FUJI No.1280-S 工業高校用計算尺
一般向けHEMMI計算尺の製造が実質的に終了した昭和50年以降、昭和53年まで継続して販売され続けたのがFUJIの計算尺ですが、当然のことながら工業高校特納扱いで片面尺も両面尺も「工業高校用」のシールがつけられました。しかし、No.1280シリーズは内容的には工業高校生にはもったいないくらい機能が充実し、日本製計算尺の終末期を飾るにふさわしいものになっています。以前、未開封新品のNo.1280-Tという26尺装備のフルログログデュープレックスを入手してますが、もったいなくてとても使う気になれず、手軽に使用可能な中古のNo.1280-TかNo.1280-Sが欲しいと思っていたのですが、元来終末期のFUJIの両面計算尺はさほど出回っているわけではなく、さりとてあんまり高い金額を払う気もなく、何年か経過して今回3本まとめて1,100円で落札した一本がFUJIのNo.1280-Sでした。No.1280-Tと比べるとLL-0とLL0が省略され、T尺が2分割になっておらずST尺になっている等の違いがありますが、P尺も備え裏面カーソルにはしっかり副カーソル線まで備えるというなかなかの高級両面計算尺です。表面からLL-1,LL-2,LL-3,DF,[CF,CIF,CI,C,]D,LL3,LL2,LL1の12尺、裏面がL,K,A,[B,ST,T,S,C,]D,DI,P,の11尺の合計23尺で、裏面のA,B,C,D,尺は延長尺を持つため全長33.5cmもあり、身幅も4.9cm余りある幅広の計算尺です。角度の単位は1度が60秒分割です。末期のFIJI 両面計算尺の分類は非常にわかりづらいのですが、角度の単位が60分割のものがNo.330-DとNo.1280-Sおよび数はすくないながらNo.1280-D、100分割のものがNo.1280-Tとなります。そのうち、No.330-DにST尺を追加した発展形がNo.1280-S、フルログログデュープレックスで角度60分割がNo.1280-D、100分割がNo.1280-Tとなるのですが、このうちNo.1280-D自体、なぜか過去に1本しか見たことがありません。デッドストックで出てくるものの殆どはNo.1280-SとNo.1280-Tの2種類で、昭和50年代に突入し、工業高校でも関数電卓を使い始めた学校も多くなり、店頭在庫が売れ残って今に至ったのが真相でしょうか。とはいってもHEMMIのデッドストック出現率に比べると生産数が少ないせいなのか文具店などでデッドストックに遭遇する確率はきわめて低確率です。以前より国内よりも海外向けOEMやHEMMI向けのOEMなどが主力で、国内向けに販売された量がそもそも少ないのが理由です。
末期FUJI両面計算尺の特徴として机の上に置いてカーソルと滑尺操作が無理なく行われるように分厚いプラスチックのブリッジと反対側にも丸いゴム付きの足がついています。そこまでデスクトップでの使用にこだわる意味がわかりませんが、尺本来の厚みともあいまって、何ともぼってりした印象の計算尺で、さらに塩化ビニール素材ということでかなりの重量もあり、好みが分かれるところです。ケースは緑蓋のポリエチレンブロー成型のケースですが、これには二種類あって、初期(40年代末期)までが模様が細かい縦線になってるもの、50年代に入ってからは革シボのような模様が入ったもので、デッドストックで出てくるものは殆どがこの革シボ模様のポリエチレンケースに入ったものです。実はこの革シボポリエチレンケースにはエラーものがあって、本体にエンボスで入っている「FUJI SLIDE RULE」のロゴがなんと「FUJI SLID RULE」とSLIDEのEの字が抜けてしまって出荷されたものがあり、今回のものはまさにそのエラーものケースが付属していました。さすがに痛恨の極みと感じたかどうかはわかりませんが、わざわざ金型を修正して後の出荷分はちゃんとEの字を加えた正しい綴りに修正されています。ところがよくよく観察すると、このスペル修正版ケースは同じ革シボタイプながら、ケース周囲にリブを設けたまったく異なる仕様で、Eのロゴだけ付け足したのではなく、新たに金型を起こしてしまったようです。そうなると緑蓋の両面用ケースは初期の細かい縦線タイプ、スペルミスの革シボタイプ、周囲にリブが入ったスペル修正版の3種のケースが存在することになります。入手先は神戸の垂水区で、神戸市内から発掘されたのかどうかはわかりませんが、震災をかいくぐって今に残った事実に感謝しなければいけません。神戸市内からは殆ど未使用のタイガー計算器を初め、数本の計算尺を入手しています。
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