HEMMI No.P267構造設計用計算尺
HEMMI No.P267構造設計用計算尺はNo.P270大気汚染用計算尺と同時期の昭和45年後半から製造された計算尺で、一連の塩化ビニール素材プラ製計算尺同様に山梨の技研系列で製造された計算尺です。計算尺末期になってからの発売だけに滑尺が薄いブルーに染められた計算尺です。ベースはVECTLOGのNo.P253より幅広で、滑尺がブルーになったNo.P261の後期型と共通のようです。内容としては鉄骨を使用した梁に関する計算でひんぱんに取り扱われる、2乗、3乗、4乗を含む計算を簡単かつ精密に行うため2√、3√、4√尺を備えているのが他の計算尺にない特徴で、それによって梁や柱が分布荷重や集中荷重を受けるときの曲げモーメント、たわみ、断面二次モーメント、断面係数などを連続計算でしかも精密に求めることが出来、その他にも4種類のλ尺により、梁や柱がさまざまな状況で集中荷重や梯形分布荷重を受ける場合の曲げモーメント、固定端モーメント、たわみを求める操作が簡単に出来、さらにσ(unif.)尺により、鋼材単純梁が等分布加重をうける場合のたわみ計算がわずか三操作で求められるなどの計算機能をそなえるようですが、土木建築に関してはまったくの門外漢の当方にはその理屈を解説するべき知識がありません(^_^;)
しかし、こういう計算が有効桁3桁の計算で成り立つのも不思議ですが、内藤多仲博士がHEMMIの8インチ学生尺No.26401本で東京タワーその他の鉄塔を設計したのは史実ですからそういうものなのでしょう。もちろん一部はバーローの数表や丸善対数表などを使って補足していたのでしょうが、このNo.P267発売当時は電卓及びコンピュータが計算尺と対数表を設計現場から駆逐しつつある過程にあったようで、わざわざ説明書に「最近、コンピュータや電子式卓上計算機などの進歩、普及はめざましいばかりです。ややもすると計算尺は軽視されがちですが、計算尺にはそれなりの長所があります。とくに、構造設計の場合は、計算尺の精度で十分であることと、ファクターとファクターの乗除計算をする場合が多いので、計算尺が非常に適当しています。コンピュータと共にご愛用下さい」と書かれており、当時すでに構造設計計算の主役がコンピュータに取って代わられてしまった状況を肯定しているような一文です。しかし、長年にわたるコンピューター化の弊害で、現場では頭で理論は判っていても構造計算があまりにもコンピューターに依存しすぎ、入力ミスによりとんでもない数値をはじき出してもその数値がおかしいと気が付かないような設計者が増えているんだそうな。そのために耐震強度偽装問題のような「明らかに悪意のある改ざん」そのものさえすぐには見抜けない原因の一つだと言っている人もいます。
さて、HEMMI No.P267は40年代も半ば過ぎに発売された計算尺でもあり、北米でもヘンミ計算尺の有力代理店が廃業したり取扱を止めた頃の計算尺ですから、どうやら国外に輸出された様子がないような計算尺です。当時すでに小ロットの計算尺を輸出するため、わざわざ建設関係の特殊な英語を調べて英文説明書を作成する余力も無かったこともあるのでしょうが、国内専用だけに生産数も非常に少ないようです。世界的にもあまり知られていない特殊用途の計算尺ゆえか、一部の海外計算尺コレクターには人気のあるものらしく、オクに出品されても海外流出するケースの多い計算尺の一つです。国内でもすでに計算尺の需要は学生のみという状況になりつつあり、大手ゼネコンでもすでに何年も前から構造計算にはIBMの汎用コンピュータが使用されていたため、すでにこの手の特殊用途の計算尺はさほど売れなかったらしく、10年ほど前まではヘンミに発注すると普通に入手できた両面計算尺の一つのようです。売れなかった計算尺故に、確率は少ないながらもまだまだ地方都市の小さい文具店からデッドストックで眠っている可能性も残っているようです。今回もそのような経緯で出品されたもののようです。
都内武蔵野のある小都市から届いたNo.P267は「UL」刻印ですから昭和45年12月の生産で、おそらくは発売当初の時期の製造だと思われます。同時期に製造されたP253 SPECIALやP270などと同様に角が丸い青蓋プラケース入りで、ケースの端に型式名入りのシールが貼られるタイプです。そもそも年に何本もオクに出品される計算尺ではありませんが、今年になって続けざまに未開封が2本出たことが幸いし、今回はほぼ元値に近い価格で入手できました。ビニールは開封されていましたが未使用品です。説明書は7109ですから翌年の発行ですが、外箱に印刷されている定価は発売当初の4,000円となっています。間もなくコスト上昇により定価が4,800円に値上げされました。そういえばこのNo.P267は表面の一般乗除計算で使用されるCF,DF尺は√10切断ずらし尺となっていますが、これは構造設計計算に電気物理のようにπを含む計算があまりないからでしょうか。
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