ナショナル照明計算尺
松下電器産業(現PANASONIC)の照明計算尺は昭和40年代に作られたと思われるコート紙製と思しき簡易な物をよく見ますが、今回のようなプラスチック製の棒状計算尺には初めて遭遇しました。おそらくは昭和30年代のものだと思いますが、この頃から作業環境における照度は単純に部屋の面積に対する照明の数という概念から脱し、照明器具の種類や直接・間接照明の違い、照明率や減光補償率などの複雑な要素を加味して照明の種類と数を計算するというように変化していったものだと考えます。照明計算尺はまだ白熱灯しか使われていなかった大正末期にすでに存在していたそうですが、当時の照明計算尺にはお目にかかったことがないので、どういうものだったのかはわかりませんが、後に残らなかった事実から簡単な紙にでも印刷されたようなものだったのでしょうか。戦後の照明計算尺は白熱灯と蛍光灯の両方の必要数が計算できるようになり、ナショナルの照明計算尺が40年代以降のものも棒状計算尺だったのに対して、東芝の照明計算尺は円形計算尺になりました。どちらにしても文具店で売られるような計算尺ではなく、電気工事業者や電器店などにメーカーから配られるような性質のものなので、数も少なく、われわれが入手するためには廃業電器店あたりの処分品にでも行き当たらないと入手が難しい計算尺なわけです。現にわがコレクションの中でも照明計算尺は以前熊本から入手した東芝の円形計算尺と今回のナショナル照明計算尺の2本しかありません。透明なビニールの裏側に印刷してさらにビニール樹脂でサンドイッチしている構造なのですが、経年劣化でそれぞれのパーツが分離しかかってまして、さらにビニールも溶けかけてべたべたになっているところもあり、完全に賞味期限切れの計算尺でした。滑尺が裏板に張り付いていて動かすこともできませんでしたが、固定尺のサンドイッチ部分を割って滑尺を取り出しました。そのため、印刷面が上と下の樹脂に分離してしまい、接着剤で貼り付けると溶剤で印刷インキが流れる心配があります。そのため、アクリル工作用の透明度の高い両面テープを購入し、サンドイッチ構造を元に接着しなおしましたが、さすがに文字の輪郭などが元には戻りませんでした。なお、滑尺裏にはインチとセンチのスケールが刻まれています。端子間のサイズがインチかメトリックかなどの判断に使ったのでしょうが、現在ではJISマークが付いていない配線器具を使用することは禁じられてます。でもそもそもはコンセントのプラグの両極の距離が元々がハーフインチですからJISの配線器具といえどもインチの亡霊をいくつも引きずっているということですね。
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