FUJI No.P104 10"一般用
山梨の計算尺メーカーの相関関係はいまだにわからないことだらけなのですが、富士計器工業東京営業所が独立したフジコロナ株式会社の沿革にあるとおり、FUJI計算尺が昭和20年に富士計器製造として山梨で創業しているとすると、当然の事ながら昭和20年代から30年代に生産されたFUJIブランドの計算尺がないとおかしいはずですし、技研工業が昭和30年代末期に富士計算尺とブランドネームが変わったとするとつじつまのあわない事柄がいくつかあります。その技研ではなくどうやら富士計器工業として昭和30年代の前半に作られたとおぼしき計算尺がこのNo.P104です。特徴としてはすでにプラスチックの計算尺なのですが、ちゃんとFUJIの刻印が入っている金属枠のガラスカーソルが使われていることで、このガラスのカーソルはNo.81,No.86とNo.88にも見受けられます。No.88などはFUJIの計算尺としては比較的によく見受けられますが、殆どのNo.88はプラスチックのカーソルが付いたものです。また、No.81,No.86のような竹製学生用計算尺もあったのですが、今回のNo.P104とNo.86が技研の価格表には該当する商品がありませんし、昭和30年代末期の富士計算尺のラインナップ中にも該当品が見あたりません。そのことからどうやら技研で作られた商品ではなく、昭和30年代中頃までに富士計器工業で作られたオリジナル商品と考えた方が良さそうです。また型番にHEMMIのプラ尺のように「P」が頭に付きますが、これは当時プラ尺ばかりではなく竹製の計算尺も製造していて、そのためHEMMI同様便宜的にプラ尺を表すPを付番していたのかもしれません。後にプラ尺製造専業メーカーになりますので、それでPの付番が無くなったのでしょうか? それにしてもHEMMIと比べるとFUJIの個体数が著しく少ないため、もう少しいろいろなFUJI計算尺を見てみないと憶測が裏付けられません。
このNo.P104という計算尺は10インチの計算尺ながら非常に薄く出来ており、一番厚い部分で4.2mm、滑尺の厚さにしてもたったの3mmしかなく、滑尺などは安っぽい定規のようにたわんでしまうほどです。表面はK,DF,[CF,CI,C,]D,A,の7尺、滑尺裏はS1,L,T1,T2,の4尺です。表面上部に25cmのスケールがあり、裏の補助カーソル線窓は左右に開いています。表面CI尺だけ数字も目盛りも赤で入れられています。ゲージマークはC,D,尺上にC,πゲージのほかに度分秒をラジアンに変換する3種のケージマークを備える標準的なものです。ケースは灰色のしぼ皮もどきの擬皮紙をあしらった紙製貼箱です。この計算尺もそのままOEMでいろいろなブランドの計算尺に化けているようで、どんなブランドの計算尺に化けたか探してみるのもおもしろいかもしれません。またどうも技研工業と富士計器工業以外にも昭和30年代を中心にOEMもしくは大手下請専門で竹製8インチ学生尺やプラ製計算尺を製造していた製造所がもう一軒もしくは複数あったようなふしがありますが、この解明も今後の課題です。
FUJI No.P104 10"一般用計算尺表面拡大画像はこちら
FUJI No.P104 10"一般用計算尺裏面拡大画像はこちら
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