RICOH No.84 8"学生用計算尺
日本の中で一番多く生産された計算尺というとそれは安定した大量需要のあった8インチの学生用計算尺、つまり中学の数学の授業で使われた計算尺でしょう。形態的には表にだけ平面的にセルロイドが貼られてスケールはナシ。尺種類は表面 K,DF,[CF,CI,C,]D,Aで滑尺裏が[S,L,T,] もしくは[SI,L,TI] というところが定番で、その他にもA,B,C,D,尺のマンハイム型の学生尺もありましたが昭和40年代に入ってからはもっぱら√10切断ずらしの物が主に使われたようです。その中でも一般用片面計算尺の定番がHEMMIのNo.2664Sとすると8インチ学生用計算尺の定番はHEMMIのNo.45Kでしょうか。HEMMIのNo.45Kは昭和37年頃にHEMMIのNo.45にK尺を足して目盛をより細密にしたものですが、そのHEMMIのNo.45Kは途中でNo.P45Kなどという派生モデルを産みながら山梨技研系のNo.P45SおよびNo.P45Dというプラスチック尺にモデルチェンジして昭和50年あたりまで製造されました。ところがHEMMIのNo.45Kより1年あまり先行して発売されながら昭和の49年まで竹の素材のままモデルチェンジなしに製造されたのがこのRICOHのNo.84なのです。そのNo.84はRELAY No.84として三愛計器時代の昭和36年頃に発売されたのではないかと言うことは以前書きましたので省略しますが、昭和38年に社名がリコー計器に変わるとともにNo.84もRELAYからRICOHに変わります。そのときに丹頂黒ケースから当時のRICOH計算尺の貼箱を模した赤蓋本体透明裏ベージュの国鉄急行気動車のようなビニールケース付きで発売されています。RICOH初期のころはRELAY時代の仕掛品があったためか金属枠入りガラスカーソルですが、間もなくカーソルはプラスチックの成型品に変わります。その後ケースが蓋と裏側が青色で本体が透明のビニールケース付きとなり赤で目盛られていたCI尺が黒に変わり、数字だけが赤というような戦前の計算尺のような色合いとなります。最後までその状態が続きますが、ケースはさらに臙脂を濃くしたような透明部分のないものに変わりこれが最終型となりました。まあこの8インチ学生用計算尺の一種類をカーソル違い、ケース違いで全てのパターンを集めようというコレクターは「いない」のではないかと思いますが(笑) それほど価値を認められていない「路傍の石」状態の計算尺なので、500円などという値段が付いていても入手を躊躇してしまいます。ところが3本セットなどという計算尺の中にはこの8インチ学生尺が混じっているケースが多く(おまけで出品者の好意により1本いただいたこともあり)、本人の意思に係わらずいつの間にか増殖していくのもこの手の計算尺なのですが(^_^;)
というわけで今回も自分の意志に係わらず入手したのがこのRICOH No.84でした。RELAYの昭和36年製No.84があるので、100円とでも値段が付いていない限りは見向きもしない計算尺かも知れません。というもの今回のNo.84は3本組で売り出されていた物の1本で、その中の目的は唯一カーソル無しだった戦前計算尺のみで、もう1本のNo.2664Sとともに当方にとってはおまけみたいなものでした。No.2664Sも最近はおまけ扱いでいつのまにか個体数が増加しました。こうなったらあまりにも普通すぎて好きではないNo.2664Sも考え得るパターンモデルを全部集めましょうか?(笑)
一つ救いなのはプラカーソルでビニールケース入りのRICOH No.84は1本も持っていなかったためにコレクション入りとなりました。RELAY及び初期のRICOHと比べてCI尺の数字だけが赤いというモノトーンに近いデザインの計算尺ですが、ここいらでコストダウンして竹製の計算尺としての品質を維持したのでしょうか?HEMMIがコストダウンのため計算尺の新製品を次々にプラスチック化していったのに比べ、昭和49年の最終生産まで学生尺として竹製を維持し続けたのはかえって偉かったのかもしれません。裏面は他の学生尺同様にセルが張られておらず竹面が出ていますが、いちおうニス塗りされています。それでもRICOHの学生尺はHEMMIの学生尺に比べると簡単にひと刷毛塗っただけという雰囲気でこの竹面に直接製造刻印を打刻してあり、今回のNo.84は「US-9」ですから昭和47年9月佐賀工場製となります。昭和47年というとHEMMIでは竹製の学生計算尺がフェードアウトしてプラスチック製の学生尺にすべて生産がシフトしたころでしょうか。青と透明のビニールを組み合わせたケースに入ってますが、そうなると最終型の不透明ビニールケースはほんのわずかな期間だけ付属していたことになるようです。RELAYとRICOHのNo.84をじっくり比較してみますと、カーソルとCI尺の色の違いだけでなくRELAYのA尺にはπがあるがRICOHには無い。RELAYのCD尺にはラジアンを度に変換する5.729の「ρ°」があるがRICOHには無い。RELAYのSINの最小目盛は10分だがRICOHは5分である。三角関数の数字の刻み方が一部異なるという違いがあります。全般的にはRICOHのNo.84になって中学生の学習範囲以外のゲージマークなどがすっぱり切り取られた感はありますが、三角関数などはより読取り精度が向上した感じです。
「路傍の石」などとコレクション目線で蔑んだ計算尺ですが、昔から主張しているとおり無線従事者国家試験に持ち込むのであれば必要以上の機能を備えており、問題用紙の余白にちまちま筆算するより遙かに効率が良く、この手の8インチ学生尺であれば「この計算尺は使えません」と試験官から使用拒否に合うことも考えられないので、大いに活用していただきたいと思います。ただし最近の無線従事者国家試験は上級通信士および無線技術士試験レベルでなければ活躍の機会が無く、アマチュアの上級試験にわざわざ計算尺の使用法を一から覚えて計算尺を試験場に持ち込む必要がなくなったことを当方も認めざるをえなくなりました。何せ最近の試験は合格率からすると2人に1人は合格する試験ですし、みな計算尺なんぞ使っていないのですから(^_^;)
RICOH No.84 8"学生用計算尺表面の拡大画像はこちら
RICOH No.84 8"学生用計算尺裏面の拡大画像はこちら
参考までに
RELAY No.84 8"学生用計算尺表面の拡大画像はこちら
RELAY No.84 8"学生用計算尺裏面の拡大画像はこちら
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