J.HEMMI No.4 電気用(末期型)
J.HEMMI時代の10インチ電気用計算尺は通常のNo.3と位取りカーソル付のNo.4がありましたが、この電気用計算尺というのは第一次大戦によりドイツ製計算尺の輸入が途絶えた欧米諸国からの要求によって誕生した、逸見式改良計算尺としては最初の特殊計算尺で、そもそも欧米から「ドイツの計算尺そのまま」を要求されたことと、ヘンミ側にまだ独自の開発能力が無かったため、このNo.3はドイツ製 A.W.FABER 378のデッドコピー商品だったということです。このA.W.FABERの378電気尺も同じ型番で後期型は延長尺付3本線カーソル付へと変貌を遂げますが、このJ.HEMMI No.3は当然の事ながら前期型がコピーされています。またA.W.FABERにはCI尺が加わった398という型番の電気尺があり、こちらのほうはNo.3のモデルチェンジ版 HEMMI No.80の原型のようです。もっともNo.80ではA.W.FABERのように側面のLL尺追加はかなわなかったようですが。
No.3もNo.4も短い期間のうちにカーソルだけでも色々なパターンが存在するようで、No.3のほうは初期がNo.1同様の四角いアルミフレームのカーソルからPAT.51788の樹脂カーソルバーを使用した四角いメタルフレームカーソルに変わり、最終的にはカーソルグラスをカーソルバーに直接ねじ留めしたフレームレスカーソルが付属した物がJ.HEMMI時代のNo.3の最終らしく、No.4のほうはNo.2同様に初期は四角いアルミのフレームに肉抜きのないアルミの文字盤で、インジケータ根元にアルミのスタッドが付いたカーソルからPAT.51788の四角いメタルフレームのインジケータ付きカーソルを経てPAT.58115の逆C型フレームを持つインジケータ付きA型カーソルが付属します。このインジケータ付きA型カーソルにしても文字盤に肉抜きのない物とある物、さらにインジケータ根元がアルミスタッド付きか蟹爪状に開いているかのパターンがあり、どういう改良なのか良くわかりません(^_^;) まあ「未だ試行錯誤の時代」の製品ですから同じ型番でありながら、色々と細かい差異があるのはコレクターにとっては歓迎すべき事柄なんでしょうが(笑)
今回入手したJ.HEMMI No.4 電気用計算尺は、実は一年半ほど前にJ.HEMMI No.2 を入手した福岡の人からで、そのときに型番がわからない計算尺があるので教えて欲しいとメールで画像が送られてきた計算尺です。そのときに80年前の電気用計算尺で、数が残っていないため大事にしたほうが良いとアドバイスしたところ、本人は価値が高いと判断したのでしょう。残念ながら側面に大きくセル剥がれがあり、カーソルグラスも欠品なので肝心の計算機能が喪失しており、計算用具として機能しないため、「計算尺の残骸」なのですが、その計算尺の残骸がいつの間にかオクで5,000円近い開始価格で出品されてました。そりゃあ美品ばかり追い求めているコレクターには見向きもされませんし、いつしかどんどん開始価格が下げられるも一向に入札者が現れず、当初の出品価格の1/5になったところで、それなら研究資料にと落札してしまったものです。逆Cフレームを持つA型カーソル付きながら、位取りの文字盤に切り欠きのないタイプで、このカーソルはごく短期間にしか作られなかったようです。うちのNo.2にもこのカーソルが付いたものがありますが、かなり少数派に属するようです。このMo.3系統の計算尺はNo.1系統より幅広の計算尺で、とは言えNo.80よりも僅かにナローサイズなため、共用できるカーソルがありません。当初、後年の戦前製計算尺のカーソルグラスを取り出して流用しようかと目論んでいましたが、残念ながらNo.50系統もNo.64系統も、はたまたNo.40系統もすべてカーソルのサイズが合わないオフサイズの計算尺です。驚いたことに届いたNo.4は今まで見たことのないA,,B,C,D,尺にそれぞれ尺種類を表す刻印が付いていました。奇しくも全く同じ形のカーソルが付いたNo.2にも尺種類を表す刻印のあるものが手元にありますので、これはJ.HEMMI時代のNo.3系統からすると末期に属するものなのかもしれません。また通常下固定尺右下にあるmade in Japanの刻印もありません。また、裏側にも白いセルロイドが平貼りされていて、裏側も白くなっており、さらに上下のスケール左右の鋲留めも無く、初期のNo.3系統とも異なりますので、やはり時代的には昭和3年前後の製造の「末期型」ということが確定出来るでしょう。しかし他にこういうNo3系統の計算尺は見たことがありません。こういう標準型から外れたイレギュラーな製品は個人的には大歓迎です(笑)内容的には表面がLL2,A,[B,C,]D,LL3で、滑尺裏がS,L,T,、さらに滑尺溝にモーターなどの効率や線路の電圧降下などを計算するE,F,尺を備えます。No.3系統は後のNo.80系統と異なり、このE,F,尺が上下にセパレートになっていて、短い滑尺の先端に設けられた金属のインジケーターがNo.80系統が「┤型」なのに対して「コ型」になっていて、古い電気尺の識別点になっています。
No.3とNo.4はJ.HEMMIの商標から"SUN"HEMMIに移行して新たな計算尺が誕生する過程で、後に10インチ片面計算尺の標準サイズとなるワイドボディのそれぞれNo.80とNo.81にモデルチェンジします。このNo.80系の計算尺は当初はNo.3とNo.4のデザインそのままに「CI」尺が無かったと言われていますが、その現物はまだ見たことがありません。またNo.80やNo.81の発売当初のモデルに限らず、No.60やNo.64などの極初期モデルなども殆ど見かけず、かえってJ.HEMMI時代の計算尺のほうが世の中に多いような気がしますが、どうやら"SUN"HEMMIの商標に変わり、新系列の計算尺を発売したことがちょうど世界恐慌が始まった時期で、輸出はおろか国内向けの生産も停滞したことに原因があるような気がします。そして世界が戦争へと走り始める昭和10年代は軍需に関係するありとあらゆる産業で計算用具が大量に必要となり、この頃の計算尺が比較的多く残っているのも頷けるような気がします。
カーソル線を黒で作ってしまいましたが、もうこの時代は赤でカーソル線を入れるのが正しいようです。
J.HEMMI No.4電気用(末期型)表面拡大画像はこちら
J.HEMMI No.4電気用(末期型)裏面拡大画像はこちら
J.HEMMI No.4電気用(末期型)滑尺溝部分拡大画像はこちら
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