ラリー計算尺
1960年代、国産乗用車の技術の進歩と共に日本でも一般のモータースポーツ熱も高まり、各地でラリーなどが盛んに開催されるようになりますが、当時はまだまだ一般サラリーマンが無理して購入できるのはスバル360を始めとする軽自動車くらいなもので、庶民にとってはCB-72やYDSなどの250ccオートバイにしても、今の感覚からしてみると高級乗用車を購入するようなものだったかもしれません。そのような中で国産車とはいっても410のブルやベレGを転がしてラリーにうつつを抜かすのはごく限られた金持ちのぼんぼん趣味だったようで、彼らがラリー参戦用として後付のトリップカウンタと共に指示速度修正計算とナビゲーション用に車内に持ち込んだのが手動計算機とラリー計算尺でした。この手動計算機にしても庶民が趣味で購入できるような金額のものではありません。車にしても手動計算機にしても親の会社の資産として購入されたものだったのでしょう。最近でもよくオクに「昔、ラリーに使用するために購入した」とされるパイロットのP-1あたりの小型手動計算機が出てきますが、やはり狭い助手席で使用するとなるとクランクが手前にオフセットされたP-1あたりが最適だったのでしょう。今では一般の計算用具同様にラリーも専用のラリーコンピュータが使用されるデジタルの世界になって久しく、手動計算機もラリー計算尺も使われることはありませんが。また、ラリー用の円形計算尺もアメリカからの輸入品(ちゃんとマイルとキロの両方の表示になっていたのでしょうか?)は当時1ドル360円時代で7千円くらいしたそうですから、HEMMIの両面計算尺よりも遙かに高価なシロモノだったようです。お金のない国立大の自動車部チームがラリー学生選手権(こんなものがあったのですね)にタイガー計算機はおろか、学校で使用している普通の計算尺とチャートしか持ち込む事が出来ず、金持ちの私立大自動車部のぼんぼん連中から笑い物になったという話も(^_^;)
さて、このような特殊な趣味の世界に特化した計算尺ですが、一時期の一般モータースポーツ熱の高まりと共に数社から発売されていたらしく、とはいっても日本では計算尺屋さんから発売されていたのはコンサイスのラリーメイトくらいなものでしょうが、この種の円形計算尺は昭和55年頃から初期のラリーコンピュータが出てくるまで使用されていたようです。このバンブルビーという商標のラリー計算尺はそもそもE-6B系統のフライトコンピュータの円形部分を巨大化して思いきり簡単にしたような構造で、速度・時間・距離の計算に特化した円形計算尺です。コンサイスのラリーメイト(登録商標らしいです)は計算尺屋さんの設計ゆえ、それなりに高機能ですが、他のラリー用計算尺はレーシングメイトあたりのオートアクセサリー屋がどこかの町工場でアメリカはスティーブンスの製品をコピーさせたような簡単なシロモノです。このバンブルビー(BBB)というブランドは今でもフェローズというメーカによってモータースポーツウエアのブランドとして盛業中ですが、もちろんこの時代のBBBとはブランド名とマークは同じながらまったく違った会社なのでしょう。もしかすると製造元が同じOEMブランドのまったく同じ計算尺が何種類かあるのかもしれません。
ラリー計算尺というのは「これは、互いの角度を固定できる2本の針をもった円盤式計算尺で、まず一方の針をルートマップ上のOMCPの距離の目盛りに合わせ、もう一方の針を自車がこのOMCPまでに走った時点でのトリップメーターの距離の目盛りに合わせて2本の針の角度を固定する。その後、最初の針を指示速度の目盛りに合わせると、もう一方の針が指す目盛りの速度が、自車が走行すべき速度になるというもの」ということで、オフィシャルの計測した距離と自車のトリップメーターの誤差を2つの針によって指し示すことで出すべき速度の修正をするための計算尺ということになるのでしょう。ラリー用の手動計算機と計算尺の使い方に関してはここが詳しいので、興味のある方はどうぞ。ここの記載によるとこのバンブルビーのラリー計算尺はアメリカのスティーブンスのラリー計算尺殆どそのものですな(^_^;) コンサイスのラリーメイトはオリジナルとII型及びDXの3種類があったようで、どれもアメリカはスティーブンスのラリー計算尺をアレンジした改良版とのこと。それにしても素っ気ない円形計算尺ですが、夜間走行時に細かい目盛を誤認するのを防ぐために、9インチという巨大な円形計算尺で、かつ目的以外の尺度を一切切り捨てた計算尺です。それにしても自車のトリップカウンターと実走行距離の誤差を計算して速度の修正を行う機能は、実生活ではやはり使いようのないものですが、速度と経過時間・走行距離の関係を連続的に見ることが出来るのはフライトコンピュータ同様にドライブプランの作成には便利かもしれません。でもまあ、今ではドライブコンピュータ並の機能を持つカーナビなんか普通ですから、普通の計算尺以上に現代では無用なものでしょうか(^_^;)
届いた円形計算尺は、薄々気が付いてはいましたが直径9インチのプラスチック製円盤で、その巨大さにせいぜい4インチ程度の円形計算尺を見慣れた目には驚かされましたが、目盛部分の直径は21センチですからその基線長は66センチにも達します。その目的が、普通の計算尺だと読みとり精度を高める目的と相場が決まっているのですが、ラリー計算尺の場合は視認性を高めるという目的のみだというのですから、流石は特殊用途の計算尺です。今回入手したラリー計算尺は本体にはメーカー名も原産国の表示もまったくなく、ケースのみに「バンブルビー」のネームとマークが入っていましたので、おそらく仕向け先によってケースの印刷だけ変えた兄弟がまだまだいそうです。ちなみにコンサイスラリーメイトDXは定価8,800円だったようですが、今回のようなスティーブンスの製品の丸コピ商品は5千円を切るくらいの定価が付いていたらしいです。それにしても当時としては「高価な」計算尺だったようで…。(下の計算尺は大きさ比較のための5インチHEMMI No.2634)
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