ユニークな電気尺 RICOH No.157
三愛計器時代のRELAY計算尺はだいたい昭和29年あたりから飛躍的に輸出が増え、OEMブランドがHEMMIと比べてもかなりの数に上ったということは、スポット的な契約を含めて節操なく計算尺でドルを稼ぎまくったような感じです。有名どころではPICKETやTRIOのアメリカ総代理店だったLAFAYETTE、ドイツの総合文具メーカーSTAEDTLER-MARSなどの名前も見受けられます。初期のRELAY計算尺は、その殆どが代理店の要求によって設計されたような感じで、そのため初期の両面計算尺の中にはHEMMIにないユニークさを備えるものがあります。今回入手したNo.157両面電気用計算尺もそのユニークな両面尺の代表格の1本です。
HEMMIの両面計算尺の始祖はNo.150ですが、RELAYの両面計算尺の始祖も同じNo.150という計算尺です。この150から始まった両面計算尺シリーズは151から154までが尺数の多い少ないがありながらもLOGLOG尺、155が経営管理尺、156が電気(電子)尺、158から159までが電気尺というようなラインナップになっています、このなかで151と159が延長目盛付きでオフサイズの長い計算尺です。この150番台シリーズはいくつかがRICOH時代になっても継承されますが、その中でも156あたりはNO.2506に、158あたりはNO.2509あたりにモデルチェンジしてより機能が強化されたようなものもあるようです。
ところで、古いRELAYの計算尺には片面計算尺にはR-とかB-とかのアルファベット1文字が、両面尺にはDT-とかDB-などの2文字が付くものがありますが、これは基本的に2文字の頭Dは両面尺の識別記号、その他Tは一般・機械技術用、Bは一般・事務用、Eは電気用、Aは土木用、Sは特殊、Rは学生用、Kは教授用なんだそうで、数字の部分の最初は長さを表し、その後ろは品番なんだそうです。それにしても結局作りもしなかったカテゴリーがあるなぁ(^_^;) しかし、DT-1015なんかがあまり見られないのはその後、頭のアルファベットの組合せを廃止してしまったからのようですね。また、このアルファベット付きの品番は輸出用の計算尺の品番なんだそうですが、その真偽は定かではありません。でもその基本的な部分が後の計算尺の品番にも現れてますが、RICOHのNo.2506という型番はもはや20インチ尺の意味ではありません。自動車の7ナンバーが本来の意味を失って2,000ccまでの小型乗用車の種別になったのと同じ事ですか(笑)また、アルファベットの種別が頭に付いたRELAY時代の計算尺は、すべて輸出向けに用意された機種との話もありますが、国内にもアルファベット付きのRELAY尺がありますから、一概にそうとも言えないようです。もっとも団塊の世代が中学や高校に進学するまでの間は、RELAY計算尺の生産の殆どは「ダブルスター」印で輸出向けに生産され、国内向けにはあまり力を入れていなかったような様子がうかがえますが。
今回入手したNo.157は三愛時代のRELAY計算尺昭和34年のカタログにはもう掲載されていて、その時代はカーソル枠がなく、カーソルのブリッジがストレートタイプの四角いカーソルが付属していましたが、すぐにRICOHにも継承されたカーソルブリッジがラウンドタイプの大ぶりなカーソルにマイナーチェンジします。あまりにも個体数が少ないので後にカーソル枠付きのものになったかどうかは確認できていません。尺種類は表が Sr,Sθ,P',P,[Q,CF,CI,C]D,DF,LL2.LL3で裏がSh2,Sh1,A,[B,K,Th,C,]Tr1,Tr2,dBの22尺ですが、表滑尺のC尺末端に延長部分を赤目盛で設けて赤字のLL1'としているのですがどう使うのでしょうか。何がユニークかというとこの計算尺はπ切断ずらし尺なのですが、滑尺表の普通は上固定尺の下に鎮座するべきDF尺が下固定尺のD尺の下位におかれていることです。普通はDF尺CF尺のあるべき場所にP尺Q尺がおかれているからなのですが、CF尺とDF尺の距離が離れたために、必然的に読みとり精度が低下したはずです。電気尺は一般計算より位相とか力率とかそういう計算のプライオリティが高いとでも考えたのか、それにしてもこんなレイアウトの両面計算尺は他に知りません。P尺の逆数尺も備えていますが、三角関数系の数値はすべて表の上固定尺で計算するようになっているようです。Sinがラジアンとシータの両方で換算無しにそれぞれの尺を備えるのは便利だけど、所詮あたしゃ発電・送電系じゃないから使いようがないなぁ(^_^;) 裏は主に双曲線関数とラジアンで目盛られたタンジェントの計算がメインのようですけど、こっちも当方にはあまり関係ない分野です。まあ、電力系の計算に関してはかなりよく考えられて作られており、こと電気数学に関しては一般の計算の比重が高いHEMMIのNo.255Dを遙かにしのぎます。どちらかというとHEMMIのNo.153のアドバンスとして設計されたような感じがします。それゆえにある程度専門知識がないと使いようがないのは、どの専用系計算尺の場合でも同じでしょうか?(笑)
