HEMMI No.264 高校生用計算尺
HEMMIではたまになぜこんな計算尺をわざわざ新たに作ったのか理解に苦しむものがありますが、このNo.264も存在意義が理解し難い計算尺の代表かも知れません。HEMMIのNo.264という計算尺は特徴のある計算尺の多い260番台の計算尺にしては非常に地味な存在で、用途としては高校生用の計算尺です。尺の配置はベストセラーNo.P253とまったく同じで、値段からしてもプラ尺の方が有利なのにも係わらず、なぜP253の竹バージョンを作らなければいけなかったのか、その理由がわかりません。そんな計算尺ですから本家のP253より製造期間も短く、さらにP253よりも早くフェードアウトして市場から姿を消してしまったような感じです。また、そもそもが国内の主に工業高校生を対象として作られた計算尺のため、海外では見つからない計算尺の為か、海外の計算尺コレクターの需要があり、オクに出品されてもその殆どが代理入札業者の手によって海外に流出する計算尺です。何の変哲もない高校生尺ですが、海外では希少性ゆえにコレクターズアイテム化しているのですね(笑)そのなかでも特に「No.264-S」という付番のモデルがありまして、何が違うのかというと表のL尺にdBの記号と目盛が一緒に刻まれているだけ。2664S-Sなんかに比べたらもう詐欺みたいなものですが、それでも-S付きのNo.264を海外のコレクターが目の色を変えて捜しておりますから、dBの赤刻印と赤目盛に高いお金を払うなど、まったくもってコレクターとは不可解な(^_^;) さらに内容は同じでも表面の尺レイアウトと幅が異なるNo.274という兄弟尺があるのですが、これこそ何のために264と差別化して新たにリリースする必要があったのかがわかりません。とはいっても国内の工業高校向けで海外に輸出されておらず、これも海外コレクターに大人気のようですが(笑)
このようなNo.264ですが、RICOHにするとNo.1051Sというのが競合商品になります。もっともRICOHのNo.1051SのベクトルはHEMMIのNo.P253に向かっているのですが、HEMMIがRICOHのシェアを押さえるためにわざわざ竹製のNo.264を作ったのであれば、何となく短期間だけこういうものが商品として存在した理由がわかろうというもの。昭和43年頃なってからNo.2664S-SやNo.2662が急にHEMMIのレギュラーモデル化したのも、何となくRICOHのNo.116やNo.116D対策だったような気がしていましたが、No.264などという、「あってもなくてもどうでもいい目蒲線」ならぬ両面計算尺が出てきた背景も、いちおう計算尺のリーディングメーカーの面子を守るため、RICOHのNo.1051と同じ計算尺を用意する必要があったというのが、案外その発売理由かもしれません。もっともHEMMIには検定上級受験用として十分に使える工業高校用計算尺HEMMI No.254Wシリーズがありますので、わざわざNo.264を買う理由がありません。No.254Wが高価と感じれば安いNo.P253を購入するほうが絶対に得だったでしょう。
さて、以前は希少尺扱いでP253の倍の相場はしたNo.264でしたが、最近は出品数が増えて希少尺落ちしたためか、競り合うライバルも減り落札額も定価の半分程度で入手することが出来ました。入手場所は仙台からです。杜の都、仙台は東北きっての学都で、以前にもかなり珍しい計算尺を数本入手しています。40年代の発売だけに紺帯の貼箱に入っていました。後の製造分は角青蓋の塩ビケースが付属して出荷されたようです。刻印は「UB」ですから昭和45年2月の製造になります。箱がきれいだったので、中身はどうかと思って取り出したら、殆ど使った痕跡のないほぼ未使用に近い状態のものでした。上固定尺を止めるネジ山がまったくのウブでしたし、カーソルバネにもまったく摩擦の跡も残っていません。表裏のカーソル線もそのままで何の狂いもなくピッタリ合っていました。そのため滑尺を軽く蝋引きし、カーソルグラスだけレンズクリーナで磨いただけでお終いです。
No.264はいちおうNo.P253の竹版と言われますが、何か相違点があるのか無いのか捜してみます。比較する手持ちのNo.P253は「MB」ですから昭和37年2月製。入手したNo.264を遡ること8年前の製造の計算尺になります。表に限ってはゲージマークや赤の使い方、C尺D尺の4〜5間の目盛単位を始めとして相違点は見つかりません。裏は三角関数尺の目盛の切り方に相違があり、No.P253はTI1 & TI2尺の45度付近が1/2度単位となっており目盛が疎であるのに、No.264は1/6度で目盛が細かくなっています。しかし40年代のP253は1/6度単位目盛となって目盛が細かくなった製品に知らないうちにマイナーチェンジしたらしいので、発売時期の遅いNo.264はより新しいNo.P253を模したとすると他には相違点がまったく見つからない事になります。
物は試しにほぼ同年代のRICOH No.1051S(RS-11刻印)と比べて見ることにしますが、表側はべき乗尺のレイアウトが上下逆であることが見かけ上の違いで、その他C尺D尺の2以下の数字が0.1ごとに刻まれているのはRICOHのお約束通り。他にはNo.1051Sの表尺にはπを含めてゲージマークが一切省略されているのですが、これはNo.264と違ってNo.1051Sのほうは裏の滑尺にもC尺が刻まれていてこちらの方のC尺D尺に一通りのゲージマークが存在します。裏滑尺上のC尺の存在はむしろNo.264よりもNo.274に近いことになります。裏面の三角関数は目盛の刻み単位もまったく相違はありませんがNo.1051Sのほうは順尺、No.264のほうは逆尺表示です。しかしどちらも逆の数値も刻んであるので、実質は相違ありません。またNo.1051S-1という計算尺は逆尺の表示なので、No.264の方とほぼ同じものということになります。又、裏尺にもC尺を配置した関係で、No.1051Sのほうは滑尺の幅がほんの少々広いのですが、全体の幅はNo.264と相違なく、No.153やNo.250/251と同じサイズとなります。HEMMIでは滑尺の幅の制限でNo.264の裏滑尺上にC尺を配置出来なかったため、幅広のNo.274を作ることになったのでしょうか?そうなると何となくNo.274という計算尺が出来た理由もわかりそうな物ですが、どうしてもHEMMIでなければいけないという純血主義者ならいざ知らず。普通の人ならRICOHのNo.1051Sの方を買ってしまうよな(^_^;) RICOHの「一尺増えて値段も安い」をHEMMIが追随してもどうもRICOHの売り上げを食ったという成功例は見ないようですが、たぶん高校の現場において使われた数はNo264とNo.274を合わせてもRICOHのNo.1051系の数には及ばなかったような気がします。まあHEMMIとしては内田洋行を通じて毎年学校に納入されるNo.254WNの存在もあった訳ですし、No.264の売り上げにはそれほどこだわらなかったのでしょう(笑)
しかし、普段使う分にはどうもP253のほうは薄すぎて剛性が足りず、手荒に扱うと滑尺を折ってしまいそうに感じますが、このNo.264であれば安心感があり、名機P253の血を引いてますから普段使う分には必要十分と感じさせます。机の上に転がしておくのであればベストチョイスに近いと思いますが、それにしてもまだHEMMI No.264よりRICOH No.1051Sのほうが安く手に入るし、品数も豊富なんですが(^_^;)
HEMMI No.264の表面拡大画像はこちら
HEMMI No.264の裏面拡大画像はこちら
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