寄生虫さん、こんにちは
料理好きを自認する限りは包丁が使えなくてはいけませんし、魚を一匹出されておろす事も出来ないと「料理が出来る」なんて恥ずかしくていえません。さらにまともに魚をおろそうとするとステンレスの包丁ではだめで、最低鋼の出刃、刺身、鰺切り包丁の3つくらいのマイ包丁を持っていたいものです。ところが最近出刃包丁の出番が無くて、しばらく使わなかったら刃先にうっすらと錆が(^_^;) もっと使わないといけませんが、釣り師ではないので普段は魚の切り身しか買いませんからねぇ(笑)
日ごろ出番が無い出刃包丁でしたが、スケトウダラを10匹以上もらい、久しぶりに裁くことになりました。どうやら200海里すれすれの所で操業していたロシアと韓国の大型底引き網漁船が姿を消して、昔のようにスケトウダラの資源が戻ってきたようです。こんなにスケトウダラをもらっても消費のしようがないのですが、今の季節、蝦夷の国では昔から棒ダラ作りが行われ、頭と内臓を落としたスケトウダラの尻尾をひもで結んで野外の竿に掛け、凍る融けるを繰り返すことで寒天作りのようにフリーズドライとなって水分が抜け、保存に耐えるものになるのです。いにしえは米の取れない蝦夷の国の重要な交易品で、北前船によって昆布などと共に関西に送られ、関西では棒ダラは昆布同様に欠くことの出来ない食材の一つなのでしょうが、北海道では棒ダラ作りはすれども戻して煮付けて食べるなどということは、よっぼど山奥で生魚が流通しなかった開拓地は別として、あまり聞いたことがありません(^_^;) 身欠きニシンはそこらじゅうに生えている蕗といっしょに煮て開拓地のごく普通のおかずだったので、かえって身欠きニシンの消費は多かったようです。棒ダラはカチカチに乾いたヤツを金槌で叩きほぐして、マヨネーズに七味を振りかけ醤油を落として混ぜたやつにつけながら食べるのはけっこう珍味ですが(笑)
ということで、13匹あったスケトウダラを全部さばくのも大変ですが、覚悟を決めて出刃包丁を振るい頭を落とし、腹を割いて内臓を取り、腹を流水で洗って尻尾の部分にひもを通す穴を開けます。マダラと違ってスケトウダラのタチはさほど大きくないのですが、いわゆるタラコはスケトウダラのメスの卵巣で、福岡名産の辛子明太子もすべて北海道産もしくは輸入物のスケトウダラの卵巣です。5匹ほど裁いたときにどうも腹腔内と肝臓に米粒ほどの白い物体が多数付いているのを見つけました。最初はタチが千切れてこぼれたのかと思ってよく見たら背筋が凍り着きました。なんと引っぱるともぞもぞ動くんです(@_@) 名前は知りませんが、魚に寄生する寄生虫に間違いない。しかし、ここまで大量に寄生虫にたかられた魚にあたったのは初めてです。25倍のルーペで覗きながらピンセットで剥がそうとすると、頭に棘というかそういうものがある口でしっかり食いついていて、なかなか剥がれようとしません。急いで内臓を取って腹腔内の米粒ほどの寄生虫をピンセットで剥がし、水道で腹腔内をよく洗いますが、この米粒みたいな寄生虫は調べるとニベリニアという名前の寄生虫らしいですな。このニベリニアだらけのスケトウダラにはアニサキスもいて、さらにまな板の上にこぼれた内臓片に混じってエノキ茸のような長さ3センチくらいの白い物体がこぼれていたので、ルーペで観察すると、何と生きたサナダムシちゃん(^_^;) アニーちゃんにはよく巡り会うけど、生きたサナダムシちゃんに遭遇するのは初めてです。ルーペで覗いてわかりましたが本当に節に分かれているんですねぇ。この魚に寄生するサナダムシは日本海裂頭条虫というものらしいです。日本人のサナダムシちゃん感染例としては一番多いもののようですが、元東京医科歯科大の藤田紘一郎せんせによるとあまり人間の体内に入っても非道い悪さをするものではなく、サナダムシの抗体が体内に入ることによってかえって花粉症などにかかりにくいなどという研究成果があるようですが、藤田せんせみたいにこのサナダムシちゃんを飲み込む勇気はあたしにはありません(笑)この魚にいる3センチくらいの幼生の状態をプレロセルコイドというらしく、これが人間の体内に入ると2メートルから9メートルまで成長するそうです。どちらにしてもこれらの寄生虫は本来クジラやイルカという海棲ほ乳類や鮫などを終宿主とし、それらの小腸に寄生するもので、寄生虫卵がこれらの糞とともに水中に放出され、それを取り込んだプランクトンを小型の魚が補食し、その小魚をより大きな魚が補食し、その魚をクジラやイルカが食べるというサイクルを繰り返しているのです。そのサイクルの途中で人間が魚を横取りすることによって人間も感染するわけですが、それらの寄生虫は人間の体内で繁殖出来るわけではないために、寄生虫にとっても人間の体内に取り込まれることは迷惑な話なのでしょう。さて、米粒ほどのニベリニアですが、腹腔外にこぼれ落ちたニベリニアがスケトウダラの鱗の付いた皮膚に食らいつき、ピンセットで剥がそうとすると、カギのような口吻で鱗をくわえ込んだまま離れようとしないそのしたたかさを見て、こいつらはもしかしたら、元々地球外生命体だったんじゃないかと思えてきました(^_^;)
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Comments
つかささん
今度生きたサナダムシを採取できたら生きたままお送りしましょう(笑)
アニサキスやニベリニアに比べて意外に見つからないらしくて、
オークションに掛けたらダイエット志望の女性とか体内ペットフェチの
間でどれだけの値段がつくものか(^_^;)
但し、オークション終了時まで生かしておく術を知りませんが…
Posted by: じぇいかん | March 04, 2006 08:27 PM
よりによって刺身をつまみに呑んでる最中にこの記事に行き当たってしまうなんて…とほほ。
藤田紘一郎氏の本はよく読んでますけど、自分で魚を捌くこともないので生きてる寄生虫には滅多にお目にかかったことがありません。
10年ほど昔、居酒屋で頼んだサンマをつついてたらお腹の中でクネクネと蠢いてるヤツを見たくらいかなぁ…
サナダムシと藤田氏の名前が出たときには、じぇいかんさんが飲み込んでくれることをちょっと期待したのは内緒。
Posted by: つかさ | February 27, 2006 10:47 PM