炭鉱用CHESNEAU(シェノー)式メタンガス検定灯
これはフランスで発明されたCHESNEAUガス検定灯を日本の本多電機がそのままコピーして製造されたメタンガス濃度測定のためのカンテラです。こんなものが国産で存在することなどまったく知りませんでしたし、鉱山関係の技術書を開いてガス検定の項目を捜しても出てきません。あまつさえ落札し損ないましたが同じ本多電機製と思われるPIELARガス検定灯まで出てきました。たぶん一般の炭鉱で使用された測定具ではなくて鉱山保安監督局の備品で、サンプルとして外国のガス検定灯を2種類入手し、そのまま本多電機にコピーさせて納入させたものではないかと考えます。双方ともに明かりとして使用する目的ではなく純粋なメタンガス濃度測定具であるため、使う燃料が揮発油ではなくメタノールを使用するアルコールランプで、メタンガスの濃度が濃くなると青い炎が伸長するその長さを測ってメタンガス濃度を測定する器具です。そのためウルフ安全灯の簡易測定よりもなお精度の高いメタンガス濃度の測定が可能であり、より高濃度の炎の高さを測定するためウルフ灯が10インチ程度の高さなのにCHESNEAUガス検定灯は13.5インチほどの高さがあります。ボンネットの側面には透明な窓と炎の高さによって濃度を測定するための目盛及び温度補正目盛が刻んであります。上下に動く真鍮の筒は一種のカーソルなのでしょう。入手した本多製CHESNEAU灯はバーナー回りのチムニー部品およびガーゼメッシュが欠品ですが、このCHESNEAU灯は1893年にフランスの鉱山保安監督局の長であるCHESNEAU氏によって発明されたためにその名前があり、バーナー回りが欠品のためにその原理を伺い知ることができません。おそらく基部に外気の遮断スリットがあるのでここから金属のメッシュリングを通して吸気し、燃焼熱で膨張した空気が金網からボンネット上のスリットから出続けることで、外部のメタンの大気に引火しないような構造になっているのではないかと思います。またその器具の性質上、ロックシステムと再着火装置がありません。一緒に出てきた本多のウルフ簡易ガス検定灯でさえわざわざマグネチックロックを廃してその部分をプレートで埋めた特別仕様で、認定番号などのプレートも最初から無いような感じでしたから、坑内の保安状況を取り締まる側のお役所の為の測定具であったことは間違いのないところです。ウルフ簡易ガス検定灯と違ってこのCHESNEAUガス検定灯は実際に使用されていたかどうかは少々疑問で、試作させたはいいがお蔵入りしてしまった測定具かもしれません。英国ではトーマス&ウイリアムス社がCHESNEAUガス検定灯のデッドコピーを、英国ウルフ社がPIELERガス検定灯のデッドコピーを生産したらしいですが、本多電機では両方ともデッドコピーして供給したことになります。
大気の酸素が21%の濃度で含まれていると仮定すると、メタンは4.8%から14.5%の濃度範囲で何かの火が引火すると爆発を起こします。それ以下の濃度でもそれ以上の濃度でも引火しませんが、これを燃焼範囲とか爆発範囲といいます。メタンの濃度が9.5%のときが一番爆発強度が大きいといわれ、それ以上の濃度で爆発すると完全燃焼せずに致死性の一酸化炭素を大量に発生させることになります。また、一カ所のメタンガス爆発で坑内の広い範囲に渡って巻きあげられた炭塵に引火し、連鎖的に炭塵爆発を引き起こし、さらに大量の一酸化炭素を発生させます。一度に何百人の命を奪う炭鉱のガス爆発ですが、日本から坑内堀の炭鉱が無くなっても未だにエネルギー事情がひっ迫している中国やロシアでは信じられないような炭鉱事故が未だに続いているようですが。
| Permalink | 0
Comments