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June 26, 2006

缶コーヒー1本分でHEMMI No.P24

 戦後の六三三制を基本とした教育改革で、計算尺は新制中学校で扱われることとなり、戦後の一時期に廉価版の計算尺が雨後の筍のようにたくさん現れてはそのままフェードアウトしていきました。当時の感覚で言うと三角定規や分度器のセットになった「製図セット」と同じ価格帯の商品が必要であって、そのためにいかに安く作るのかが問われたわけであり、木製尺にペイントを塗って目盛を振ったものや、透明なセルロイドを曲げただけのバネなしカーソル、まるで定規と似たような厚さのプラスチックを組み合わせたものなど、長期の使用に耐える道具ではなく、授業という一過性のイベントに対するその場限りの教材という意味合いの強い物であったことは、小学校1年の時に配られる「さんすうセット」の計数タイルあたりと何ら変わる所がない、強いて言えば「使い捨て」同然のものであったところが、HEMMIあたりの同じく中学生用、No.43やNo.45あたりとコンセプトを異にしている所です。その中でもHEMMIのNo.22は別格ですが、P23及びP24は廉価版中学生用計算尺としても使い捨てという感じはまったくない良心的な製品ではなかったかと思います。
 ヘンミのNo.22は、中学生用というポジションながらも面白い作りの計算尺で、普通の計算尺は固定尺の間の滑尺を動かすことで計算操作を行いますが、No.22はブリキのバックプレート上の固定尺と滑尺の2本で計算するような構造です。その廉価版学生尺のポジションを受け継いだNo.P23及びNo.P24は固定尺2本の間に滑尺が挟まれた普通の計算尺の形態をしており、P23はABCD尺、P24は√10切断ずらし尺を備える点が異なります。No.43やNo.45と異なって表面にしか尺が刻まれておらず、滑尺裏の三角関数がすっぱりと省略されているところが大きな相違点です。中学の学習指導要領では数学に三角関数は取り扱わないはずですし、そうなるとわざわざNo.43やNo.45は余計な機能を買わされているわけですが、なぜかP23とP24は昭和40年代末まで残らず、No.43とNo.45はプラ尺にモデルチェンジしながらも中学における計算尺教育が無くなるまで存在し続けるわけですが、考えようによっては高度成長期にあってはすでに廉価版計算尺の存在意義が失われたということなんでしょう。
 複雑な計算をこなすという実用性とはかけ離れた学生用計算尺は、「これなら試験にも使える」と思うNo.45K系統しか興味がありませんでした。なのになぜP24なのかというと、今回のP24はオクの開始価格が50円で、1名の入札がありましたが、50円しか値段がつかないのも気の毒なので、末期の定価分で入札したらあっさりと120円で落札となってしまったものです。それでも缶コーヒー一本分にしかなりませんが、世の中には1円で大物を釣り上げている人もいますので自慢にはなりません。でもまあ定価も安いが落札額もいままでの最安値を更新して堂々の一番安い計算尺落札となりました。それでもこの手の廉価版は500円も出せば未使用品が落札出来ることもあるのですが、500円をまともに払う気はないし(笑)
 値段にではなく一つ興味を引かれたのは、実はHEMMIの初期のプラ尺に共通する「裏側をプラスチックのブリッジ2カ所で接合する」構造が、どうやら技研のOEMくさい感じがしたことです。実際に山梨の技研工業はヘンミのOEMをたくさん製造していますが、その時期に関しては昭和30年代中期以降のNo.P253あたりからではないかと思っていました。ところが、P23およびP24がヘンミブランドのOEMだとすると、技研とヘンミの関係というのはもっと遡ることとなります。ただし技研のラインナップにはP23およびP24に該当するような「三角関数を省略した廉価版」の該当品が見当たりません。技研ブランドで180円の計算尺を作ってもしょうがないということだったのでしょうか?さらに技研OEMのプラ尺はブリッジが緑の成型品であることが多いようですが、多くのp24は黒の成型品です。
 当時のNo.45同様に1〜2の目盛が5"のポケット尺同様に0.2単位で刻まれています。2〜3なんか0.5単位ですぞ(^_^;) この目盛の単位はRELAY No.80などの初期の6インチ学生用計算尺に共通で、当時の学習指導用要領上でこういう目盛の単位しか要求しなかったのかもしれませんが、円周率が約3ではまともな計算が出来ないように計算する道具としてはちょっと困ってしまいますし、いくら初級の試験にとは言え、計算尺検定に持って行くことは出来なかったでしょう。こんな計算尺ですから、No.43とNo.45が10インチ尺と同様の目盛単位のそれぞれNo.43AとNo.45Kにモデルチェンジした昭和37年頃にはすでにフェードアウトしたのでしょうか?PAUL ROSS氏によると生産は昭和38年までとなっていますが、廉価版の扱いか故に文房具屋でのデッドストック生存率が割と高いようで、製造期間の短さの割には珍しい計算尺ではありません。
 入手したP24はその落札金額故に本来であれば茶色の貼箱にシールで大きくP24と貼られているケースが欠品でした。定価は初期は180円、末期は300円です。けっこう箱だけでもコストを食っていたのでしょうからむき出しのままビニールのカバーにでも入れて販売しても良かったような気がします。尺の配置および目盛の刻み方は同じ中学生用のNo.45(Kのない方)とまったく同じで、違うのはプラスチック素材であることと、裏の三角関数及び対数尺が省略されていることです。刻印はNDで昭和38年4月製造ですからP24としては殆どラストイシューという製品でしょうか?最終型故か裏のプラスチックブリッジがP253同様に緑の成型品でした。この裏のプラスチックブリッジは接着かと思ったら、固定尺と溝で食い込むはめ込み接着なんですね。下の固定尺の接着が甘くて、上と下の固定尺の目盛が少しずれていました。38年はP24の最後ということは、今回の計算尺は300円のロットですが、考えるにP24の生産を止めた後は、技研ではNo.P45Kの供給をHEMMIに対して始めたのではないでしょうか?裏のプラスチックブリッジの成形色の緑を見て、そんな感じがしました。しかし、中学生用として授業でほんの何回か使う分にはP24でまったく構わないはずなんですが、高校に入学しても使えると言うことで、No.45あたりを勧められたりしたのでしょうか?工業高校に入ったらNo.45では済みませんし、普通高校に進んだら計算尺無しで計算しなければ済まないのではないかという気もします。そういう観点からすると、実際に中学で勉強しない、三角関数と対数を買わされることになるNo.45よりもNo.P24のほうが商品としては良心的だと思いますが?(^_^;)
HEMMI No.P24の表面拡大画像はこちら
HEMMI No.P24の裏面拡大画像はこちら

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Comments

じぇいかんさん、

度々すみません。先程、No.P23の記事を読ませて頂いて、既に、P24でえRLをご確認であることを知りました。先のコメントは無視してください。

大変失礼いたしました。

ちなみに、私はP23の「ヘRL」を持っています。ご参考まで。

ぐぁんかい

Posted by: ぐぁんかい | January 26, 2014 09:12 PM

ずいぶん古い記事へのコメントで申し訳ないのですが、先日入手したHEMMI No.P24が、刻印「ヘRE」で1967年5月製造のようでしたので、情報としてお知らせしておきます。ブログに写真を上げましたのでご興味がお有りでしたらご覧になってください。

Posted by: ぐわぁんかい | January 26, 2014 05:30 PM

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