2ミリワイドなRICOH No.1053
リコーの10インチ両面計算尺はヘンミの両面計算尺のような化学用、電子工学用、土木用などの特殊用途の計算尺というとわずかに電気用があるくらいで、他のものはすべて一般用、高校生用、機械技術用のラインナップになるようです。昭和40年代初めにはヘンミの国内シェアが98%くらいにも達した時期があるようで、そのときのヘンミ計算尺の出荷数が約100万本ということなので、計算すると2万数百本が他社計算尺の出荷数ということになります。その中のかなりの部分をリコー計算尺が占めていたのでしょうが、それにしてもヘンミの計算尺が100本にリコーの計算尺が2本じゃ市場では勝負になりません(笑)まあ、市場シェアはヘンミの言い分ですから割り引いて聞いておいたとしても、実際にヘンミが9本あったらリコーの計算尺は1本あるかないかというところではないでしょうか。西日本ではリコー計算尺はさほど珍しいものではありませんが、東日本、特に白河の関を越えた東北・北海道ではリコーの計算尺は殆ど見かけないような気がしますが。
リコーの計算尺はヘンミの比べると単一機種のロット数もさほど多くないからか、学生用の片面計算尺以外はまとまった数が出てくることが少ないような気がします。特に両面計算尺に関しては、未だにどのような機種がいつ頃まで作られたなどということも当方はさっぱりわかりません。どうやらリコーの10インチ両面計算尺は150系のナンバー(No.151,156,157,158等)1050系のナンバー(No.1051S,1051V,1053)250系のナンバー(No.252)2500系のナンバー(No.2506,2509)に別れているようなのですが、その系統の中にもいろいろな用途のものがあり、結局はこの分類に意味があるかどうかも怪しくなってきますが(^_^;)
今回入手しました計算尺は、和歌山県からやってきたRICOH No.1053という計算尺です。この計算尺は不鮮明な写真と共に、品番が明示されていないまま出品されていたのですが、尺配置からNo.1053であると確信し、あえて品番を問い合わせずに結果は届いてからのお楽しみということで落札した商品でした。結果は予想通りにNo.1053で、LL尺もフル装備された表12尺、裏12尺の24尺度の計算尺です。そのため、No.1051Sの幅が41ミリでヘンミでいうとNo.250と同寸のスリムな計算尺であるのに対して47ミリというヘンミのNo.259Dあたりの両面計算尺よりさらに2ミリ近くワイドな両面計算尺です。用途としてはリコーで言うところの「高級(両面型)計算尺」というものでしょうか?ずらし尺度が√10切断なので、もしかしたら技術用という用途よりも計算尺検定用途としての意味合いが大きかったのかもしれません。もちろんLL尺フル装備ですから計算尺検定1級受験のためにも何の不足もありません。この1053は昭和40年代以降の計算尺のようですが、ざっと見たところ年代別に3タイプあって、初期のものはCIF尺の文字が赤で目盛が黒の大型金属枠カーソル、中期のものはCIF尺の文字も目盛もグリーンに変わり、末期はグリ-ンCIFに小型カーソルというものです。どうやらリコーの主だった計算尺のCIF尺がグリーンに化けたのは昭和44年と45年の間のようです。44年11月製の1051SのCIF尺は字赤目盛黒に対し、今回の1053はSS-11で昭和45年の11月のグリーンCIFですから、この間に変更になったのでしょう。ヘンミの片面計算尺はNo.2664Sが出たときからCIF尺はグリーン目盛になったものが多かったのに比べて、両面計算尺では工業高校特納品のNo.254WN最末期ロットにわずかにグリーンCIFが見受けられる程度でしょうか?両面計算尺の目盛にグリーンが一色加わるだけで何か華やかな感じがします(笑)昭和45年11月というと、日本全国民族大移動だった大阪万博も終了して景気も落ち着きを取り戻しつつある時期でしたが、このころから家電製品も急激にソリッドステート化し、テレビもオーディオもオールトランジスタ製品にシフトしていった時期のことになります。日立のソリッドステートテレビ・キドカラー「ポンパ」のキャンペーンでポンパ号という移動ショールーム列車が全国主要都市を回り始めたのがこの頃でしたかね。そのために計算機もまもなく「答え一発カシオミニ」の時代を経て関数電卓がすぐに登場しますので、計算尺が計算用具の頂点から凋落しつつありながら、未だに必要とされていた最後の時期の製品ということになるでしょうか。ケースはヘンミのような青い蓋のブロー成形のものが付属していました。紙の貼箱からブロー成形のケースに変わったのはグリーンCIF化と同時期でしょうか?手仕事の多い貼箱の細工よりブロー一発成形のほうが明らかにコストダウンされています。さほど使用されている感じの計算尺ではありませんでしたが、新品のリコー両面計算尺と比べると明らかに少し黄ばんでいました。それに何か埃で粉っぽい感じがしました。例によって本体カーソルのネジ類を全て分解しますが、相変わらずリコー計算尺のネジの細工は優秀です。しかし、このタイプのカーソル枠のメッキが余り良くなく、腐食はありませんでしたがまんべんなく曇っており、さらにカーソルグラスがプラスチック成型品のために表面に細かいふき取り傷が見受けられます。カーソル枠はサビ取りペーストで磨き、カーソルグラスもアクリルサンデーで磨くと見違えるほどに再生しました。本体は研磨剤を使わず、パソコンクリーナーで磨くとある程度黄ばみも取れ、ピカピカになりましたが、表面がカルナバでコートされてしまったのか、ケースを開けたときのセルロイドのかぐわしい酢酸臭が失われてしまいました…(笑)
このRICOH No.1053は明らかにHEMMIのNo.259Dの対抗商品のようです。√10切断とπ切断の違いがあり、機械技術用でもなく一般用途としては過分な計算尺ですが、2ミリワイドでグリーンCIFであり、NO.260同様に尺の右側にも数式が入るというものなので、計算尺目盛鑑賞派にも楽しい計算尺だと思います。しかし人気は今ひとつのようです。まあリコーの計算尺を系統立ててコレクション公開してくれる人がいないのが原因で、認知度が低いからでしょう。2ミリワイドになったおかげで、尺目盛間に余裕が出来、見やすいような感じがしますが、そのためにモデルネームが入れられなくなって、滑尺左側に縦に刻印されています。
RICOH No.1053の表面拡大画像はこちら
RICOH No.1053の裏面拡大画像はこちら
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