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January 16, 2012

Bainbridge式炭鉱用安全燈(クラニー燈)

Bainbridge_2  このやたらと腰硝子が長くてガーゼメッシュが寸詰まりの安全燈はベインブリッジ安全燈といってあまり情報の多くない流通量も少ない安全燈ですが、形態的にはクラニー燈に属する旧式油灯安全燈です。一種の高輝度安全燈で油灯安全燈としてはやや幅広の平芯を使用し、大きな腰硝子を通して大きな炎の明かりを得るというものらしいです。この腰硝子がテーパー状になっているのが特徴的ですが、発明されたのが英国なのにもかかわらず、なぜかベルギーで多く製造され大陸側で主に使用された安全燈です。ボンネットがない形態が基本ですが、メタンが多い炭鉱のために丸型のボンネットを持ったベインブリッジ安全燈も存在したようです。年代的には1880年代のようで、まもなく炭鉱用安全燈の決定版、ウルフ揮発油燈が出現し、英国でも1887年の鉱山規則改正でこの手のクラニー燈が使用出来なくなったため、ほとんどベルギー国内のみで使用された形式の安全燈のようですが、なぜベルギーなのかはよくわかりません。また理由はわかりませんが少数がアメリカに渡ったようです。また今回のベインブリッジ安全燈はロックシステムがなぜかありませんでしたので、もしかしたらレプリカなんじゃないかと思いましたら、数少ない資料の記述によるとベルギー国内使用のベインブリッジ安全燈にはロックシステムが無かったんだそうです。一切の刻印がありませんが、製造はベルギー南部のフランスとの国境に近い炭田地帯のラ・ボバリーとかいう町に存在したアンドレとかいう会社で製造されたらしいです。500番台のビットナンバーダグが半田付けされてましたので、実際に一度は坑内に下りた安全燈に間違いないでしょう。実はこんな珍なる安全燈なのにもかかわらず、レプリカが存在するそうです。しかし、オリジナルよりもなぜか一回り大きく仕上がったようで、オリジナルの全高が約9インチなのに対し、レプリカは11インチ弱あるらしいです。このレプリカはトーマス・ウイリアムスのように全世界的に出回っているわけではなく、ドイツのとある炭鉱ミュージアムのお土産品として売られているんだとか。このベインブリッジ安全燈は腰硝子を巨大化させることによって防爆性のかなめでもある金属メッシュが申し訳程度の大きさになっています。また金属メッシュの密度も1インチ四方あたりの網目の数が後の規格では784必要なのにもかかわらず、それよりかなり疎のような気がします。メタンガスに対する防爆性能に関しては追って知るべしということでしょう。裸火のカンテラよりはマシかもしれませんが、日本でいう言うところの甲種炭鉱で使用するにはあまりにもリスクが大きすぎます。また吸気は腰硝子下の穴あきリング部分からのようですが、この部分にはウルフ安全燈のような金網ははまっているわけではなく(この個体には欠品になってしまったのかもしれませんが)ここからの吸気は通気の流速によって炎の同様が激しく、風速が大きいと消炎するなど少々どころか大いに心配な構造です。そのくせ腰硝子とガーゼメッシュおよび下部リングの間にはちゃんとアスベストを介したパッキングがはまっています。この手の金属メッシュが申し訳程度の大きさのクラニー燈は国産らしきものが明治30年前後に常磐炭田などで使用されているのを当時の絵葉書等で知ることが出来ますが、近代的な安全燈以前はこの程度の防爆性能のクラニー燈が炭鉱における個別照明器具の標準だったのかもしれません。明治30年も末になりますと安全燈取扱不良や不良安全燈によるガス爆発で一度に数百人も犠牲になる「大非常」と呼ばれる坑内災害が頻発しますが、これを契機に大手資本の炭鉱からクラニー燈の使用が止まり、ウルフ燈などの揮発油安全燈へのシフトが急速に進み、直方安全燈試験場が設立されて、安全燈の試験から発破火薬等の試験が行われ、炭鉱のガス爆発防止への研究が進んでいきます。安全燈本体の機械加工精度は明治期の本多船燈製造所のクラニー燈などと比べると雲泥の差があり、本多のクラニー燈は切れない刃物と中心が出きっていない旋盤で無理やり加工している体があり、明らかにバイトが動揺して妙な削り痕が残っているのに対して、こちらのベインブリッジ安全燈はさすがは銃器製造などの歴史が長いベルギーの挽物加工品だけあって大変に精度が高く美しい仕上がりになっています。ただこの個体はウイックピッカーの通るパイプが底板に対して斜めにロウ付けされていて、そこから灯油が漏れるので、その修正のため、バーナーであぶってロウ付けし直さなければならず、その後も油壺と底板のロウ付け部分から灯油が滲んだりして、実際に点火に至るまでけっこう手間がかかりました。ウルフ燈などの揮発油燈はオイルライターのように油壷に綿が充填されていて、そこにベンジンを注入するわけなので、オイル漏れということにはまず無縁なのですが(そのかわりライターと違い、燃料は使い切らないと残りは蒸発してしまいます)、古いクラニー燈はウイックピッカーパイプと底板の接合部分がウィークポイントになっているようです。

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