RELAY No.84 学生用計算尺
8インチの学生用計算尺は、外箱内箱と説明書が揃っていて未開封新品以外はどうも計算尺マニアに受けが良くないらしく、ほんの数百円の価値しか認められないどころか、その尺の持つ意味はわからずとも計算尺の目盛の複雑さを何となく鑑賞するというムード派計算尺マニアの多くは8インチの学生用計算尺をまったくスルーしてしまう輩も多いようです。なのにも係わらず、計算尺なら8インチ学生尺も10インチ技術用両面計算尺も同じように考えている出品者によっては、相場を無視した5,000円くらいの出品価格設定がなされる事もあり、そういうものはオクでは常に回転寿司のいなり状態で、常に出品されてはいるが買い手のまったく付かないものを良く見受けるのも8インチ学生尺です。当方、「無線従事者国家試験には8インチのHEMMI No.45K一本で十分」と主張しているくらいなので、それなりに筆入れサイズの8インチ学生用計算尺の真の有用性を認めてはいるのですが、本人の意思には係わらず両面計算尺の抱き合わせで8インチ学生尺の同一モデルが増殖してしまいがちなため、結局は上級アマ試験の餞別代わりに上げてしまうことの多い、手元に残らない計算尺であることも確かです。とはいえ、同一モデルが長い間大量に生産されるため、ケースや説明書などにも細かいバリエーションが存在し、同一モデルでもバリエーションを集めるのはさほど資本投下もいりませんし、面白いとは思うのですが、当方はそこまでのコレクターではありません(笑)
さて、今回入手したRELAY時代の8インチ学生尺No.84ですが、刻印がJ.S-4ですから佐賀工場昭和36年4月の製造となります。このNo.84はRICOH時代にも引き継がれて実に昭和49年度の製造品まで確認されていますので、RICOHの計算尺製造撤退時までしぶとく同一モデルナンバーで生き残った計算尺ということになります。その間にケースだけでもRELAYの丹頂黒箱、RICOH初期のベージュ/赤でボデイが透明ビニールのシース、中期青/透明ビニールシース、末期の不透明厚手ビニールのボタン留めケースというような変遷があり、その間にカーソルも金属枠にガラスのカーソルからプラスチックカーソルに変わっています。まあ、これだけのバリエーションを持ちながら生きながらえたのは、一重に後のHEMMI No.45Kの尺配置を先取りしていたからに他なりません。このRELAY No.84の尺配置はK,DF,[CF.CI,C,]D,Aで裏が[S,L,T,]で、表CI尺が赤目盛です。この時代にHEMMIではまだK尺のないNo.45が現行品で、K尺が加わったNo.45Kにモデルチェンジするのが昭和37年らしく、K尺が加わった表7尺の8インチ学生尺はRELAY/RICOHのほうが先だったということになります。しかもNo.45がC尺D尺の目盛が1から2は1/50単位で2から3は1/20というおおざっぱさに比べると、No.84は倍の細密度になっていますので、値の読み取り精度はNo.45とNo.84では勝負になりません。ということで、RELAY No.84とHEMMI No.45の内容に差が出来てしまったために、K尺を付け細密目盛にしたNo.45Kが急遽発売が急がれたのでしょう。それにしてもK尺を追加してNo.45Kと命名するのもイージーですが、残念なことに増えたコストを少しでも軽減するためかNo.45Kになってすり傷には無防備なプラスチックカーソルが標準になりますが、これは後にNo.84の方も追随します。実はRELAY/RICOHのほうにはNo.83というπ切断ずらし尺装備の兄弟尺がありまして、尺配置もずらし度以外はNo.84と同一なんですが、No.84ほど長命だったわけではないようで、中古市場ではNo.84ほどは見つからない8インチ学生尺です。π切断8インチ学生尺というと、いかにもイレギュラーなシロモノですけど、そこがラインナップされていたところがRELAY/RICOHらしいじゃありませんか(笑)それにしてもRELAY/RICOHでもNO.81,82,84はごろごろしているのに、No.83だけは殆ど見たことがありません。HEMMIのNo.45の裏側には、たぶん輸出用と同じと思われる英語の換算表が付いているのですが、RELAY No.84のほうは漢字カタカナで書かれた換算表が張られており、この日本語換算表はHEMMIの45Kのほうにも継承されます。どうやらそれ以降の8インチ厨房尺の換算表は日本語表記が定着するようで、FUJIなんかの10インチ尺の換算表なども日本語表記でした。
この計算尺は落札メールが来て初めて気が付いたんですが、最近RELAYの512と大串式体格計を落札した埼玉の人の出品でした。ケースの赤蓋が欠品でしたし、どうしても欲しいという種類の計算尺ではありませんでしたが、中身が割ときれいだったことと、あまりにも入札額が低くて気の毒だと思って420円ほどで入札したら110円で落ちてしまった計算尺でした。この方からは今回のNo.84を含めた計算尺3点でまだ450円の落札額にしかならなく、毎回ごと手間だけ取らせてしまって申し訳ないのですが、他の人が値段を付けないのですから仕方がありません。知らないで落札したら3回目の落札だったというのも、まあ一つのご縁なのでしょう。よく調べたわけではありませんが、このRELAYのNo.84は「I」刻印の昭和35年が生産初年だと思うのですが確証はありません。38年の始めに三愛計器からリコー計器に社名変更し、計算尺のブランド名もRICOHに変わり、その後昭和49年までNo.84は生産し続けられますので、全体の割合からするとRELAYのNo.84はRICOHのNo.84よりも圧倒的に数が少ないことになりますが、それにしても団塊の世代の中学進学あたりと重なりましたので、出回った量がかなりあり、残存率も高いような感じです。今回のNo.84は裏側にマジックインキでNo.19と書かれてました。以前この手の8インチ学生尺が30本ほど木箱に収納されたものがオクに掛かり、おそらく中学校の備品として授業で使われたものなのでしょうが、今回のNo.84も学校備品の一本だったのでしょう。授業で計算尺に触れる程度でしか使われなかったシロモノのようで、新品に近いようなコンディションの計算尺でした。しかし、学生用8インチ尺も後年には殆どのカーソルがプラスチックの一体成形の物になってしまいましたが、同一機種でガラスカーソルのものとプラカーソルの2本があったとしたら、ガラスカーソルのものを選んだ方が良いと思いますが…。
RELAY No.84の表面拡大画像はこちら
RELAY No.84の裏面拡大画像はこちら
(裏面は画像加工してマジック書きのナンバーを消しています)
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