計算尺の裏板交換に挑戦!
戦前から戦時中にかけてのHEMMI計算尺やRelayの計算尺に多く見られる欠陥が裏の金属板の腐食です。特に昭和10年以降のHEMMI計算尺の裏板で表面に灰色のアルマイトがかけてあるものは、裏板の厚さが0.3ミリと極薄の素材が使用されており、このアルミ板を本体に取り付ける鋲が貫通することにより表面のアルマイトと内部のアルミ素地に一種の金属電池を形成し、湿気に長期間曝されるとじわじわと電気分解を起こすために、長期間使用されずにそのままケースに入れられてしまい込まれた物は殆どといっていいほど腐食が始まっています。特に竹部分に挟み込まれている端の部分から腐食が始まるため、分解したアルミが酸素と結合して体積が膨張し、溝の部分を押し上げるため、溝にゆがみを来してしまうことが多く、さらに腐食が均等におこるわけではないため、溝が何カ所も押し広げられてしまったものを多く見かけます。そうなった計算尺をそのまま放置するか、手を加えるかは考え方が分かれるでしょうが、当方は剥がれたセルはジャンクの計算尺から皮膚移植し、割れたり喪失したカーソルグラスは入れ歯を作って補修するのを主義とするため、この裏板腐食問題も新たな物を作って交換しようという「再生派」です。
用意した裏板腐食の計算尺は改良A型カーソル付きの、おそらく戦時中のNo.50/1です。このNo.50/1は裏板の無いことをまったく知らずに掴まされたシロモノで、このナローボディのNo.50/1はそうそう頻繁に見かける物ではないので、いつか裏板を交換する第一候補となっていたものです。用意したアルミ板は長辺がちょうど10X30センチで厚さが0.5mmのもので、近所のDIY店で300円ほどでした。この長さなら戦後のNo.2664Sクラスのボディでも十分な長さです。腐食した裏板の厚さは0.3mmですが、この厚さでは心許ないため、戦後ものの0.5mmとしたものです。幅26mmにけがきをしてPカッターでみぞを入れ、あて板をしてL字に少しずつ折り込み、逆にあて板をして反対側に折り込むと割と簡単にかつ切断面もきれいに切り出す事が出来ました。1.5センチほど長さを短くしてこの状態で本来の溝にはめ込んでみますが、残っていた鋲の頭が引っかかったり裏板の寸法が微妙に大きかったりヤスリ一本で修正を迫られました。やっとはまりこんだ裏板の補助カーソル線窓⊃字加工ですが、電動ルーターなんかがあれば簡単に出来そうな物の、そんなものは持っていませんので無謀にも半丸ヤスリ一本で手仕上げすることになりました。裏板を本体にあてがい、⊃字の削り代をマジックインキで黒く塗りつぶし、切削範囲を決めました。しかる後、裏板をバイスに固定し、ヤスリで黒い部分を削っていきますが、けっこう手間の掛かる根気のいる仕事で、こんなの他人の為だったらお金を貰っても引き合いませんね(^_^;) 黒く印を施した部分を削り取り、カーソル線が刻まれた樹脂板の範囲まで2ミリと見積もり、赤で範囲を決めてさらにヤスリで削っていきます。もう0.5ミリ削りたい箇所があったのですが、何度も本体からの抜き差しすることが困難なため、今回はこれでギブアップ(笑)本体への鋲打ちですが、元の鋲を抜くことは実質上無理で、鋲をさらう事もボール盤でもなければ困難です。そのため、元の鋲位置から2ミリほどオフセットさせた位置に鋲を打ち直して裏板を固定することにしました。ホームセンターで一番細くて短い釘は太さ0.9mmで長さ6mmのものでしたので、これを購入してきました。裏板の鋲打ち込み位置にポンチで印を打っていきます。この場所に釘を打ち込み、頭をニッパーでさらってさらにピンポンチを使って片側8箇所合計で16箇所の鋲打ちが完成し、裏板の固定完了です。出来映えは初めての裏板交換の割にはまあまあの出来なのですが、腐食した裏板が膨張して波打った溝を修正しようと、下半分を金属製のバットの中で煮て、ポケットバイスを何カ所もかけて溝の膨らみ修正を試みたときに裏側に向かって反りが出てしまい、溝は修正出来たものの反りのため表側滑尺との真ん中あたりの接触面に隙間が出てしまったのが失敗でした。今度は「反り修正器」を作って修正を試みましょう。そういえばこの昭和10年代のNo.50/1はそうでなくとも直角断面の下側固定尺に反りが出やすいらしく、後で入手したA型カーソル付きで裏板は腐食がないNo.50/1も鋭角断面の上固定尺は何でもないのに下側の固定尺には同じように僅かに反りが出ていました。どうもサイズと構造に問題があるらしく、戦後になってNo.2664と同じワイドボディにモデルチェンジしてNo.50Wになったのはこういう問題の克服という理由もあったのかもしれません。
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