HEMMI No.64 システムリッツ計算尺
システムリッツの計算尺であるNo.64は基本的な内容を変えずに昭和一桁の時代から昭和39年の末にNo.64Tにモデルチェンジするまで一般・機械技術用計算尺として三十数年に渡って発売され続けてきました。もっとも刻印から見るとNo.64とNo.64Tは1年ほど生産がオーバーラップしていた時期がありそうです。このNo.64がもっとも輝いていたのはやはり戦前で、機械や電気の別を問わず技術系の計算尺としては両面型のNo.153とともに多用されてきました。戦争の進展とともに「軍事技術」につながる分野での需要が急増してきたことにも原因があったかもしれません。ところが戦時中に√10ずらし尺を備えるNo.2664が出来、戦後は各専門分野の計算尺が発売されるに至り、No.64の占有率は相対的に下がり、No.2664Sの時代になっては完全に少数派に陥った観があります。それでもNo.64TからNo.642Tにモデルチェンジしてまで作り続けられた計算尺ですので、海外はもちろんのこと、国内でも戦前派の技術者を中心に計算ツールとしての根強い要求があったのでしょう。
今回入手したNo.64は戦後のものですが、戦後のNo.64には延長尺部分の始点の相違でおおまかに前期型と後期型の2種類が存在します。前期型は戦前のNo.64同様にA,B尺の左の始点が0.785なのに対して後期型は0.8、C,D尺が前期型0.89に対して後期型は0.9です。この違いは電気用計算尺のNo.80Kも同様で、この延長尺の始点の違いで前期型と後期型が存在します。手元にやってきたNo.64は箱こそスモールロゴの緑貼箱でしたので、20年代末期の前期型を期待してましたが、刻印が「JJ」ですので昭和34年10月製の後期型です。計算尺の内容的には以前から使用していた「NB」刻印の昭和38年2月製と外見は殆ど変わりませんが、構造的には昭和34年物が裏板と固定尺の接合が一部ネジを使用した古いタイプで、昭和38年物は換算表だけネジ留めで裏板と固定尺の接合は上下ともにピン接合という違いがあります。また34年物はπの足が釣り針型でρマークも尾が巻いた旧タイプですが、38年物は2664S同様に新タイプに変わっています。さらに下固定尺サイドのスケールは34年物は単なる10インチのスケールですが、38年物は13-0-13センチメートルのスケールに変わっています。さらに34年物は妙に金色っぽいアルマイトの裏板が使用されていました。出所は札幌で、地元でも老舗の自動車短大の名前と所持者名が裏板に彫り込まれていましたが、おそらく在学中に使われただけでそのまま放り出されていたらしく、程度は悪くありません。その点、伝説的な研究室の主で計算の鬼といわれたT氏の愛用品だったNo.64はセルのはげや打ち傷などもあり、決して程度は良くありませんが「仕事を成し遂げた道具」としてのすがすがしさを感じさせます。届いたNo.64はカーソルをよく覗くとなんかおかしい感じがしました。よく見るとカーソルガラスが表裏反対にはめ込まれており、カーソル線と目盛りまでの距離があるために違和感を感じたようです。このカーソルグラスはカーソルバネを縮めながら慎重にカーソル枠から外さないといけませんが、これが慣れないと難しく下手にカーソル枠からドライバーでこじったりするとガラスはすぐに割れてしまうので注意が必要です。以前リコーの片面尺のカーソル枠が緩かったために、溝にはまりこむ部分をちょっと内側にラジオペンチで曲げようとして見事にカーソルグラスにヒビを入れた事があります(^_^;) 3本線カーソルはなかなか予備が手に入らないので慎重にバネを縮めてグラスを外し、裏返しにして通常の状態に戻しましたが、前オーナーはカーソルグラスが裏返っていようとまったく気にしなかったようで、これでこの計算尺が真剣に使われていたのかどうかが何となくわかろうという物でしょう(笑)
HEMMI No.64 システムリッツ計算尺(JJ刻印)表面拡大画像はこちら
HEMMI No.64 システムリッツ計算尺(JJ刻印)裏面拡大画像はこちら
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