HEMMI No.86K 6"電気用計算尺
昨年末にIDEAL RELAY時代のNo.601を入手したのが6インチ計算尺としては最初の一本になりましたが、類は友を呼ぶというわけでもないのでしょうがタイミング良く2本目の6インチ計算尺を入手しました。それもなぜか今まで殆ど見たこともない昭和30年代のHEMMI6インチ電気用計算尺No.86Kです。昭和40年代まで作られていたはずなのにまるでお化けみたいな存在で、めったに遭遇することがないため今回初めて現物を目にすることが出来ました。このNo.86Kは戦前のNo.80の6インチ縮小版であるNo.86/3が戦後の昭和25年末に下固定尺側面にK尺を加えたNo.86/3Kを経て、最終的にNo.80Kの6インチ縮小版であるNo.86Kに生まれ変わるわけです。戦後型のNo.86/3Kは戦前の電気尺同様に滑尺溝部分にモーターの効率および電圧降下を計算する尺が刻まれていて、滑尺のインジケータで目盛を読むために、滑尺が上下の固定尺より短いという外見上の特徴がありましたが、10インチのNo.80Kの方は最初からNo.2664やNo.64と共通のボディとなったため、この6インチのNo.86Kもモーター効率および電圧降下尺が表面に移動し、滑尺も上下固定尺と等長となっています。しかし、なぜ戦前のNo.86/3の下固定尺側面にK尺を刻んだNo.86/3Kが戦後のごく短期間に発売される理由があったのかは一つの謎です。このNo86/3Kは戦前No.80/3同様に滑尺裏のSINはA,B,尺目盛で、L尺T尺はC,D,尺で読むタイプで、副カーソル線を刻んだ透明セルロイドも嵌っていない旧態依然のシロモノです。また戦後のNo.86/3KはA,B,尺の延長部分が戦前No.80/3同様に0.785から、C,D,尺は0.890スタートとなっていますが、入手したNo.86Kは通常型のNo.80K同様に0.8と0.9スタートの延長目盛です。この6インチNo.86Kにも延長目盛の違いで2種類が存在するかどうかはサンプルが少なすぎて把握していません。
10インチのNo.80Kもさほど見かけない存在であるのに輪をかけてNo.86Kは虱潰しに捜しても見つからない計算尺です。その理由は戦前は電気技術の専門家以外にもNo.80/3が使われたためか、今でもNo.80というと戦前尺のほうを多く見かけますが、戦後は専用計算尺の種類も増えたため、相対的にNo.80系統のシェアが激減したことにありそうです。しかもアメリカ人技師は10インチの計算尺を皮ケースごと腰にぶら下げて歩くのがごく普通でしたから、ましてグローバルスタンダードから外れる6インチの電気尺の需要がアメリカで旺盛だったとも考えられません。そのため、6インチ電気尺のNo.86Kの生産数がそもそも当初から少なかったのでしょう。
尺種類は10インチのNo.80とまったく同じで、表面がE,F,A,[B,CI,C,]D,LL2,LL3で側面にK尺を刻み、滑尺裏はS,L,T,尺です。目盛密度が10インチ尺と同一で省略がないため、拡大レンズ無しの裸眼ではいささか厳しい感じですが、戦前のように拡大レンズ付きのバージョンは発売されなかったようです。カーソルは円の断面積と出力換算のための補助カーソル線付き3本線で、側面にK尺が刻まれたため透明セルロイドで出来たインジケーターが付く専用品になります。なお、K尺は目盛が込み入ったことが原因で10,100,1000の0がすべて省略されて1,1,1と刻まれているのが10インチ尺と異なります。
入手先は、あの特殊計算尺研究所がバネ計算尺を生んだ群馬の桐生市からでした。昔から機業が盛んだった事から発展した機械工業・自動車部品工業の町だけありこのような計算尺の需要も旺盛だったのでしょう。おまけに金園社版村上次朗の「計算尺の使い方」と何故かNo.255D/275Dの短冊形説明書が付いていました(^_^;) 刻印は「JJ」ですから昭和34年10月製。箱はスモールロゴの緑貼箱ですが、刻印が10インチ用と変わらないので6インチ用の貼箱に箔押しすると殆ど上蓋の大半がロゴマークに埋め尽くされるような感じです。箱はセロハンテープで巻かれたボロでしたが、中身は反りも隙間もない上の部類でした。
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