HEMMI No.103かNo.51/1かその境目が微妙な…
個人商店時代のヘンミ計算尺に月桂冠の大倉一族の女婿である大倉龜が経営参加を申し入れたのが大正14年ですが、その大倉龜の意見を入れて海外に輸出することを主眼にして大正15年に発表されたのが大正15年型計算尺と呼ばれるNo.100番台の計算尺です。それまで発売してきたマンハイム型のNo.1に対して逆尺のCI尺を加えた物がNo.100、CI尺とK尺を加えた物がNo.102。それぞれ位取りカーソルが付属したものがNo.101とNo.103になります。また大正15年型計算尺には電気用の5"尺のNo.104と位取りカーソル付きのNo.105およびそれらの拡大レンズ付きのNo.106とNo.107がありました。この大正15年型計算尺の当時のパンフレットを昨年、偶然に入手しており、実物を入手していないのにもかかわらずその全貌が把握できてしまった次第。 このJ.HEMMI時代のNo.100番台計算尺はかなり希少な計算尺で、それでなくとも昭和4年にNo.50番台およびNo.83,84に発展してこの100番台は後に学校教材用大型計算尺の系列に化けてしまいます。100番台の大正15年型計算尺は位取りカーソル付きを除いて通常型のカーソルはフレームレス型で、見かけ上後のNo.50/1と異なります。このフレームレスカーソルは当時の世界的な流行だったようで、ドイツのA.W.FABERもアメリカのK&Eも片面尺はフレームレスカーソルでした。HEMMIの片面尺は言うなればA.W.FABERのコピーから始まったので、アルミフレームのカーソルからフレームレスカーソルになったのもA.W.FABERに追随したということなのでしょう。またCI尺K尺の追加もA.W.FABERに遅れてのことで、何らオリジナルのものではありません。J.HEMMI時代のNo.100,102と昭和4年に刻印がHEMMI "SUN"に変更になった後のNo.50/1,51/1の見かけ上の違いですが、当初は殆ど見分けがつかなかったと推測しています。というのもNo.50系列の最初期型は100番台同様にセル表面にはがれ止めの鋲がつき、カーソルもフレームレスカーソルが付属していた節があるからなのですが、それらは他の計算尺同様に逆CのA型カーソルに統一され、これもAW.FABERにならったのかはがれ止めの鋲も省略されて、我々が通常目にする戦前型のナロータイプのNo.50/1に変更になりました。No.100とNo.102の違いはK尺追加の有無にあります。No.100は単にマンハイム型A,B,C,D尺に逆尺のCI尺を追加した物、No.102はさらにK尺が加わりA,B,CI,C,D,Kとなっています。K尺追加の有無だけで2種類の計算尺を作り出すのは姑息な感じもしないではありませんが、さすがに後に仕様が継承されたのはNo.102のほうだけで、後に同仕様がないNo.100のほうが言いようによっては希少なのかもしれません。また、フレームレスカーソルはカーソルバーの劣化でバラバラになってしまい、完全品として残る確率は位取りカーソル付きの方が高いようです。 昨年同好の方々がNo.2645で盛り上がっているさなかに入手したのは位取り付きのNo.103ではないかと思って落札したもので、J.HEMMIとしては後期型の長フラップ付きケースに入ってました。場所は広島の呉からで、一緒にこれもとても古いAW.FABERの5"尺がでておりましたので、こちらのほうも一緒にいただいてしまいました。双方ともに呉の海軍工廠あたりで使用されたものなのでしょう。帝大出身の技術将校や軍属たちが艦船や兵器の設計に使用していたものなのかもしれません。後年のNo.51/1に比較すると固定尺および滑尺の鋲が際だちます。大正15年型計算尺のパンフレットを見ると、No.103の価格は当時で7円50銭となっています。この100番台計算尺は当方の知る限りここ数年で1本くらいしかオークション上では登場していませんが、前回出てきたのは昨年6月頃で、まとめて7本ほどの計算尺の中に混じっていました。そのときの落札者はそれが大正15年型のNo.103だったことに気が付いていたのかどうかはわかりません。とはいえ前回の物と異なり今回のNo.103と思われる計算尺は昭和4年直前のものらしく、初期のNo.103とは刻印が異なります。限りなくNo.51/1に近い仕様の後期型No.103といえるのか、新系列No.51/1と言うべきモデルなのか。とにかく大正14年から昭和4年までは計算尺のカーソルや刻印がめまぐるしく仕様変更されるため、「これ」という標準モデルがわかりにくいということがありますが、当方の結論からすると昭和4年の前半に作られたNo.103と同じNo.51/1でケースはJ.HEMMIの末期型をそのまま引きずり刻印だけは新系列になったものと理解すべきでしょう。ただ、No.103からNo.51/1に正式に品番が変更になったのは昭和4年の何月ころかはわかりませんが、この新系列の計算尺はケース裏に大きい英語のインストラクションシールの付いた蓋付きケースに収まっていますので、No.51/1とも言い切れない微妙な時期に発売されたものであることは確かなようです。しかし本来は表面にJ.HEMMI "SUN"と刻まれなければいけないものが、今回のものは滑尺を抜いたところに"SUN" HEMMI MADE IN JAPANとだけ刻まれてます。まあすべての固定尺、滑尺のセルが鋲止めなので、明らかに後のNo.50系列とは見かけが異なりますのでそれでも良しとしましょう。
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