Nestler Nr.26 MECHANICA
ARISTとA.W.FABERとともにドイツ計算尺御三家の一角を担うNestlerの計算尺です。Nestlerの計算尺の初期のものはセルのはがれ止めに小さなマイナスねじを打ってあるのが特徴ですが、見かけでは初期のA.W.FABERのものとほとんど変わらず、特にマンハイムタイプは画像だけ見せられてもドイツ製のどのメーカーの計算尺かわからないものがけっこうあります。この初期型のNestlerは以前のシーメンス・シュケルトのノベルティーであるPre WW IのNr.12の5インチタイプを入手しましたが、今回は10インチでねじ止めのない比較的に新しい時代のNr.26です。とはいっても戦後の同型計算尺は品番が変わっていますのでPre WW IIくらいの時代はあるでしょうか。Nestlerで一番有名な計算尺はかのアルベルト・アインシュタインを始め、ロケット工学者のフォン・ブラウンやセルゲイ・コロレフなどに使用され、まさに未来を切り開いたツールであるシステムリッツ式計算尺「Nr.23」ですが、今回のNr.26はNr.23ほど有名ではない計算尺ながら戦後はNr.0260と品番を変えながらも実質的に全く変わらない計算尺が1975年に至るまで作り続けられていたようで、まったく以て頑固なドイツ人気質を伺わせるような計算尺です。戦後のNestler計算尺は他社同様にコストダウンからプラスチック化していき、計算尺末期には日本の技研系OEMの計算尺なども現れたようですが、この10インチ片面計算尺シリーズのダルムスタッド、リッツ、メカニカの三種類はマホガニー製のものが発売され続けてきたようです。
このNr.26メカニカの基本はA,B,C,D,尺のマンハイムとその派生型ではなく二乗尺三乗尺の組み合わせなのです。表面はRohr (phi)mm // Schnittiefe a, Hobein m/s, (Pattenbr.) D.H./min [ Schnittgeschw.m/min, Vorschub s/U in mm Vorschub s/U in mm, C ] D th in min. で側面にtan, sinが刻まれていますが、実はこの計算尺は旋盤による金属の切削加工のための切削速度や回転数などを計算する特殊計算尺なのです。この計算尺の原型はFREDERICK TAYLORという人によって開発され、A.W.FABERなどでも348や1-48などの型番で1970年代まで発売され続けています。日本ではなぜかHEMMIをはじめとする大手メーカーでこの種の計算尺を市販したことがないのが不思議ですが、機械メーカーが特注品として作られたものが幾種類かあったようです。しかし、旋盤加工の現場でしか使用されなかったゆえに、我々が目にすることは殆どありません。現場じゃ何年も昔からNC旋盤の時代ですし…。
入手先は東京からで、おそらくドイツ本国からの買い付け品に混じっていた品物のような感じでした。かなりの長期間発売され続けた計算尺ですから、製造年代に関して興味のあるところですが、Made in W.Germanyの刻印が見あたらず、やはり辛うじて戦前もしくは戦時中の製品なのではないかと想像します。世界にはこの手の旋盤切削計算尺を専門に研究している人がいますので、興味のある方は検索してみてください。
しかし、日本に同様の計算尺がなかった理由ですが、戦前における工業力の差もさることながら、徒弟制度的な技術の伝承という面において、そういう計算は親方の「感」に頼っていて、それは弟子が長年親方の仕事をともにすることによって習得できる技であり、同じドイツはマイスターの国ですが、そういうものは感にたよるのではなく、合理的な方法により算出するという違いがこの手の計算尺の必要性の有無に影響していたのかもしれません。
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