HEMMI No.275D 20インチ電気用
20インチの両面型電気用計算尺はユニバーサル型No.153の20インチ版No.154が始まりで、昭和14年頃の価格表によるとNo.153が17円50銭の定価に対してNo.154の価格は何と85円になっています。20インチ片面尺のNo.70が33円ですから、いかに高価な物であったかがわかろうという物。本来電気用であるNo.153が電気の枠を超えてあらゆる分野の技術用として使用されたために、戦前の両面計算尺にしてはかなりの数が残っているのに対して、その20インチ版No.154はその価格故かレアな計算尺です。その部分を価格面で埋めたのがリッツの20インチNo.70で、そのためか戦前尺の中では一番頻繁に見かける20インチ計算尺になります。
さて、戦後の復興期に入ると計算尺の需要も拡大し、専門分野の両面計算尺として電気用No.255と技術用No.259が作られますが、双方の20インチ版として作られたのがNo.275とNo.279です。それぞれ元の10インチ版が尺のレイアウト変更やDI尺追加などのマイナーチェンジに合わせて20インチ版も変更され、時期により電気用はNo.275前期型、後期型、No.275D、技術用はNo.279前期型、後期型、No.279Dのそれぞれ3種類が知られています。最終型のNo.275DおよびNo.279Dは40年代に入り10インチ両面尺同様に紺帯の模様入りベージュ貼箱入りとなりますが、さすがに20インチ用の青蓋塩ビケースは金型が作られずに終わったようです。
今回入手したNo.275Dは「QE」刻印ですから昭和41年5月の製造。ちょうどケムール人が東京を走り回り、パトカーに追いかけられていたあの頃です、ってそれはウルトラQの話だろ?(゚o゜)☆\バキ 実はこのNo.275Dは高校同期生からの頂き物で、当方にとっては記念すべきちょうど100本目のコレクション(現在105本目通過中)にそれにふさわしい大物でした。それでなくとも計算尺などというのは役目が終わった現代ではゴミ扱いですが、まして20インチの計算尺など引き出しの中に入れておくわけにもいかず、業務用の計算具としてはタイガー計算機同様にゴミに出されてこの世から姿を消してしまう運命なのかも知れません。昭和41年製ですから程なく精密計算は電卓の時代となり、さほど活躍しないまましまい込まれてしまったのでしょう、それほど傷みなどのない計算尺でした。しかし、外箱はさすがに某所で30年以上は放置された積年の汚れで煤け、中性洗剤を溶かしたぬるま湯を浸したペーパータオルで汚れを落とそうとするとペーパータオルが真っ黒になりました(^_^;) 内容的には単にNo.255Dを倍の長さにしたもので、表面がL,K,DF,[CF,CIF,CI,C,]D,LL3,LL2,LL1で裏がSh1,Sh2,Th,A,[B,TI1,TI2,SI,C,]D,DI,χ,θの24尺も変わりません。身幅もNo.255Dと同じなのですが、カーソルだけが特殊でカーソルグラスの右側に緑色で尺種類記号が刻まれている専用品です。一部緑の文字が消えかかっていましたので、グラスを外して緑のクレパスで色上げし、裏表のカーソル線を合わせてクリーニングと整備完了。20インチ計算尺は10インチ計算尺の倍の読みとり精度を持ちますが10インチ計算尺の、読み取り精度を一桁上げて有効桁数4桁にするためには20インチでは不十分で、計算上は100インチの計算尺が必要です。それでも100インチを5分割して20インチ計算尺に仕立てるのも無理が生ずるため、80インチを6分割もしくは4分割して19インチ尺及び20インチ尺にしたのが超精密用計算尺のNo.200及びNo.201として用意されてました。それにしても昭和40年代ともなると何桁という精度が必要な計算にはすでに電卓が出てきたために、概算で済む分野には10インチ計算尺は使われても20インチ計算尺を持ち出す機会は殆ど失われていたのが現実だったのでしょう。ところで、当方No.255の初期型は所有していますが、実は一般的なNo.255Dは一本も持っていないのです。それなのにNo.275Dがあるなんて、なんかいびつなコレクション構造を露呈してます(^_^;) 「275Dはあるけれど、255D持ってねぇ。でもそんなの……」(以下お約束事につき省略)(呆)
下の小判鮫は大きさ比較のためのNo.32
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