入手先は教育県である長野の南部、伊那谷からでした。代理入札業者の餌食になりかかりましたが、すんでのところで捕獲しました。157だったらアメリカの方が数があるはずなのに(^_^;) 残念ながら最初からケースがありませんでした。RICOH時代のものですが、ちょうど透明な塩ビのケース時代のもので、ケースがバラバラに風化してしまったのかもしれません。赤蓋ベージュのRICOH初期の貼箱だったら残ったのでしょうが、塩ビの透明ケースが付いていたと推理するとだいたい昭和40年から42年にかけての製品だと思われます。というのも製造刻印をいくら捜してもあるべき所に打刻されている様子がないのです。25倍のルーペで拡大しましたがわかりません。40年選手ですから煤けてはいましたが、セルはまったく黄変しておらず、それでなくとも傷が付きやすいこの手のカーソルにしては奇跡的にもすり傷も認められませんでした。ほとんど使われたこともないようで竹の断面もまったく汚れておらず、滑尺も何もせずにスムースにスライドする上の部類でした。そのため分解もせず軽くパソコンクリーナで磨いただけで終了。このNo.157は横幅こそNo.1053と同じHEMMIの普通の両面尺より2ミリほど幅広の計算尺なのですが、同じRICOHでありながらNo.1053よりも若干長さが長く、1053が32.2cmのところをNo.157は33.2cmと1cmほど長い計算尺となり、さらに長いNo.151がありますので、RELAY/RICOHの10インチ両面計算尺は長さだけでも3種類が存在したことになります。そのためケースが共用出来ませんが、成型品の塩ビもしくはポリエチレンのケースはすべて蓋の長さで寸法を合わせていたようです。オーバーレンジ付きの151はともかく、10インチ両面尺は1種類に長さを統一出来なかったのでしょうか?
帆布のようなジーンズ地の端切れを買ってきて自作した10インチ両面尺用布シースの試作品が1本空き家だったので、それにめでたく納まり一件落着。あたしゃミシン掛けも意外と得意なんです(笑)連休中には、貼箱も自作する気も失せてそのままうち捨てられていたNo.P24用の専用布シースも自作してしまいましたし(^_^;) コーデュラナイロンの原反とベルクロの巻き、ロックミシンさえあれば計算尺用のナイロンシースも量産出来るんですが、手間賃込み10インチ用シース1個1,000円は高いかしら?
ずらし尺を使用してその答をD尺下のDF尺で見るというのは、けっこう感覚的に「気持ち悪い」とはいいませんけど、操作が異なるので妙な気分にさせられます。差詰め、アクセルペダルが真ん中に鎮座するT型フォードにいきなり乗せられたようなものですか(笑)
RICOH No.157の表面拡大画像はこちら
RICOH No.157の裏面拡大画像はこちら
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Comments
norihito4さん、こん**は
有益な情報、ありがとうございます。
実はこのファイル、以前ダウンロード済みだったんですが、中身を確認しないまま放置してました。
ご指摘がなければ更に放置だったと思われます(^_^;)
Posted by: じぇいかん | September 29, 2006 06:59 PM
じぇいかんさん、こん**は。
No.157 の C尺付属の LL1'尺度の使い方ですが、
英語で良ければですが、『Gregの計算尺』の『マニュアルダウンロード』のページ
http://sliderule.ozmanor.com/man/man-download.html
にある、『 Relay Duplex Instructions 』マニュアル (ZIPファイル) を
ダウンロードすれば得られます。
解凍すると、20個のJPEGファイルになり、目的の LL1'尺度の説明は
15~17ページ (relay-11.jpg, relay-12.jpg) にあります。
また、No.157 の電気関係計算の説明は 18ページ (relay-12.jpg) 以降に記述されてます。
Posted by: norihito4 | September 29, 2006 02:11 AM