HEMMI No.P263 Commerce 商業用計算尺
計算尺はその理論的な物が不変であれば現代ではその計算方法としてコンピュータの時代になったとしても導き出す答は同じですが、数ある計算機の中には主だった機能が政治や経済の仕組みの変化によって一瞬にして意味をなさなくなったものがあります。その代表が円とドルおよびポンド・シリング・ペンスの換算機能が売り物の一つであった商業用計算尺HEMMI No.P263で、この機能は昭和46年の円固定相場1ドル360円からの変動相場制移行、およびイギリスの1ポンド=100ペンスの十進法移行により無意味になってしまいました。イギリスでは複雑な12進法の通貨単位を廃止して10進法を採用した2月13日をデシマルデーという記念日にしているそうですが、おそらくHEMMIではその辺りを以前から察知していてNo.P263からこの外貨換算機能を省いて単位換算機能を高めたビジネス用計算尺No.P265に事前にモデルチェンジしたようです。ところが従前のHEMMI No.P263は今でもさほど珍しくもなく各地の文具店からデッドストックとして出てくるようですが、やはり人気は今ひとつというところでしょうか。
本体はNo.P253と同じもので、いわゆる山梨の技研のOEMプラスチック計算尺ですが、発売はNo.P253より若干遅れて昭和38年末からの発売でしょうか。当初はNo.P253同様に紙製の貼箱入りのものがすぐに赤蓋で角が丸い形状の塩ビケース入りの物に変わり、最終的には他機種共々青蓋角丸塩ビケース入りの物に落ち着いたようです。VECTLOGのP253同様に「Commerce」のデザインロゴが入れられた薄いプラスチックの計算尺で、このシリーズ一連の代表としてNo.P263が通産省のGマーク選定商品になったという話を聞いたことがあるように思っていたら、しっかり説明書に「昭和38年10月に通産省よりグッドでサイン受賞」と書かれていました。ケースの色に関して、ヘンミでは特に気に掛けていたようで、計算尺説明書に添付されていたアンケートハガキの最終項目にケースの色の好き嫌いを問う項目があります。たぶん赤蓋塩ビケースを嫌うハガキが多かったからか、以後はP261もP263も青蓋塩ビケースに変更されてしまったのかもしれません。
最近のオクは流星群出現のように特殊計算尺が多数出品されまして、見たことのないHEMMIの電気工事系ポケット尺を始め、養鶏排卵用計算尺、歯車設計用計算尺、大気汚染計算尺、5"両面機械寿命計算尺からなぜか戦前のNo.150が未使用のまま出てきたりして、なんかコレクターにとってはお祭り騒ぎのような状態ですが、そんなこともあってこの影の薄い商業用 No.P263は買い手が現れずに我が手中に落ちました(笑)送料がけっこうな金額になるので、どれか組合せで2本落とそうと画策するも、結局落ちたのはこれだけ(^_^;) でもまあHEMMIの両面計算尺シリーズで、せめてNo.250からNo.269まで集めようとすると(国内物の258とP262は相当入手困難ですが)、当然の事ながらP263とP265は好き嫌いに係わらず持っていなければしょうがないので、こういう機会に1本でも入手しておいたほうが良かったことは確かでしょう。久しぶりの未開封箱説揃いの完全品入手になりました。刻印はRIで昭和42年9月の生産になります。青蓋角丸ケース入りですので、P263としては後期の製品になります。P263は外貨換算尺が無効になるのを予想して、この尺度が無く単位換算機能に置き換えたビジネス計算尺 No.P265にモデルチェンジされたため、P261のように滑尺が青く着色された後期モデルがありません。ちなみにNo.P265のベースモデルはFUJIのプラ製片面尺No.102のようです。P263のバリエーションはあまりよく個体観察をしたわけではありませんが、P253のようにCIF尺がグリーンにマイナーチェンジされたものは存在しないのではないでしょうか?またP253の三角関数の目盛単位のマイナーチェンジのように途中で目盛の切り方が変わったという話も聞きませんので、このP263は最初から最後まで同じものが製造され続けたのかもしれません。このHEMMI No.P263にはHEMMIとしては珍しくも兄弟尺としてNo.143という5インチ両面計算尺がありまして、こちらは竹製です。見かけはNo.149Aと同様なのですが、商業用でありこちらの方も外貨換算尺があったため、早々に生産も途絶え、数がNo.149Aよりはぜんぜん少ないはずなのですが、人気は今一つです。さすがにこの分野には長さを増やして読みとり有効桁を増やす必要がない、というよりむしろ最小単位が1円でその誤差が許されない代わりにそれ以下の有効数字は切り捨てる分野のためか、20インチの兄弟尺が必要性ないのは当然です。
実はあまりこのNo.P263のカーソルに関して書かれているものを見たことなく、現物を目の当たりにするまで気に留めていなかったのですが、表カーソルに緑色で副カーソル線が4本存在している専用品が装着されているため、P253や裏に副カーソル線のあるP261などのカーソルとは互換性がない専用品です。このカーソルは日歩・月利・年利の計算および12進法を10進法に換算するなどという使い方をするための補助カーソル線のようですが、説明書を見ないことにはそれぞれどう使って良いのか見当も付かないはずです。あと特徴的な尺としてはN尺M尺というものが計算尺裏面にあり、これは特に利息などの計算のために日数を計算する尺だそうです。また、表にP1尺P2尺というハーフレングスの尺があり、これは損益分岐点などの計算に使うんだそうな。
しかし、ビニール未開封品ですから中身を取り出して使用することが出来ないというのは、世間一般の人にとっては「じゃあ何のために購入したのか?」なんて言われて、理解されることはないでしょうが、まあ、この手の計算尺を使う状況がないので、ずっとこのままにしておきましょう(笑)
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