RELAY No.512 ポケット計算尺
久しぶりに計算尺ネタになりますが、当方の現在までの50本あまりのコレクションのうち、ポケット型と言われる4インチと5インチの計算尺はほんのわずかしかありません。実際に計算尺を持ち歩いて使うということはないので、精度的に10インチ尺より劣るポケットタイプを揃える必要がないと言うこともありますが、パソコンに至っても今ではノートタイプが一台もなくディスクトップオンリーということで、性格的にもモバイルは何か犠牲になる部分があっていざというときに信用ならないという感が強いのかもしれませんが、計算尺における「いざというとき」ってなんだ?(^_^;)
ということで、HEMMIのNo.149Aには興味があるものの「1万円以上出すんだったら安い10インチの計算尺を4〜5本落札するほうがいい」というようなポリシーなので、他のポケット尺にも普段はあまり見向きもしません。ポケット尺はなぜかABCD配置のマンハイム尺が多く、どれも似たような物というのも食指が動かない理由でもありますが、今回のRELAY No.512は100円の開始価格で120円にしか上がっていなかったので、別に特段目の色を変える必要はなかったのですが、適当に入札したら220円で落っこちてしまったシロモノです。ところが、よく調べてみるとマンハイムのRELAY No.505はごく普通に出てくるのですが、√10ずらし尺のNo.512は、当方がポケット尺には淡泊なため見落としがあったかもしれませんが、ここ1年半の間はオークションに出てこなかったかもしれません。No.512というナンバーからHEMMIのNo.2664SにおけるNo.2634のように、RELAYのNo.112のサブセットかと思いました。しかし112はπ切断ずらしなのに対して512は√10切断ずらしですから、むしろNo.114に近いのですが、ポケット尺故の差別化かK尺が装備されていないので、10インチ尺のサブセットを意図して作られたわけではなさそうです。さらになぜか外国の計算尺系WEBを検索してもNO.512の情報にヒットしないのですが、もしかしたらOEMブランドで製造した余剰分にRELAYの型番を付けて国内に流したのかもしれません。そのため、国外にはNo.512という品番が存在しないためにヒットしないのかもしれませんが、OEM先名と型番がわかりましたら誰か教えて下さい。
前回も書きましたが、RELAY/RICOHの型番最初の桁は長さを表しますので、400番台は4インチ、500番台は5インチの意味ですが、これ以前の輸出用にはB-とかE-などの頭文字が付けられ、用途がわかるようになっていました。差詰め、この512に用途別の頭文字を付けるとすると、B-512というところでしょうか。そういえば5インチの両面計算尺で「DB-」の記号が付番されているものを見たことがあります。
しかし、いくら5インチのポケット尺だとはいえ皮ケース付きで220円はないと思いますが、現在までの最安落札価格がNo.P24の120円ですからそれに次ぐ安値落札でした(^_^;) 刻印はJ.K-2で昭和36年2月鹿島工場製と推察できます。当方、RELAY/RICOHの製造所刻印は「S」が佐賀工場、「K」は同じ佐賀県内の鹿島工場説を採っています。この根拠はリコー創業者、故市村清氏の出身地が佐賀県であり、理化学研究所の感光紙事業を独立させた理研感光紙株式会社/理研光学工業株式会社の設立以前の昭和10年12月に、郷土佐賀県の産業振興のため日本文具株式会社を設立し、それが東洋特専興業→日本計算尺→リレー産業→三愛計器→リコー計器となってゆくわけですが、氏はビジネスの拠点を東京に構えたのちも常に郷土佐賀県のことを考え、佐賀市に体育館を寄付したりして郷土に貢献しているのは、グリコの創業者江崎利一氏と同様です。その市村氏が佐賀を材料調達と製造を一貫して行う計算尺産地にしたわけですから、Kが佐賀市以外の佐賀県内のどこかと考えるのが普通です。ところが佐賀県内にはけっこうKのつく地名が沢山あり唐津市・神崎町・鹿島市などがありますが、RELAY/RICOHの説明書に鹿島市内の印刷工場で印刷・製本された物があって、印刷物だけ佐賀市以外で調達するというのが不自然ですので、計算尺の組立工場が直営か下請けかはわかりませんが鹿島市内に存在したという有力な根拠と考えています。印刷物の打ち合わせや校正を離れた印刷屋とやり取りするのは極めて困難です。ましてFAXなんか無い時代ですから、鹿島市内の印刷屋とつき合う以上は鹿島市内にの生産拠点があって「K」の刻印を区別のために使っていたとするのが妥当でしょう。ましてK刻印の意味するところが、今と違って情報も人の行き来も佐賀と隔絶された埼玉の川越ってことはないでしょう。このK刻印ですが、40年代以降はS以外の刻印が見つからないので、佐賀工場に生産が集約されたと見て構わないようです。ただ佐賀市隣接の神埼町(現、神崎市)にも生産拠点があって、そこの生産物にK刻印を打ってもおかしくないような気がしますが、説明書の印刷が鹿島市内であることからしても、可能性としては鹿島のKの可能性が高そうです。
5インチの計算尺がうちにはHEMMIのNo.2634とNo.74の2本しかないので、もともとうちにあった父親所有のNo.2634と比較していきますが、2634はK,DF,[CF,CI,C] D,Aの7尺なのに対してこのRELAY No.512は2634と比べると上固定尺上にK尺のない6尺です。もっとも5インチの長さの中でどうやってK尺の目盛を正確に読みとるのかという精度的な問題もありますので、「ポケット尺にK尺なんか無意味だよ」という割り切りだと解釈すれば、それもまた清々しいのですが(笑)1尺足りないからか、幅も2634と比べると若干スリムな計算尺です。2634の上部に刻まれているスケールは14センチなのですが、この時代のRELAY/RICOHの法則通りC尺D尺の1の部分からスケールの0センチが始まっているので、こちら512は13センチしかありません。ところが512の方は下の固定尺横に5インチの長さのインチスケールが刻まれています。HEMMIだったら上部スケールをインチサイズに刻み直して輸出用OEMとするのでしょうが、こちらはこれだけでどちらにも対応できるような配慮でしょうか(笑)2634はそれなりのゲージマークを備えていますが、512のほうはπ以外のゲージマークがありません。512はCマークさえありませんが、なぜかA尺上にもπマークがあります。C尺D尺上の1〜2の間の0.1単位にすべて数字を振ってあるのがRELAY/RICOHっぽい配慮です。さらに5インチ尺なのにも係わらず、512の裏側にはそれなりに使える換算表が備えられています。ケースは2634の方はうちのは30年代のものなので、オープントップの豚皮ケース。これに対して512の方は薄い皮に茶色いビニールコーティングでもしたようなペナペナの、しかしフラップ付きのケースでした。後の時代には緑色の皮ケースというとんでもない色合いの組み合わせとなりますが、それに比べるとマシでしょうか(^_^;)
上がRELAYのNo.512で下がHEMMIのNo.2634です。
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