算尺の使い方」の表紙によると透明なプラスチックの筆入れのようなケースに納まっておりますが、入手したものは30年代のHEMMI計算尺の紙箱とはちょっと異なる「VECTOLOG」のネームが入った薄い緑の貼箱に入っておりました。このNO.P-253はたぶんHEMMIにおけるプラスチック製計算尺の走りだったと思いますが、従来の竹を組み合わせてセルロイドを貼る計算尺の製造コストが昭和30年代にだんだん上がり、それに対する一つの答えがプラスチック製計算尺だと思うのですが、当方が想像するにどうやら和光のヘンミ工場で作られたものではなくて、どこかのOEMだったのではないかと想像しているのですが。それではどこで作られたのかと想像しているかというと、山梨の技研工業ではないかと(^_^;)技研OEMではなくとも、技研が作らせていた同じ山梨県内の下請けの工場の一つに発注していたということも考えられます。プラスチック尺がOEMではなかったかと考えた理由というのも、当方もプラスチックの加工なんかを外注していた仕事に携わっていたことがあり、プラスチックの成形と加工はそれなりのノウハウを蓄積したしたメーカーではないと精密に成形加工することが難しく、プラスチック加工のノウハウがない会社がいきなり製品ラインを構築して製品を作り出すことなどできなかったのではないかと。又、山梨というと水晶加工から始まって印材なんかに正確に彫刻する技術がある工場が多かったようです。それに昭和30年代末は団塊の世代の進学時期と重なり、国内では計算尺の需要が頂点に達していたためにHEMMIでは新たなプラスチック加工ラインに人員を割けなかったのではないかと思います。更にこのP-253の紙箱は技研計算尺のある種の紙箱の柄に似ているような気がするんですけど(笑)またこのP-253のデザインは昭和30年代の日本の工業デザイン界の作品っぽくありません。おそらくアメリカの業者が自国もしくはドイツあたりの計算尺等を参考にして、HEMMIに送ったラフスケッチかなにかを元にデザインされたのではないかと思います。昭和30年代の日本には外国のデザインをパクることはあっても、ここまでのデザインと、特にVECTOLOGのロゴなんかをデザインできるインダストリアルデザイナーがはたしていたでしょうか?こういう同業他社に外注するOEM形態は自動車業界では昔から行われておりましたが、真実はいかに? しかし、この他のプラスチック尺で外国輸入元のブランドが付けられて売られている場合にはHEMMIがOEMで作らせたアメリカの会社のOEMという複雑な関係になりますが(笑)
さて、このP-253はNo.250にLL1,LL2,LL3を足して本体をプラスチックにしたといえばわかりやすいでしょうか、そのためNo.250では挑戦できなかった計算尺検定上級にも挑戦できる尺度を備えておりますが、実際に高校生用に多く使用されたのはNo.254系のほうでしょうか?254系の方にはさらにLL/1,LL/2,LL/3の尺度まで備えられていて、検定1級でもまったく不足のない機能を持ち、このまま技術者として就職しても使えるほどの計算尺でしたし、高校で集団購入するとけっこう安い価格で手に入ったのでしょう。
このP-253の入手先は先週の2664S-Sと同じ所からでした。最初からあまり程度が良くないことはわかっていて、手が掛かることは覚悟しておりましたが。届いたケースを見てびっくり。JA1コールのさる川崎在住のOM氏のコールサインが書かれていました。コールサイン付き計算尺はこれで通算3本目です。やっぱり昔から無線従事者と計算尺は切っても切れない関係にあったのでしょう。その無線従事者と計算尺の縒りを戻そうと「上級試験には計算尺を使え」運動をしているのですから、なんか不思議な因縁を感じます。そしてそのコールサインは4年前のコールブックにはしっかり載っており、そのため3年前からの再割当対象にはならなかったのですが、総務省の免許情報検索をしたら該当がありませんでした。40年近く維持したコールサインが消えたということは、どうやらサイレントキーになられたようですね。
入手したP-253の刻印はMFですからミドルフリクエンシー(中波)じゃなくって昭和37年6月ですからP-253の製造年としてはかなり初期のタイプになります。本体もカーソルもプラスチックなのでカーソルグラスは裏も表も傷だらけ、おまけに滑尺のはまる溝には埃が貯まっているという状態で、コレクションとしての価値は「下の中」くらいですが、こういう汚い計算尺をきれいにする作業を最近は楽しんでおりますので、こちらは「いい素材が手に入った」としか感じておりません(笑)カーソルグラスは外してアクリル研磨剤で擦り傷を消す作業を行うためにネジを外して分解しますが、リコーの分厚いプラスチックカーソルと違って、段付きの成型品のためにはっきり言って端の方が磨きにくく、大変な作業でした。また、P-253用のカーソルは本体の厚みが薄いために専用品だったんじゃないかな?この形状ではアクリル板を削ってはめ込むわけにはいきませんね。このプラスチックカーソルも材料劣化でネジ穴の周囲が崩壊しそうなので、あまり強くネジを締めないように配慮しなければいけません。本体は上下の固定尺が分解出来ない構造なので、滑尺を外した状態で中性洗剤を入れたぬるま湯につけ込み溝を歯ブラシでごしごし擦ると、見違えるようにきれいになり、尺の表面も汚れが落ちてきれいな状態になりました。オールプラスチックの計算尺だからなせる技ですが、「計算尺の丸洗い」をしたのはこれが初めてです(笑)表面をカルナバ蝋でワックス掛けして一丁完成です。
しかし、上下が固定されていて調整が利かないために滑尺の動きがどうなるかと思いましたが、実にスムースに動きます。上下の固定尺が同寸で滑尺だけが長いデザインもかえってこっちのほうが使いやすいと思うのですが、全体を眺め回して感じることは、やっぱりこれは日本人のデザインではないという事です。表は机の上に置いても使えるが、裏は机の上では使えないというデザインを多くの日本人が果たして受け入れたのでしょうか?機能より値段で売れた計算尺のような気がします。
HEMMI No.P253の表面拡大画像はこちら
HEMMI No.P253の表面拡大画像はこちら
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Comments
一昨日渋谷で1アマ受験しました。
とてつもない500名くらい入りそうな広い会場なので性格な人数は分からなかったのですが、周囲に4-5名はチェックを受けていたようです。
4月期の初受験のときは私くらいしか居なかったような気がしました。ちなみに、コンサイス270Nを使用しており、じぇいかんさんお勧めののhenmiも手にいれたいなぁと思っております。
Posted by: ひるひる | December 12, 2005 01:23 PM