HEMMI No.130 ダルムスタット尺
お盆の帰省シーズンが近づき、日本列島民族大移動を控えるとどうもオークションの出品も入札も低下してきます。まあ、お盆の帰省シーズン前の物いりの時期にこまめにオークションを検索するどころの騒ぎではないのでしょうが、正月とお盆には思わぬ拾いものがあるのでこちらにとっては要注意週間なのですが(笑)
5月6月7月とよくもまあいろんな計算尺がオークションに掛かりましたが、手当たり次第に次々と入札してゆくニューカマーさん達がまた新たに現れてきましたので、こちらの出番はなく、しばらく計算尺の入札から遠ざかっていました。しかし帰省シーズン前の拾いもので、思わず入手したのがこのヘンミの10インチダルムスタット尺 HEMMI No.130です。このダルムスタッド尺というのはヨーロッパでは普通な存在らしいのですが、日本ではヘンミ以外には見当たらないような気がしますが、どうでしょう? 滑尺の裏側にLL尺があり、片面計算尺のくせにべき乗計算が出来るということが特徴ですが、三角関数は側面に目盛られていて、カーソルに補助のサイドカーソルが付けられているのが目立ちます。カーソルグラス上に補助線があり、hp/kW換算などが出来るのはシステムリッツのNo.64と同じで、カーソルも昭和38年製No.64とまったく同じものがついていました。お約束通りケース無し説明書無しのシロモノで、相手は計算する道具という認識はまったくなかったようですが、不鮮明な写真にNo.130を確信して落札したものです。実は5インチのポケットダルムスタット尺であるNo.135は昨年よりけっこう頻繁に出たのですが、10インチのNo.130はここ1年ほど検索に引っかかったことがないような気がしますが、やはり一般的なNo.2664Sに比べると数が少ないのでしょうね。リッツのNo.64同様に表の尺には尺の種類が一切刻印されていない割り切りようは、いかにも「技術屋は知っていて当然」という、初心者を遠ざける計算尺ですが、No.130はNo.64のマイナーチェンジ版のNo.64T同様にNo.130Wになって尺種類が刻印されるようになります。まあ余計な尺が増えたための親切心からでしょう。ダルムスタット尺No.130にも2タイプあるのが知られており、初期型は裏側のセンターにシステムダルムスタットの刻印とヘンミマーク及びNo.130のモデルネームがあるもの、末期型は40年代のNo.2664S同様、表の上固定尺左にシステムダルムスタッド、右肩にNo.130、下の固定尺右にSUN HENNMIの刻印があるものです。今回のものは裏側にネームのあるごくありふれたNo.130です。また、初期の2664S同様に上固定尺とアルミの裏板をネジで接合するタイプと30年代末期以降のピンで固定する2タイプがあるようです。
ダルムスタット尺は片面計算尺の滑尺裏には必ず鎮座する三角関数系の尺を下固定尺側面に追い出し、代わりにべき乗のLL尺を持ってきたところが最大の特徴ですが、そんなにLL尺が必要だったら両面計算尺を使えと言われると二の句が告げません(^_^;) マンハイムやリッツ、√10切断ずらし系などの諸形式と比べると新しいタイプの計算尺ですが、日本ではさほど必要とされなかったのは両面計算尺が豊富に、しかも専門分野別に揃っていたからでしょうか。HEMMIではNo.130シリーズの10インチ6インチ5インチ尺のほかにもプラスチックのNo.P280シリーズがあり、これはすべて外国向けのビギナー尺として例の山梨は甲府の富士技研で作られたようですが。
今回のHEMMI No.130は神奈川のリサイクルショップから手に入れたものです。売り主は「計算尺」という存在をご存じないようで、他の計算尺マニアの鵜の目鷹の目検索に引っかからなかったか、もしくは単なる汚い2664Sとしてスルーされたようで、まったく競争相手が無く500円でゲット。年に何回かこういう掘り出し物にぶつかるので手元に計算尺も増えていきます(笑)届いた計算尺は久しぶりに埃にまみれて所々黄色い染みの浮き上がった汚い計算尺でしたが、予想通りNo.130のダルムスタット尺で、特筆すべきは経年変化で滑尺がスカスカの片面尺が多い中でまったく動く気配の無いほどピッタリとはまりこんでいたことです。こういう計算尺は手を掛けると非常にいい状態まで持ち込むことが出来ます。製造刻印はIEで昭和33年の5月の製造。釣り針型に足の跳ね上がった「π」マークとBOX型の目盛が古いHEMMIの計算尺を思い出させますが、実はNo.130に限っては昭和44年のラストまでこの釣り針型のπマークと裏換算表のネジ止めが変わらなかったのがなぜか不思議な感じがします。また上の固定尺はアルミの裏板にネジで固定されるタイプで、裏から見ると換算表もネジ止めされているために、マイナスネジの頭が3つ露出して見えます。カーソルはやはりリッツのNo.64とまったく同じで、本来はNo.130用に作られたサイドカーソル付きの物をNo.64に流用したようなものなんでしょう。ただし昭和38年製のNo.64の副カーソル線の色は緑のようですが、この昭和33年製No.130の副カーソル線は右も左も赤でした。 久しぶりにサビ取りペーストを出してきて磨き上げるとさほど染みも目立たなくなり、古い歯ブラシで滑尺と固定尺の溝をこすって蝋引きすると非常にスムースに滑尺も動くようになりました。カーソル面はレンズクリーニング液で磨いただけでお終い。滑尺裏のセルロイドカーソル部分に黄色い接着剤が肉盛りされていて、その接着剤が表にもあちこち付着したあとがあるので、なんでこんなことをしたのかと考えると、どうやら滑尺をほとんど引き抜いた状態になると摩擦が少なくなって目盛がずれやすくなるために、一種の滑尺フリクションストッパの役目をさせるために接着剤が盛られたようです。まあ、一種の計算尺使いの知恵というものでしょうが、どうせだったら無色の接着剤で肉盛りしてくれ(^_^;)このNo.130は滋賀のKIM氏のグループが昨年復活させたHEMMI No.P135Kのモデルになったそうで、その際に作られた説明書が公開されていますので、基本的な使用法を知るには苦労せず、大変有り難く思ってますが、普段使いにNo.130を使うかといったらそれは???です(笑)最近、あんまり複雑な計算をしないせいか、1/(2π√L√C)や1/(ωC)を計算するのもNEMMIの2664S-Sあたりで事足りてます。あんまり尺の込み入った複雑な計算尺は尺を誤認しそうで、No.2664S-SあたりかRICOHのNo.116あたりが一番目に優しいのでは?(笑)
表面に黄色く残っているのは接着剤(^_^;) あとでもう少し気合いを入れて磨きます(笑)
HEMMI No.130の表面拡大画像はこちら
HEMMI No.130の裏面拡大画像はこちら
| Permalink | 0
Comments