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August 30, 2006

HEMMI No.153 電気用計算尺

Sun お盆休み突入前に入手した10インチダルムスタッド尺No.130でしたが、当方の入手する汚い計算尺の例に漏れず「説明書・ケース無し」でした。説明書あたりは英語版で構わなければどこかの国のHPにヒットするのですが、ケースだけはネットで入手するわけにも行かず、久しぶりに菓子箱あたりの分厚いボール紙の貼箱を捜してきて、文字道理切った張ったで片面計算尺用の貼箱を1つ作ってしまいました。100円ショップで貼箱製作のための粘着シート式の擬皮紙が売られているので、そこそこ良い物が出来るようになり、有り難いのですが、No.P24のケースだけはどうしても作る気がしませんねぇ(^_^;) ゆくゆくは皮ケース製作のための木型と型紙を起こして輸出仕様のベルトキーパー付き皮ケースなんぞを作ってやろうという野望を持ってますけど、今の世の中、「ないものは自作する」という精神がなくなってしまいました。「そんな時間があったらもっと有意義に使う」なんていう人こそ、何も残らない無駄な時間を過ごしているのではないかと、酒も煙草も止めて久しい当方は考えるのですが(笑)
 ところで、戦前の計算尺というとやはりHEMMIが一社で気を吐いていた感じで、他のメーカーは学童用なんかに相当する簡単なものを作る指物師が営んでいる四畳半工場しかなかったというのが実状でしょう。そのHEMMIとしても殆どは外国製計算尺の亜流というべき計算尺の生産でしたが、特筆すべきは昭和一桁の時代から内田洋行という大きな教材商社と太い繋がりがあって、その内田洋行の後ろ盾で国内や海外に向けて計算尺の生産を拡大し、モデルも飛躍的に増えて行くのです。その戦前製計算尺にあって、専門分野の用途として作られたのが電気用の計算尺で、これには片面尺のNo.80シリーズと両面尺のNo.152とNo.153がありました。HEMMIの両面計算尺は技術用のNo.150と電気用のNo.152が共にHEMMI製両面計算尺第一号で、昭和4年のことでした。その後No.150は戦後にNo.250に取って変わられ、No.152は昭和6年発売のNo.153と終戦直後まで併売された後フェードアウトします。戦前の物はHEMMI計算尺の常でモデルナンバーの刻印はありませんが、No.153は戦中戦後を生き抜き、電気用両面計算尺No.255が発売され、その255がNo.255Dにモデルチェンジした後もしぶとく生き残り、その生産は昭和45年8月製のものまで確認されています。従ってまったくのモデルチェンジなしに40年近く生産されていたという驚異の記録を持つ計算尺なのです。それだけ長く生き残ったのも電気関係の技術は電子工学と異なり、ほぼ完成された技術ですので、このような古い計算尺でも十分にその機能を発揮することが出来たこと。また、余計な尺まで買わされるNo.255よりもシンプルでかつリーズナブルだったことも大きいかも知れません。何とか変電所というネームの入ったNo.153を見かけたことがあります。No.255の直接のご先祖はNo.155という電気計算尺ですので、No.153の発展した物がNo.255ではありません。No.153の幅は後のNo.250やNo.251のサイズの原型になったもので、普段255などの両面尺を見慣れた目からすると、かなりスリムな計算尺に見えます。
 戦前のHEMMI計算尺というと、やはり国内・海外を問わずコレクターには人気で、同じ機種でも戦後の物よりはかなりの高額で取り引きされているようです。ということで「"SUN"」マークの戦前HEMMI尺は、いいなぁと思ってもやはりコレクターにさらわれてしまうため、いままで縁がなかったのですが、今回ひょんな事で戦前HEMMIの両面計算尺を入手しました。戦前尺ですからモデルネームがありませんが、PAT.1458857が打たれています。同じパテントナンバーがNo.152にも打たれてますので、電気関係の尺度に関するパテントなのでしょう。電気関係といいましても当方は送電関係ではなく屋内配線系電気工事士ですから、電気系計算尺の有効利用の機会、特に送電線を張るために必要な双曲線関数はまったく必要ありません。とはいえ一応電気系資格持ちですからまったくの異分野の計算尺に手を出したということでないことは、言い訳しておきます(笑)No.153は交流の位相に関する角度とラジアンの変換や双曲線関数などを除けばA,B,C,D尺の両面計算尺で、べき乗尺のLL1,LL2,LL3を備えるのは戦前の計算尺でも珍しい存在です。また、後のNo.255以上に各種ゲージマークが豊富である事も特徴で、2πマークまで備えているのは他にHEMMIではNo.266あたりの電子工学用しか知らないなぁ。そのため、LOGLOG尺のNo.157が出てくる以前には電気関係以外の分野でも不思議と使われたようなフシがあります。ただ不満なところはC尺D尺の4から5の部分の目盛が1/20となっているところで、これは2664S以降の片面計算尺並に1/50であって欲しいところでしたが、考えてみると両面計算尺でC,D尺の4から5までが1/50で刻んである物はNo.266とかNo.P253系統、254WN以降の高校用計算尺なんかに限られるようです。それに比べるとRICOHの両面尺は殆ど1/50刻みです。ほかにHEMMIの両面尺でC,D尺の4から5までが1/50刻みになっている機種にどんなものがあるか、暇な人は調べてみましょう(^_^;)
