エバン・トーマス式安全灯(炭鉱用カンテラ)
マルソー型安全灯はガス気の多いフランスで考案された安全灯で、デービー型安全灯やクラニー型安全灯ではメタンガスを含む風に曝されることで伸張した炎が金網を赤熱し、外部のメタンガスに引火する危険性が高いため、金網を銅と鉄の二重構造にしてその金網の筒を鉄製の風よけで覆った所がマルソー型安全灯の特徴です。油灯時代としてはもっとも安全なカンテラの一つでしたが製造元によって色々と手を加えられ、時代と共に改良されてきています。しかし、油灯である限りは時間の経過と共に煤で光度を失うことと、金網に煤が溜まったものがメタンで伸張した炎で赤熱されると外部のメタンに着火してガス爆発を起こす危険性があり、1880年代に考案された煤の出ないウルフ型揮発油灯によってだんだんと置き換えられてきました。しかし、石炭の炭化度が進んでガス気の少ない英国の炭鉱では、今世紀に入ってからもランニングコストの安い油灯が好まれて使用され続けたようです。
今回入手したマルソー型安全灯は底に鉛筆書きで「トーマス安全灯・独製」と書いてありましたが、どう見ても英国製の安全灯です。外部には製造所を示すような刻印が無く、又現時点では開錠出来ていないので、油壷の上に何らかの刻印が刻まれているかも知れませんが判然としません。なので確たる証拠はありませんが英国製のEVAN THOMAS & WILLIAMSの炭鉱用カンテラとして話を進めさせていただきます。どうしてこの型式の安全灯が「トーマス安全灯」とされたかの経緯は、どうやら丸善が発行した「永積純次郎著 採鉱学 全5巻」中の「第2巻 鉱山変災」中の型式分類に従った為のようです。この本は昭和の始めに発行された大変に古い本ですが、まだ大手の炭鉱でも蓄電池灯と揮発油灯が混用されていた時代の資料として欠かすとの出来ないものです。国産の揮発油灯では本多式の他に横田式の記述も見られます。
油灯でありながら多くの英国製安全灯と違って平芯ではなく、まるで揮発油灯のような丸芯を使うタイプで、その芯をウイックピッカーと呼ばれる針金で上下させる簡単な仕組みですが、トーマス・ウイリアムスの安全灯に丸芯のものがあるのかどうかは判りません。実際に坑内で使われた安全灯で、マグネットにプランジャーを組み合わせたようなごつくて頑丈なロックシステムを備えるのがレプリカの炭鉱用カンテラとは異なります。鉄製のボンネットに打ち傷へこみがありませんでしたので、当初から鉱山監督局が安全性比較の資料として入手したのかもしれません。ボンネットには半分ほど黒のエナメル塗装が残ってました。ウルフ安全灯などに比べると非常に重く感じる安全灯で、それもそのはず砲金製鋳物パーツを機械加工したものが多用されており、重量はあるのですがその分作りの良さを感じさせる安全灯です。型式としては典型的なマルソータイプの安全灯でボンネット下の吸気口から二重のガーゼメッシュを通して吸気し、燃焼して熱せられた排気はメッシュを通してボンネット上部のスリットを通して外部に抜ける仕組みです。先に出てきた「鉱山変災」ではこのボンネット下の吸気口から二重メッシュを通して吸気する安全灯形式を「エバン・トーマス式」と称しています。この安全灯のロックの解除ですが、どうやら足踏み操作の空気圧で作動するプランジャー式開錠装置に掛けてロックを解除する仕組みになっているらしく、マグネチックロックやリードリベットロックに比べると手軽ではないためか、我が国ではまったく普及しなかったロックシステムです。
「採鉱学第2巻鉱山変災」の記述によると、安全灯の検査基準は 1)6尺の高度より安全灯を木床に落とす事 2)6尺の高度より5ポンドのものを安全灯の上に落とすこと 3)安全灯の下部に長さ6尺の糸を結びこの下端に重量10ポンドの物を付けこれを6尺の高さより落とす 4)安全灯腰硝子を直立し置き硝子の上部4尺の高度より重量1ポンドの物をこの上に落とす 5)同上の硝子を華氏212度に熱したる後急に華氏60度の冷水に入るる事 之等の試験に破損せざるものを合格とする。というようになっておりますが、このほかにも気流による火炎の動揺などの検査もあり、明治末期の安全灯の構造や取扱不良によるガス爆発多発を受けて設立された直方の石炭坑爆発予防試験所の結論は「ウルフ式揮発油等を以てもっとも安全な灯火である」というようにされたようです。大正末年頃の大手炭鉱61坑における安全灯種の比較を見ると、手提げの揮発油灯22,960個に対して、蓄電池式帽上灯および手提げ灯が53,707となっており、大正末にすでに両者の数が逆転し、蓄電池灯が急速に普及していったのがよくわかります。
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Comments
じぇいかん様はじめまして
私某劇団で芸人をやってる者でございます。
実は月末の事務所ライブで「詐欺」をテーマに語ることになりまして
今日じぇいかん様の結婚詐欺師クヒオの記事にたどりつきました。
凄く興味深くどうしてもお話伺いたくコメントいたしました。
じぇいかん様との連絡方法を教えていただけませんでしょうか?
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なおブログは下記です。
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勝手ながらどうかよろしくお願いいたします。
Posted by: コラアゲン | November 18, 2007 12:17 AM