本多式簡易瓦斯検定器(ウルフ安全灯)
ウルフ揮発油安全灯に関しては一年ほど前に詳細を調べて発表しましたので省略しますが、我が国では大正末期から昭和の始めにかけて大手の炭鉱ではエジソン式蓄電池帽上灯の普及により、明かりとしての役目は一旦終えました。しかし、メタンガス濃度の高低を知るための道具としては欠かすことが出来なく、昭和5年くらいから光干渉式の理研製ガス検知器が出来てからもこのウルフ安全灯は坑内で使用され続けます。従来から使用されていた雑多な炭鉱用安全灯は、明治から大正期にかけて安全灯自体の欠陥や取扱の不備によって重大なガス爆発が頻発したことから、直方にあった安全燈試験所から発展した石炭坑爆発予防試験所の検査により、型式認定を受けた物のみが使用されました。その一つがこの旧本多商店製鎧型ウルフ安全燈で、本来は製造銘板に製造年とシリアルナンバーが、もう一つ認定番号の銘板があるはずなんですが、今回の物には一切装着された跡すらありません。さらに本来は欠かすことの出来ない磁気ロックシステムが最初から省かれて、その部分を別な板で埋めるという特別な仕様です。銘板の変わりに「本多式簡易瓦斯検定器」なる刻印が油壷上部のリングになされていて、通気リングは外部からゴム球付きの通気管から測定ガスを内部に導くための外部通気リングが装着されています。そのため一連の安全灯同様に坑内の保安を取り締まる側の鉱山保安監督署関係の備品だったことが推測できます。
メタンガスは空気よりも比重が軽いため、坑道の底より天井付近に溜まりますが、安全灯を上に掲げて測定しようとすると安全灯の炎で発生する上昇気流の影響で正確なメタンガス濃度が検知できません。また常に目の高さで青炎の高さを測らないと正確な濃度検知が出来ないため、坑道上部からの空気を目線にかざした安全灯内部に導き出す通気管という途中にゴムのポンプ球がついたチューブを通気リングのニップルに繋ぎ、坑道上部に溜まったメタンガスの濃度を検知します。この簡易メタンガス検知は基準炎という測定の基礎になるほんのわずかな微炎を作り出す事が大切です。メタンに曝されるとこの基準炎の上に青炎が被さり、これをガス冠といいますが、メタンガス濃度が高くなるに従い、この青炎が伸張し、ついに爆発濃度に達すると筒内爆発を起こして消灯します。ところがこの基準炎の微炎は通常状態の炎よりガス爆発を誘発しやすいという統計があるらしく、当初はいきなり基準炎を作っておかずに通常炎で青炎の伸張を認めたり筒内爆発で消灯した場合に改めて基準炎を作って簡易的にメタンガスの濃度測定を行ったというような話を聞きます。しかし、このウルフ灯は腰ガラスに目盛が刻んであるわけでもなく、あくまでも測定者の主観で測定値にかなりのバラツキが出てきますので、測定者による誤差を無くすためには光干渉式メタンガス測定器を使用するか、目盛の刻まれたCHESNEAUガス検定灯もしくはPIELERガス検定灯を用いることになるようです。ところでこの本多のウルフ灯は本家のウルフ灯に比べてボンネットのスリットが本家が縦6個に対して本多製は縦4列しかありません。博物館の展示品や当時の写真などのウルフ灯を見ても国産コピーか輸入品かはスリットの数で容易に見分けが付けられます。
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Comments
トーマスウイリアムズの本物の炭坑用安全灯はボンネットがすべて鉄製で、ボンネットが真鍮で出来ているものはすべてレプリカですから磁気ロックシステムなんか着いておらず、せいぜいリードリベットロックと呼ばれる南京錠をぶら下げられるような簡単なものだけです。
ロックのないレプリカの安全灯は基本的に油壷がねじ込まれているだけなので、CRC5-50でも浸潤させてベルトレンチを掛けて外すしかないでしょう。
Posted by: じぇいかん | February 16, 2019 07:50 AM
カンブリアンランタンについていろいろ調べていたらこちらのブログを見つけました。日本の炭鉱用安全燈を初めて見たのですが、凄い重厚感がありますね!実物見たら迫力が凄そうです。私が持っているのはE.thomas & williamsというカンブリアンランタンで以前知り合いから頂いたものなのですが、底の部分が中で接着されているのか全く開けられず火を灯すことができません笑。いきなり質問すみませんが、このような場合開ける事は不可能なのでしようか?何か良い案があればご教授お願いします。
Posted by: tala | February 15, 2019 06:18 PM