 このNo.153の出所は尼崎からでした。「下妻物語」ではヤンキーとヤンキー予備軍の町、そして生まれてすぐにジャージーを着せられ、そしてジャージーを着せられたまま死んでゆく町などと揶揄されているあの尼崎からです(笑)そういや友人が送ってくれた我が2本目の計算尺であるNo.64も尼崎の某鋼線メーカー実験室からここにやって来たんじゃないですか(^_^;) 戦前のNo.153はセルが黄色く変色し、金具には錆が浮きまくっているのが多い中にあって、このNo.153はセルが煤けているのは仕方がないにしても、金具がきれいなことは特筆物で、カーソルのメッキさえも曇っていないのは、これが本当に70年前の計算尺かと疑わせるほどのコンディションでした。しかも、ケースなど失われていたかと思いきや、皮ケースが付属していたことに驚きました。もっとも日中戦争突入後で、物資がだんだんと統制されてきた時代の尺だからか、皮ケースはボール紙の表面にしぼ皮の模したものを張り付けた物。蓋はボール紙だと耐久性に欠けるので、ステープルファイバーの薄布を3枚重ねた物の表面にしぼ皮を模した物を張り付けたオールペーパー系素材で作られていました。皮ケースでないことが幸いして湿気をさほど引かずに戦前尺ながらかなりいい状態で出てきた物と思われます。同時におびただしい数の工具が出品されていましたので、電気系の廃業町工場あたりの引き上げ品に混じっていたのかもしれません。しかし、戦争以前の計算尺の目盛を透かして、若者がどういう未来を見ていたかと考えると「幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました 幾時代かがありまして 冬は疾風吹きました」の一節を思い出し、その歴史の重みを感じます。そういうのって計算尺鑑賞道でしょうか?イカン イカン(^_^;) そういえば固定尺と滑尺の竹の組合せ方が戦後の両面尺と異なります。基本的にこのNo.153は表と裏の2ピースの竹に凸と凹の竹を組み合わせたような構造になっていました。
 煤けてはいますが状態も良く、70年の風合いを残してこのままにしておくか、磨いてピカピカにするべきか試案のしどころでしたが、パソコンクリーナで磨いたら昭和40年代のNo.153のような感じに(^_^;) カーソルガラスをレンズクリーナで磨いたら赤の塗料が取れてしまいましたので、ポスカを溝に塗り込んで乾いたところでガラスを磨き、色上げが完了。
 そういえばNo.153の最終ロットで定価が6,000円の未開封新品が出品されていました。さすがに製造期間がほぼ40年ですからそうは珍しい物ではないのですが、あの値段設定はちょっとねぇ(笑)みんな夏休み明けで資金不足の状態でしょうし…
No153
御年70歳になろうとする計算尺にはまったく見えないほど…
HEMMI No. 表面拡大画像はこちら
HEMMI No. 裏面拡大画像はこちら

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Comments

cyno_yさん、こんばんは

 いろんなNo.153を照合してみたら、やはり戦後のNo.153のC,D尺の4から5までの間隔は1/50が最低目盛に改められてましたね。
他の両面尺で1/50が最低目盛になっているのは意外なことにNo.250、P253、254シリーズの後期、264,266,P267あたりでしょうか。
主要な両面計算尺、特にNo.259Dや260さらにP261が最後まで1/20だったことは少々納得できないような(^_^;)
 

Posted by: じぇいかん | August 30, 2006 09:07 PM

じぇいかんさん、こんばんは。

戦前のNo.153は既に持っているので、今回のオークションでは手を出さなかったのですが、これほど状態が良かったのならば、入札しておけば良かったかなと後悔しています。

No.153はもう一本、OCCUPIED JAPANの物も持っているのですが、こちらは4から5の間の目盛が1/50刻みになっています。他のHEMMI製片面10インチ尺でも、4から5の間が1/50刻みになったのは戦後のことのようです。

Posted by: cyno_y | August 30, 2006 08:20 PM

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