英国製TECHNICAL STANDARD計算尺
湿度の少ない欧米で計算尺の素材として使用されたのは中南米産のマホガニー材で、これは17世紀あたりからの高級家具の素材としての定番です。その狂いがこなく重量が軽いという性質を以て計算尺に使用されたということは至極自然な事ですが、湿気の多い日本の気候では逸見次郎がマホガニーを使って欧米の計算尺の模倣に苦労したとおり、計算尺の素材としては適さないものでした。逸見次郎の苦労の甲斐あって竹の素材を組み合わせ、湿気や乾燥にも狂いの少ない竹素材が定番となりますので、あえて外国からの輸入材であるマホガニーを使用した計算尺が日本で作られ、販売されていた例を当方は知りません。マホガニーの単板ではなくベニヤ板のような合板素材の計算尺なら戦中戦後の粗製濫造期に何社か販売したようですが、手間の掛かる竹製計算尺のさらに代用品扱いというようなポジションの所詮「安物」です。
入手したTHE TECHNICAL STANDARDという計算尺は、おそらく二次大戦中もしくはそれ以前の英国製計算尺です。このTECHNICAL STANDARDというのはいわゆる商標で製造元はBRITISH SLIDE RULE CO.,LTD.という会社のようです。日本流であったら日本計算尺株式会社というところでしょうが、これくらいしかこの計算尺に関する情報を把握していません。厚さ実に1.5cmという分厚い計算尺で、この厚さにより狂いを防いでいるのでしょうか。また上下の固定尺を繋いでいるのはマホガニーの板とセルロイド板の二層構造ですが、裏の補助カーソル線窓にこれも分厚いセルロイドの枠がねじ止めされていてこのブロックのおかげで計算尺の本体が裏側に反ってしまうことを防いでいるようです。そのおかげでおおよそ65年は経過している木製尺なのにも係わらず上下固定尺と滑尺の間にはまったく隙間も開かず、何ら潤滑剤などを塗布しなくとも滑尺は驚くほどスムースに動きます。この時代の英国製計算尺の多くがそうであるように、目盛りは張り込まれたセルロイドに刻まれるわけではなく、印刷したものを木製尺表面に貼り付け、そこに透明なセルロイドを貼り、そのセルの両端を釘留めしています。その透明セルが経年で黄変してますので、表面が黄ばんで見えるわけです。HEMMIの片面尺と異なり上下の固定尺がまったく同じ形状です。そのため、断面を見ると台形状の上下対称で、上端にインチスケール、下端にメトリックのスケールを持ちます。表面は、M,A,[B,C,]D,N,の6尺、滑尺裏はS,ST,T,の三尺ですが、このうちMはLL2,NはLL3相当のべき乗尺です。それじゃあLL0,LL1相当尺が無いのかというと、どうやらD尺を読み替えて使用させるようですが、説明書なんぞ当然のことありませんから良くはわかりません。しかし当然のこと右に行くに従い精度が落ちることになるのでしょうが…。滑尺裏の三角関数尺は一番広いところで1/12度分割で、微少角計算用にST尺を備えます。上固定尺上端にはインチスケール、下固定尺下端にはメトリックスケールを備えます。カーソルはアクリル板、カーソルバーも樹脂製で、カーソル線は黒で入れられています。
TECHNICAL STANDARD計算尺表面拡大画像はこちら
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Comments
はじめまして、私工業高校出身でして男兄弟全員工業高校出身です。たしか、兄のお古がこれだった様に思います。その頃の学校の購買部で売っていたものは、既にプラスティック(塩化ビニール?)のものでした。また既に授業ではもう計算尺は使っていないようですね。なんか懐かしくコメントさせて頂きました。
Posted by: ネモ | July 02, 2008 12:40 AM