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March 19, 2012

陸軍歩兵砲用計算尺?実は88式7.5cm野戦高射砲用弾道計算尺

 陸軍の砲兵用計算尺としては前回大東亜戦末期のHEMMI製苗頭計算尺を入手しましたが、砲術の理論というのは砲兵将校が会得するものであって、下士官兵が弾道計算をして砲を操作するものではありません。しかし砲兵以外の歩兵の装備として昔、曲射砲と呼ばれていた迫撃砲や小口径の榴弾砲などがあり、こちらは特別な知識なしに下士官兵が簡単に照準計算をするように、どれか特定の砲の照準装置付属品の類として作られたのがこの計算尺のようです。といいつつ正式名称や確証も得られないというのも、この手の日本軍の弾道計算尺に関しては解説がまったく見あたらず、当方もこれまで見かけたものはほんの数本です。また尺の種類が異なるタイプが見受けられますが、今回入手したものとまったく同じ物がほんの一月前にオク上に出品され、おそらく軍用品マニアにけっこうな高値で落札されていました。個人装備ではなく兵器であることの証明として東京工廠の検印を意味する「東」の刻印と滑尺と固定尺に同一のシリアルナンバーが入っています。また最大の特徴として砲金(not真鍮)素材の延べ板をフライス加工した全金属製計算尺で、そのために形状はHEMMIのスケール付き片面計算尺と同一ながらものすごく重い計算尺です。最初手にしたときは思わず笑ってしまうほどの重量でした。もちろん大リーグボール養成ギブスのように滑尺さばきを早くするため人間に負荷をかける目的ではなく、思わず厳しい鍛錬に根を上げた人間に「貴様それでも軍人か!」と制裁を加える責具のためのものでもなく、単に砲の付属物扱いのために当然のこと全金属製となったというわけなのでしょう。真鍮製では真っ黒になるか緑青に覆われそうなものですが、良質な砲金製ということもあり、六十数年の時代を経ても一部が黒ずんでいるだけで元の輝きは失っていませんでした。
 スタイルとしては古いFABER CASTELの計算尺にカーソルまでそっくりですから、独逸の同種の砲兵用計算尺をスタイルごとコピーしてしまったのかもしれません。また金属に目盛りを刻む手法はもしかしたら戦後の「OZI DELTA計算尺」あたりにつながっているのかもしれません。 尺種類は流石に下士官兵でもわかるようにか英語を廃されてまして、表面が距離(10-10,000)[正弦(1-1300)、正弦(3199-1900)]距離(10-10,000)で滑尺裏が[距離(10-10,000)、正切~度1/16(0.01-45)、円周1/5400(1-800)となっており、裏返して使用するようになっています。基線長は一般的な10インチで全長は28センチ。上に28センチまでのスケールが刻まれ、下固定尺側面には28センチを140分割したスケールが刻まれています。「正切」は通常「正接」なのではないかと思いましたら、昔はこういう「切」の字を当てていたこともあったようで、誤刻ではないようです。さすがに竹製計算尺と比べると滑尺の動きはスムースとは言えませんが、まったく狂いはなく精度は抜群です。砲金製ということもあり滑尺溝にはグリース等で滑りをスムースにする必要があります。  
 ところで、砲兵や歩兵砲専従歩兵などは本来自衛のための小銃や拳銃を装備するのが一般的ですが、それすらも行き渡らず、自衛の兵器というと銃剣一本しか帯びていないということもあったようです。遙か明治の時代の砲兵は「牛蒡剣」と呼ばれた着剣装置のない銃剣状の刀剣一本で(明治陸軍になってからの砲兵は当初フランス式に銃装していたのにもかかわらず、後に取り上げられたそうな)不意に襲い来る清国兵やロシア兵と白兵戦を演じることもあったらしく、そうなると最後の手段として鉄扇代わりに金属製の計算尺で敵の頭を殴る使用法くらい考えていたのかもしれません(笑)これくらいの重量と形状があれば殴られたら確実に脳天をかち割られて絶命します(^_^;) でもこの砲金製計算尺というものは武器にはなかなか手ごろで、No.2664Sあたりの目盛り砲金製計算尺があったら防御武器のかわりに日常携帯したいなんて思いますが、いくら計算具と説明しても空港じゃ検査の際に取り上げられるでしょうね。
 この手の軍用計算尺は茶色い皮製のフラップ付きケースに収まっていることが多いようなんですが、この計算尺は分厚いボール紙を芯にしたカーキ色キャンパス地でフラップのみ茶皮のとても丈夫なケースに収められていました。こんなケースじゃないと重いこの計算尺はすぐにケースの底を突き破ってしまいそうです。
2017.8.14追記
 最近オークション上に布製ケースバージョンの本計算尺が出品されていて、そのケースに使用火砲の種類が筆書きされていました。それによるとこの弾道計算尺は88式7.5センチ野戦高射砲用の計算尺だそうです。昭和20年の終戦まで野戦高射砲隊の主力であり続けたこの高射砲は本土は及び外地にも広く展開されていてその数も多たったため、この金属製弾道計算尺がいまでもたくさん残っている理由なのでしょう。この高射砲の残骸の実物はグアムで見た事があります。水平射撃にも使えるような設計だったのですが、分解して馬匹での移動を容易にするため軽量化に力が入れられてそのため駐退機が弱く多数の水平射撃には耐えられなかったという話です。米軍上陸時には水平射撃してM4戦車の撃破に活躍したそうです。
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