HEMMI No.64T システムリッツ一般機械技術用
昭和一桁の時代から殆どその形態を変えなかったシステムリッツの10インチ片面尺 No.64ですが、いろいろと特殊用途の計算尺が出そろった昭和30年代にあっては流石に旧態依然な古さを隠しきれなかったからか、昭和39年末からBI尺DI尺の逆尺を追加し、裏のT尺を2分割にしたHEMMI No.64Tという新しいシステムリッツの計算尺にモデルチェンジしました。しかし、戦前から活躍した技術者などからのシステムリッツ尺を望む根強い要望はあったものの、機械技術系や電気技術系の計算にはすでに使いやすい専用の両面計算尺が普及していたためか、意外にこのNo.64Tは中古市場では見かけることの希な計算尺です。比較検討を詳しく行ったわけではないので細かい違いはわかりませんが、ケースには初期の緑の貼箱と緑の帯が入った模様地貼箱の2種類が存在し、本体はNo.2664Sなどの刻印の変遷と同様に、裏側にメーカー名と形式名の入る初期形と表面右上部に形式名、右下部にメーカー名の入った後期形の2種類があります。また最初期形に付属する説明書の表紙カラーはオレンジ。すぐに他の片面尺同様に表紙の色刷り部分は暗青緑色(ようするに黒板色か?)になったようです。また後期の刻印は緑箱のものにも存在するようなので、刻印の変更と箱の変更のタイミングは必ずしも一致しないようです。換算表もNo.2664S同様にねじ留めのある初期形と、単に裏板に挟み込んである後期形の2種類があるようです。まあ個体数が圧倒的に少ないのでこれくらいの事しか言えません(^_^;) しかし、個体数が少ないのにも係わらず、売れなかった計算尺故か古い文房具店のデッドストックとして未開封で出てくる可能性のある計算尺で、今回の計算尺もそのようなケースで出てきた物がリサイクル店に出てきた物でした。個人的には友人が勤める会社の研究室のパソコン裏から発掘され、送られてきた計算尺がたまたまNo.2664SではなくてNo.64だったためか、システムリッツの計算尺のは違和感がないというより、一時期 No.64を常用していたために目はずれがあろうが無かろうがリッツの片面尺好きであることは今も変わりません。
尺配置は表面がK,A,[B,BI,CI,C,]D,DI,Lの9尺、滑尺裏はT2,T1,ST,Sの4尺です。システムリッツのNo.64にはかつて尺の種類を表す刻印が一切ありませんでしたが、このNo.64Tにモデルチェンジして初めて表面の尺に順尺には黒で、逆尺には赤で尺種類が刻まれ、「尺の種類もわからないユーザーを拒む」計算尺から普通の計算尺になりました(笑)延長尺のレンジは昭和30年代のNo.64と同じですが、延長尺は尺も刻まれている数字も赤く入れられています。そういえばHEMMIの型番には「DI尺が追加」で元の型式にDが付番されたり、K尺が追加されてKが付番されたり、SPECIALを表すSや-Sの付番がありましたが、このNo.64Tの「T」はどういう意味でしょうか?戦前に薄型の計算尺を表す「THIN」の意味でTが付番されたNo.34Tの例がありましたが、これとは明らかに異なりますし…。戦後の計算尺で末尾にTが付番された計算尺はこのNo.64Tと640系竹プラ構造のリッツ版 No.642Tのみのようです。
入手先は以前、技研の計算尺を入手した千歳烏山のリサイクルショップからでした。刻印は「PC」で昭和40年の3月製造ものです。No.64Tでは最初期形に近く、形式名とメーカー名もすべて裏側に入ってます。さらに換算表もねじ留めのあるタイプで、ケースも30年代の10インチ系片面計算尺に共通するラージロゴの緑貼箱入り。説明書も初期形のオレンジ色の色刷り表紙説明書でしたが裏の識別記号は一年遅れた「6601Y」でした。外箱は赤箱です。
BI尺DI尺の追加によりこの逆尺にも左右に赤い延長部分を持ちますので、No.64よりもかなり「赤っぽい」印象を受け、さらにNo.64の右延長部分はC尺D尺の11を表す部分にのみ[1]の数字が刻印されているだけですが、No.64Tは左右延長部分のA,B,BI,CI,C,D尺のすべてに数字の刻印があり、少々込み入りすぎてうるさい印象を受けます。ゲージマークはラジアンと度・分・秒換算用の3種のゲージマーク及びA,B尺C,D尺上のπなどは共通ですが、円の断面積計算用のCマークは残ったものの目はずれ対策用のC1マーク及びA,B,尺上のMマークはなくなりました。またNo.64のC,D尺上の4から5までの目盛り単位は1/20で刻まれており、新しいNo.2664Sなどの片面尺と比べると、いささか「疎」でしたが、No.64Tになって初めて1/50と目盛り単位が初めて細かく刻まれるようになりました。カーソルは円の断面積計算とhpとkW換算用の副カーソル線を備える3本線カーソルです。残念ながらというか幸いにも本体のビニール未開封の未使用品だったため、スキャナーにかかりませんでした(^_^;)
| Permalink | 0
Comments