幅広片面尺、FUJI No.2125D
FUJIの計算尺というのは山梨にある技研工業というプラスチック加工を業とするメーカーの品物です。実はここの計算尺は同じ品番で「技研」「大正工業」「FUJI」の3つのブランドがありまして、おそらく「技研」から山梨を代表する世界的ビッグネームの「FUJI」をブランド名にしたのでしょうが、なぜ「大正工業」が間に存在するのかが今ひとつわかりません。確かに言えることは昭和30年を通して「技研」のブランドで計算尺が販売され、ある一時期「大正工業」のものがあり、40年代を通しては「FUJI」計算尺のブランドで計算尺が販売されたということです。終始プラスチックの計算尺を売りにしていたメーカーというのも珍しいのですが、どうやら山梨というと水晶の加工から始まって印材に精密に彫刻する技術が栄えたところ。この精密彫刻技術のノウハウがあってプラスチック部材の精密加工と目盛の加工が可能になったことを計算尺製作に応用したのが技研工業だったと想像しています。さらに計算尺専業というわけではなく、技研工業は過去30年来、ドラフターのムトウの協力工場として現在は技研産業と改称し、ドタフタースケールの精密加工や主にアクリル板の彫刻などを行っておりますが、さすがにもう一度同じFUJI計算尺を作れと言っても無理な相談でしょう。現在の技研産業は昭和41年創業となっていますので、もしかしたら元は技研工業だったものが計算尺販売の富士計算尺とプラスチック加工の技研産業の2つに分かれ、現在では技研産業が存続会社になって今に続いているのかも知れません。
特筆されることはプラスチックの精密加工のノウハウが無かったヘンミへのOEMとして、プラスチックの計算尺を多数ヘンミブランドとしてヘンミに納めていることで、初期のP253やP45Kなどを初めとして「ヘンミの貼箱と明らかに違う色合いの貼箱」に入ったプラスチック計算尺を作ったのは技研だと想像しています。また、40年代末にヘンミが竹製計算尺の製造ラインを停止した後の学生用計算尺P45SやP45Dなどを作ったのも技研だと想像してますけどね。
今回入手したFUJIの計算尺は同じものが技研にも大正にも存在します。片面計算尺ですが、ヘンミのNo.2662を通り越して表に11尺ある計算尺で、「検定試験上級用」という技研工業の片面計算尺では最上位にランクされるものです。でもどこかで見たことありませんか? そう、ヘンミとしてはあまり数がなくレアなNo.641そのものじゃあないですか(笑)材質(オールプラスチックと竹芯)と滑尺の色こそ異なりますがNo.641はヘンミとしては妙な作りの計算尺だと思ったら、これも技研のOEMだったのでしょうか。それでいてオークションではNo.641の殆どが代理入札業者に持って行かれ、海外流出しているのにも係わらず、FUJIのほうは注目もされずに千円も値段がつかずに落札されることになるのですが、いくらヘンミが計算尺業界のビックネームとしても同じ計算尺でここまで扱いが違うのは個人的には合点がいきません(^_^;) ヘンミに比べるとそれほどFUJI計算尺の個体数が少ないために、知名度も低いという事なんでしょう。FUJIブランド計算尺時代の特徴的な「滑尺の着色」は、のちのHEMMI No.P45SとP45Dになってヘンミの計算尺にも継承されますが、これは両者の製造が技研だったからです。HEMMIで滑尺が着色されているプラスチック尺は、国内で発売されただけでも片面尺・両面尺を問わずこのほかにも沢山ありますが、同じ計算尺でも初期の物は白い滑尺だったものが後期の物では青く着色されたものも見られるようです。これらのPが頭に付くプラスチック計算尺の殆どが技研・富士計算尺のOEMだったのでしょうか?
この計算尺の入手先は、以前大掘り出し物だったNo.74を入手した札幌のリサイクル屋さんです。5玉の算盤とヘンミのNo.45学生用計算尺の3点セットで、落札価格も千円以下でした。コレクターを自称する人にはケースが無いと思われて敬遠されたのかも知れませんが(届いたらちゃんとケース付きでした)、それにしてももったいない。これがヘンミの641だったらケースが無くても数千円の落札相場です。検定用の計算尺ですから片面計算尺としては三角関数以外の尺がすべて表に出た表面11尺で、さすがに普通の片面計算尺の幅では尺が込み入り過ぎて見にくいため、思い切って幅広の計算尺になっていますが、そのためNo.2662やNo.116Dの表面10尺の計算尺より尺配置に余裕があるために使いやすい感じです。さらにこの時期の富士計算尺の滑尺は薄い緑に着色されているため、更に認識度が上がっていると思われます。品番はNo.2125Dでおそらくこの手の検定用計算尺としてはかなり末期の製品で、製造記号が何処にもないために推測するしかないのですが、もしかしたら昭和50年以降の製品かもしれません。この富士計算尺はヘンミの計算尺生産ラインが停止して在庫もしくはOEMのみの出荷になって以降も計算尺を作り続けてきたようです。この計算尺のそもそもは技研のNo.251が始まりで、尺の種類と配置は一貫して同じですが、構造などが微妙に変わってFUJI時代にはNo.2125となりNo.2125Cを経てNo.2125Dに至るわけです。No.2125Bがありそうなものですが、もともと数が少ないので未だにお目に掛かったことがありません。No.2125は滑尺が白ですが、No.2125CとNo.2125Dは滑尺が薄い緑です。
ケースは緑色の蓋の付いたブロー成形のポリエチレンケースで、何と隣町の工業高校の名前と電子科何某という名前が入っていました。地元に縁のあるものなので、ちょいと消しにくい感じがします(笑)しかし、こんな北海道の片田舎にFUJIの計算尺が入ってきていたとは思いませんでしたが、これもやはり昭和50年以降という事情があったのかも知れません。手に持った印象はずしりと重く、片面計算尺ながらその身幅はHEMMIのNo.250を遙かに凌ぎ、No.259Dよりもさらに幅広なのですからその片面計算尺としては異例の巨大さがわかろうという物。それに比べて厚さは薄く出来ています。滑尺の滑りはスムースなんですが、オールプラスチックのカーソルにやはり尺の表面との摩擦で擦り傷が入るのは仕方がありません。ただカーソル面が若干のカマボコ状になっていてほんのわずかマグニファイアの効果があるようです。電子科出の計算尺ですからこれ一本で無線系の資格試験は何ら不足するところはありません(笑)惜しむべくは検定用計算尺なので、√10切断ずらし系であることくらいでしょうか。但しC尺D尺はもちろんのことCI尺DI尺にもπマークがありますから、無線工学系の計算などでもあまり不便は感じません。ご丁寧にもC尺上には2πのゲージマークすらありますし。
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