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May 12, 2013

AMERICAN BLUE PRINT 軍用計算尺(K&E 4053-3)

405331  Keuffel & Esserは日本で言うと幕末期に創業した歴史ある製図用具のメーカーで、計算尺はすでに19世紀末には世界でもトップクラスのメーカーであったことは疑いありません。日本では明治の後期に築地の中村浅吉測量機械店が取り扱っていたようで、同店の目録にはメーカー名は記されていないもののK&E製計算尺が記載されています。のちに米国も第一次世界大戦に参戦し計算尺の製造より武器の製造が忙しかったことと、そこにHEMMIの竹製計算尺が台頭してきたことで、K&Eの計算尺はその後日本国内では広く販売された様子も無いため、K&Eの計算尺が国内から出てくることはきわめて稀です。しかし、数少ない米国留学帰りの日本人や戦後の進駐軍によって国内に持ち込まれたK&Eの計算尺がオク上に何本か出回ったことがあり、以前立川から米軍流れの通称アメジャンの一部だったのか1956年ごろのK&E 4053-3を入手したことがありました。405332 今回、都内の解体家屋片付けから出てきた計算尺はK&Eの4053-3でありながらK&Eの計算尺ではないというまず日本では入手不可能な米軍用計算尺です。No.4053-3の軍用は以前からその存在は知っていましたが、計算尺とまったく関係の無い他メーカーがNo.4053-3を作って軍に納入していたなんて情報はまったくありません。そのメーカーの名前というのはAmerican Blue Print Co.というニューヨークの会社で、市販の計算尺は見当たらず軍用の計算尺が2種類だけ確認されているものです。そのひとつが弾道系計算尺のK&E No.4108と今回のNo.4053-3なのです。一説によるとAmerican Blue Printという会社は以前より軍納入指定ライセンスをもっていたために、自社の名義でK&Eに上記2種類を製造させ、米軍に納入されただけで、製造メーカーではないという話もありますが(検証していません)、K&E自体も上記2種類を自社の刻印で米軍に納入しています。またNo.4053-3に関しては構造と仕様がAmerican Blue Print社納入のものは、K&Eオリジナルのものと差異があるのです。基本的にはHEMMIのNo.40RKとでも言うべき日本では初心者用として片付けられてしまいそうな計算尺ですが、軍用のNo.4053-3は拡大鏡つきカーソルが特徴で、それを収めるケースも拡大鏡の厚みだけその部分が膨らんだ黒革製シース型ケースが付きます。そのケース自体、K&EとABPのものは異なり、K&Eのものは市販と同じ革ケースのフラップ部分にU.S.の刻印をスタンプしたこげ茶色革ケースに対して、ABPのものは黒革製の本体にU.S.刻印が入った一枚革のケースです。これがなんとも昔のコルトガバメントの軍用ホルスターみたいで格好がよいものです。405333 本体の構成も微妙に異なり、K&Eの片面計算尺は固定尺の片方が文字通り固定され、もう片方がネジ止めされているのに対し、このABPのものは固定尺の両方ともネジ止めになっています。また計算尺本体の断面は双方ともスクエアになっていますが、K&Eのほうは上固定尺側面にスケールが刻まれているのに対し、ABPのほうはスケールが省略され、木の地肌がむき出しです。またカーソルバーの材質も異なるようで、K&Eの当時の計算尺にありがちな加水分解でバラバラになってしまうような様子は微塵もありません さらにK&Eには必ず打たれるシリアルナンバーも形式名もありません。ただ、尺のゲージマークの形状などは双方ともまったく同じで、双方とも同一の器械で目盛切りされたことは確かなようです。裏のコンバージョンテーブルも社名の印刷が異なるのと角が丸いかどうかの違いくらいで差異はありません。またK&Eのほうは詳しくわからないのですが、ABPのカーソルは拡大鏡をはめる部分はわざわざ金属のカーソルフレームをカットした形状になっており、ガラス側面に直接拡大鏡のフレームが引っかかるように出来ています。しかし、このアメリカンブループリントという会社はまるっきり計算尺には関係ない業種の会社かと思ったら、意外な事に創業者兄弟は戦前戦後を通じて米国内に逸見計算尺を売り出していたフレデリック・ポストの従兄弟で、一緒にデンマークから移民してきたということです。割と早くこの青写真のビジネスのための会社を設立したようですが、一旦手放した事業を再度買い戻したりしながら1914年にNYに拠点を置いた会社をなしたようです。この青写真のビジネスというのは一昔前まで設計図などの正確な複製には欠かせないもので、面白いことにリコー創業者の市村氏のそもそもの事業の始まりは理研の感光紙を売り出すことから始まっていますので、意外に計算尺と感光紙のビジネスは表裏一体だったのかもしれません。
ところで、この軍用計算尺の製造年代ですが、間違いなく第二次大戦中のものでしょう。わざわざ計算尺ごときにU.S.マークが付けられたというのも大げさですが、大戦中の軍用物資が他に流れないようにとのことで、軍用物資調達規定に何でもかんでもU.S.刻印を刻むということが織り込み済みだったのかもしれません。連合軍ということで、他国のものと管理区分を明確にするためかもしれませんが、はたして英軍用計算尺にブロードアローが刻まれていたかは興味のあるところです。後年この手の消耗品刻印は「U.S.Government Property」と、ごく小さく刻まれる刻まれることが一般的になったような気がします。しかし、元の持ち主に関する情報はまったくありませんが、よくありがちな「戦後の一時期、進駐軍の仕事をしていて入手した」というのが真相なんでしょう。
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