J.HEMMI No.14 4"ポケット型計算尺
この時代のHEMMI計算尺には型式を表す刻印がないので確定的なことは断言できませんが、おそらくNo.30戦前型の原型となったJ.HEMMI時代最末期のNo.14だと思われます。このJ.HEMMI時代末期にはフレームレスのカーソルがごく短期間現れますが、この計算尺もセルロイドのカーソルバーに透明セルロイドのカーソルグラスが接着された樹脂カーソルが付いていました。No.1系統の計算尺はカーソルグラスがセルロイドのカーソルバーにねじ留めですが、ポケット型ということで薄さを確保するために接着という手段をとったものと思われます。後のNo.30とは上下の固定尺が同形状であるという形状が異なり、まるで練習用計算尺のようなポケット尺ですが、しっかり上下固定尺の側面にはスケールが刻まれています。物差し代わりとして使用するのには不便なので、No.30にモデルチェンジしたのでしょう。このNo.14は大正15年型として各種の新しい計算尺が投入された1926年から1929年までのごく短い間にのみ作られているようです。1930年には新制"SUN"HEMMI計算尺のラインナップとしてすでにNo.30にモデルチェンジされています。そのため、あまり目にする機会のない計算尺の一つです。初期型のカーソルは金属枠に入ったものだったようです。今回のNo.14は製造年を特定する手がかりがありまして、裏側に「米国ウエスチングハウス社製品日本一手販売 株式会社菱美電機商会」とあり裏板にはご丁寧にもウエスチングハウスのロゴとマークがプレスでエンボス加工されています。菱美電機商会というのは昭和4年に以前から米国ウエスチングハウスの独占的代理店だった三菱電機が、主に電気部品を日本で販売するために設立した会社で、当時急激に需要が高まったラジオの部品の取り扱いが主力だったようです。その菱美電機商会が開業の記念として作らせた一種のノベルティー商品だとすると、1929年=昭和4年の計算尺ということが特定できます。ご存じの通り現在のウエスチングハウスは加圧水型原子力発電のノウハウを求めた東芝と三菱の間で熾烈な買収合戦の結果、縁の深かった三菱の買収提示を蹴り、現在では東芝に買収され東芝系の子会社になっていますが。
驚いた事に提携先のアメリカ本国はウエスチングハウス宛に同じ計算尺が配られたらしく、アメリカに送られた物は裏板のウエスチングハウスのロゴとマークがエンボスされただけで、漢字の菱美電機商会などの刻印は一切無いようです。また、日本で配られた物より少し新しく"SUN"HEMMIの商標に変わった直後の製品のようで、樹脂のカーソルバーの上下にそれぞれ「"SUN"」「HEMMI」という新ロゴは入っているのが国内向けの菱美電機商会刻印のNo.14とは異なります。おもしろいことにJ.HEMMI時代唯一の樹脂製ポケット尺にNo.24というのがありまして、知っている限りでは裏側に三菱電機株式会社という刻印が入っているものしかなく、またカタログにも掲載されていないという妙な計算尺ですが、おそらく当時ヘンミ計算尺の技術的なサポーターであった三菱電機の技師、宮崎治助が介在していることは確かでしょう。実はこの宮崎治助という人は当家の曾祖母の甥らしく祖父からすると従兄弟らしいのです。我が家には「ヘンミ計算尺はじいさんの従兄弟が作った」という妙な言い伝え(笑)があり、当方としてはそんな話は一笑に付していたのですが、よくよく話を確認してみると曾祖母の実家が宮崎姓でその宮崎家の人間がヘンミ計算尺に係わっていたらしいのです。宮崎治助氏は祖父とほぼ同世代ですが、宮崎家で唯一交流のあったのは宮崎卯之助氏という祖父の従兄弟一人だけで、この人は戦後に三菱電機のモーターなど電機関係の銘板を作る町工場をやっていたとのこと。関係者がすべて故人になって久しく、宮崎治助氏と当家の関係は現在となっては詳しく尋ねる縁者もおりません。
入手先は東京で、だいぶ以前に皮ケース入りのNo.250を落札した人からでした。No.30などのフラップ付き皮ケースと異なり、たぶん元は黒皮のシースタイプのケースが残っていました。戦前No.30には企業のノベルティーとして、また"SUN"HEMMIの商標が打ち抜かれたものがあり、コレクターズアイテムとなっていますが、このNo.14はその企業ノベルティーものの嚆矢なのでしょう。手の込んだエンボス加工は当然のことプレス型を起こさなければいけませんが、いったいいくつの発注に対してこのような特別な型を起こしたのか興味のあるところです。この裏板のパンチングによる企業名入れの特注は昭和も2桁台になると姿を消し、企業ノベルティー物は刻印入れのみで済まされるようになったようです。ところで鉄ヲタとしては、企業名入りノベルティとして作られたHEMMI計算尺でもっともほしいのは、やはり昭和39年10月の東海道新幹線開業記念品として関係者に配られた本体と皮ケースの両方にJNRマークの入ったHEMMI No.2634でしょうか(笑)千秋の父親が社長を務めている日本板硝子のロゴとマークの入っているNo.30なら未開封で2本も隠匿しているのですが…
(^_^;)
J.HEMMI No.14 4"ポケット型計算尺表面拡大画像はこちら
J.HEMMI No.14 4"ポケット型計算尺裏面拡大画像はこちら
| Permalink | 0
Comments
私は卯之助の孫の基彰と申します。
Posted by: モトアキ ミヤザキ | March 04, 2020 05:39 PM
宮崎様
ご連絡いただき、ありがとうございました。
こちらのWEB上で書き込みしあうのは個人情報が飛び交いますので、まずは下記メールアドレス宛ご一報下さい。
jl8djs(アットマーク)jarl.com
メールアドレス収集されないよう(アットマーク)は@に変換下さい。
>toshio miyazakiさん
>
>こにちは、初めまして。
>私は治助の孫の敏雄と申します。貴方の情報がきつかけとなりル−ツ探しをしています。情報をお持ちでしたら教えて下さい。宜しくお願います。
Posted by: じぇいかん | November 28, 2019 05:47 PM
こにちは、初めまして。
私は治助の孫の敏雄と申します。貴方の情報がきつかけとなりル−ツ探しをしています。情報をお持ちでしたら教えて下さい。宜しくお願います。
Posted by: toshio miyazaki | November 26, 2019 09:48 AM
じぇいかんさん こん**は、
はじめてコメントさせて頂きます。
私も一応ハムでして計算尺(特にヘンミ製)の収集を趣味にしており、現在型番有り品で160種を所有しております。
ただここに載っているNO.14は持っておりません。とても珍しいですね。
逆に東海道新幹線開業記念の2634は持っております。たしかYAHOOで手に入れたと思います。
私のお宝は、NO.10です。ルーペ付きは、他にもPICとFaberのものを持っています。
じぇいかんさんのお宝は何ですか?
Posted by: FAN-HEMMI | September 26, 2008 08:23 AM