技研 No.9590土木測量用スタジア計算尺
FUJIブランドで販売されていた計算尺は昭和40年代には製造会社が技研産業・販売会社が富士計器工業として存在したようで、現在でも前者は技研産業としてムトウのドラフタースケールやプラスチックの刻印加工などとして現存し、後者は計算尺販売終了後の昭和53年に東京営業所がフジコロナ精器として独立し、各種製図用具の販売及び輸出を経て現在はフジコロナとしてレーザースケールや環境家電品の輸入販売などを扱う会社として存続しています。ところがフジコロナの沿革を見ると終戦直後の「1945年に富士計器工業株式会社として甲府で計算尺の製造を開始」とありますので、「技研」のブランドで売られた技研工業との関係が今ひとつ掴めませんが、技研ブランドの計算尺は昭和39年頃にはまったく同じ計算尺が品番を変えFUJIブランドとなり、技研ネームを持つ計算尺が消え去ってしまったのは確かです。また、この技研系統では昭和30年代から各社へOEMとしてプラスチック製計算尺を供給しており、30年代半ば過ぎからはHEMMIへ多くのプラスチック製計算尺をOEMの形で供給しています。
その技研ネームで販売された同時期に「大正工業」ネームの計算尺も何種類かあるのですけれど、単なるOEM先の名前なのか、山梨の技研周辺に存在した関係会社なのか、あたしゃわかりません(^_^;) しかし、この山梨技研系のプラスチック製計算尺は昭和30年代半ばまでその殆どを主に東南アジア輸出向けOEMとして製造していたようで、国内では販売網の脆弱さも相まって技研の計算尺が国内から見つかるチャンスは希少です。また海外のコレクターが「こんなブランドの計算尺は聞いたこともなく、情報が判れば教えてほしい」などと情報提供を求めている計算尺の写真を見ると、見るからに技研系プラ尺の手法で製造された物だったりします。30年代にはこれもOEMであるHEMMI No.P23ベースの薄いプラ尺もしくはその拡張版が聞いたこともないメーカーのOEMとして各種、海を渡ったようです。
HEMMIより製造数が少ないといえどもFUJIブランドの計算尺がオクに登場する事は珍しくありませんが、技研ブランドの計算尺が出品されるのは年に何回もあるわけではありません。今回入手した技研の計算尺は兵庫のたつの市からです。写真では滑尺が裏返っていて尺の種類も型番も判然としませんでしたが、何となくスタジア尺だろうと思って落としたもので、届いてみたらビンゴ!、まったく知らないNo.9590という形式の測量用スタジア尺でした。説明書はさすがに残っていませんでしたがカーソルにも傷がない未使用品でした。しかし、積年の煙草のヤニで紙ケースの上面がコートされた様になり、抜けかけた底の隙間からケース内にも煙が侵入したようで、片側だけヤニで煤けてました。又、滑尺の目盛溝に入れられている顔料が経年劣化で軟化してまして、指で触わると滑尺面上に広がってしまい、結局布で拭きあげると目盛が少々薄くなってしまいました。本体の塩化ビニール素材中の可塑剤の影響で何十年も経つ間にパステル状に軟化してしまったのでしょう。初期のFUJI計算尺中にも入手したときに妙に目盛が薄い物がありますが、おそらくこのような現象が生じたのでしょうね。基本的にはHEMMIのスタジア測量尺No.2690の亜流なんですが、身幅が広い特長を生かして上からL,LL,D1,[M2,M1,CI,C,]D,A,Kと表面10尺、裏がS,ST,Tという拡張版です。幅広といってもNo.2690はNo.2664などと同じ表面の平面部分が34.5mmなのに対してこの技研のものは37mmあるに過ぎませんが。ちなみに高級検定用という扱いだった表面11尺のFUJI NO.2125の初期型は平面部分の幅が43mmあります。構造的にはおそらく後年のプラ製片面尺同様にネジで裏板と固定尺を接合しているのだと思いますが、後年のプラ尺のようにすべり止めゴムで蓋をしているわけではなく、灰色のプラ板を一枚張り付け、それによって裏にねじの頭が見えないようにしたフルカバー構造になっているようです。
スタジア測量ですが、すでにレーザー測距儀による精密距離測定が普及して久しく、トランシットから標尺の目盛りを覗いて距離を測定するため、どうしても誤差があるスタジア測量の時代ではありません。基本的には直角三角形の相似の理論を使って標尺上の長さとトランシットの上下目盛り(スタジア線)上の長さとの比を算出し、水平距離を巻き尺無しで求めるというものです。しかし今ではホームセンターあたりでも簡単なレーザー測距儀が入手出来ますし、もちろん測量現場からトランシットも消えています。古くから使用されてきたスタジア測量の理論が要求されるのは今では測量士/測量士補試験くらいなものでしょう(笑)
技研No.9590土木測量用スタジア計算尺表面拡大画像はこちら
技研No.9590土木測量用スタジア計算尺裏面拡大画像はこちら
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