RICOH ALEXE 計算器
日本においては古来から「読み書き算盤」が教育の根幹となり、加算減算に関してはあまりにも算盤が普遍的すぎたためか、他の計算用具がまったく普及しませんでした。それでも輸出用を主眼としたスタイラス式計算器などが昭和30年代から40年代の初めにかけて各種作られましたが、電卓の出現により短時間で市場から姿を消しました。その中で五桁というカシオミニよりも一桁少ない計算桁ながらも、カシオミニ発売までのはざまの時代にけっこう売れたのがこの手動計算機のアレックスです。明和製作所といっても同名の会社は日本中に存在しますので、どういった会社だったのかはよく判りませんが、当初からリコーの販売ルートにのせて売られていたようで、後に本体の表示も「RICOH ALEXE」になります。このALEXEを販売していたのは計算尺製造のリコー計器ですので、リコー計算尺と同一ルートで販売されていたのでしょう。外観的には前期と後期の2種類が存在するようで、本体右の加算・減算及びリセットのレバーの形が異なるようです。また、本体ロゴも「ALEXE MINI CALCULATOR」と「RICOH ALEXE」の2種類あり、RICOH ALEXE印字のものは昭和45年の大阪万博に協賛して「万博モデル」が存在しますので、その頃まで作られていたようです。おそらく昭和30年代末期の発売ですので、こんな単純な加算器の割には長生きしたようですが、これもリコーの販売力と低価格あってのことでしょう。日本製スタイラス式加算器の方は昭和40年代前半に尽く姿を消しているようです。
このアレックスは基本的には機械式計算器の原点ライトニングのように一桁ごとの歯車で繰り上がり/繰り下がりを連動させるもので、スタイラスを差し込んで回すのではなく、上に配置したブッシュボタンで操作するものです。たとえば326に254を加算しようとすると、まず百の位のボタンを3回、十の位を2回、一の位を6回押して表示窓に326を出し、次ぎに百の位のボタンを2回、十の位を5回、一の位を4回押して加算することで表示窓に580の答を見るものです。減算は右上のレバーを横に引き出すことによって歯車が逆転し、押した数値の分だけ減算出来るようになっています。999を置数するためにはそれぞれのボタンを9回ずつ押すのではなくて、タイガー計算機などと同様に1000を置数してから1を引くことにより操作回数を省くことも可能です。リセットは下のレバーを横に引くことで表示を0に戻しますが、一回の操作で帰零することが不可能で、たとえば表示の数字に9が一個でも混じっていると9回横に引かないと帰零できません。また、最初の値数は表示窓で確認できますが、加算/減算する数値はそれぞれの桁を押す回数を頭の中でカウントする必要があり、うっかりすると何回押したのか判らなくなるのが欠点で、さらに値数に数字分だけの押す回数を必要とすることから計算速度は算盤の敵ではなく、スタイラス式計算器の比でもありません。そのため、算盤に取って代わる物ではなく「500円だから買ってはみたが、実用にはならない」からか、計算実務には使われずにそのまましまい込まれてしまったものが多いようです。このアレックスはアメリカも特許が取得され、アメリカには「ALEXE」ではなく「RAMBLER」の名前が印刷されたものが輸出され発売されていたようです。算盤のないアメリカではこの手の加算器が電卓出現まで結構重宝されたようです。それにしても当時の定価500円は計算尺でも学生用の一番簡易なクラスの価格に過ぎませんが、さすがにRICOHの販売だけにそれほどおもちゃっぽくなく数回使って歯車が欠けてしまうような華奢な物でもないようです。ともあれ、小学校一年生の算数学習セットなんかには今でも最適じゃないでしょうか?
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Comments
私も RICOH ALEXEを持っています.
この 加減機の歴史をよく分かるようになりました.
当時電卓では革新的な品物でした.
良い情報有難く読みました.
Posted by: 韓允植 | May 12, 2008 05:15 PM