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October 01, 2013

☆Relay☆ R-806 8" 学生用計算尺

 昭和26年の学習指導要領の変更により、正式に中学の数学で計算尺を扱うことになりましたが、その標準的な計算尺の仕様が文部省によって示されなかったためか、長さ8インチの学生用計算尺(教科書からはみ出さないサイズということで8インチになったといわれていますが…)がさまざまなタイプの学生用計算尺が複数のメーカーから発売されました。大まかにはマンハイム型と√10切断ずらし尺の2タイプを各社でアレンジしたものです。やはり戦前から学生用計算尺に係わり、戦後は内田洋行という強力なエージェントを持ったHEMMIが製造するNo.2640とNo.45に追随し、この2本よりさらにコストを落として売価150~200円くらいの学生尺を製造し、市場に食い込むためにはやはり各社苦労したようで、成型品のオールプラスチックの計算尺を作るメーカー、HEMMI同様に竹製計算尺を作りながら工程を一部省略し、さらに滑尺裏に中学では扱わない三角関数をばっさり切り捨て換算表も省略し、滑尺裏にセルロイドを張らず、わざわざペイントで白塗りするのはまだましなほうで、竹の地のままで製品にしたメーカーなどもありました。HEMMIあたりでもNo.2640やNo.45より大幅にコストの安い計算尺が対抗上必要になり、150円で販売が可能なプラ尺 No.P-23やP-24をわざわざ山梨系のプラ尺メーカーに作らせたほどでした。
 今回ひょんなことで札幌から入手した計算尺は竹製計算尺ながら、まさにコストダウンの産物というか側面のニス塗り省略、滑尺裏セルロイド省略という、まさに絵に描いたような廉価版8インチ学生尺です。この計算尺はダブルスター時代のRelay R-806で、√10系切断ずらし尺ですが、かなり前に同時代のマンハイム型R-801を入手しています。頭にアルファベットの付く形式名は輸出用の品番でRは学生用を意味しますが、どういうわけかこのダブルスター時代の輸出用品番を持つRelay計算尺はそのまま国内にも流通しており、さらに国内向けの品番が同時期に流通しているという不思議な現象も起きています。R-801とNo.80などはその例に当てはまると思われます。ところが、このR-806に関しては国内向けの品番を持つ同一品が見当たりません。さらに8インチの学生尺は世界的に見るとオフサイズの計算尺のため、どうも輸出に回った形跡が見当たらず、そのために輸出用品番を持ちながら国内専用だった計算尺という不思議なことになってしまいます。また√10切断に馴染みの無いアメリカではこのR-806はなおさら対米輸出は難しかったでしょう。対米輸出用では10インチのマンハイム尺であるHEMMI No.40RKが初心者用の計算尺として大量に海を渡っています。札幌から届いたR-806は値札でもはがされたのか、外箱にシールのはがし跡がありましたが、どうやら未使用のデッドストックで、使用していると必ず底が抜ける紫の貼り箱ケースは形式名シールが残っており、そこに価格が表示されていました。それによると定価250円だそうで、さすがにコストダウンの産物なれどもプラ尺に対抗しうる値段にはならなかったようです。当時の諸物価から比較すると、どうやら現在の物価がだいたい12倍相当くらいなので、そうなるとこんなものでも現在の価格からすると3,000円相当の価値になるようです。もっとも今の日本でこれを3,000円で作るのは無理です。当時の小学校教員初任給が7800円(昭和29年)だそうですから人件費は12倍の高騰どころではありません。こういう手間が掛かるがさほど金額にならないものが日本のものづくりから消えてしまったことがよくわかります。
 ところで、手持ちの8インチ尺のなかからとてもよく似たものを掘り出しました。それはFUJIのNo.86という計算尺で、後に同じ品番で別な尺に化けたかもしれませんが、今あるものはFUJIには珍しく竹製で、R-806とまったく同じレイアウトの尺種を持つものです。共に滑尺裏のセルを省略したのもので、ゲージマークも三角関数がないので微小角を計算する必要がないのに度の微小角計算のものと円面積計算のCを備えるのもまったく同じ。さらにπの書体なんかも共通ですが、基本的に数字やゲージマークの級数が異なるようです。また、R-806は滑尺裏が竹のむき出しですが、No.86はご丁寧に白塗りされています。しかもR-806を始め、この時代のダブルスターリレーの片面尺は固定尺どうしを留める金属が缶詰のような金色アルマイトのアルミ板ですが、奇しくもFUJI No.86もこの金色アルマイトという現代中国人が喜びそうな仕様で、そこまで似てくるとどうも意図的な作為が感じられて仕方がありません。R-806が250円に対してFUJIのNo.86は200円ですが、これはR-806の蓋付ケースに対して戦時尺同様の紙サックケース入りNo.86の差というところではないでしょうか?R-806のデートコードが「CS-3」ですから昭和29年の3月製に対し、このFUJI No.86にはデートコードらしきものが「4-3」と打たれており。これを解読するとどうやらこれは1954年の3月を意味しているようです。そうなれば、両者ともに同じ年の同じ月に製造されたことになり、さらに806と86の数の関連性など、この事実をどう推理するか単なる偶然かはたまた我々の知らない事実が隠されているのか、興味の尽きないところです。
 しかし、この両者ともに滑尺裏のセルを省略してしまったために、経年のセルの収縮で滑尺がセルのほうを内側にして反ってしまっています。その点、計算尺としてはさすがに未だに反りもこないHEMMIのNo.45には適わないのですが、当時の金額としては安くない計算尺を買ってもらって、それが代々中学に入学した弟妹たちに引き継がれ、兄弟全員の高校進学とともに役目を終えたなんてことを考えたら、60年経過した現在の状態がどうあろうとも、ちゃんと計算道具として役目を全うしたのではないかと考えます。
Relayr806

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Comments

ジェイカンさん YOSHIです。楽しませていただいています。

小生の持っているFUJI No82は86同様竹製です。86にK尺が付加されて、DFは3と3.3までのオーバーレンジです。データコード4-1です。箱は蓋付きです。

FUJINo83はプラ尺でFUJI刻印の金属カーソル、ケースはサックです。

このころのFUJIは何だか謎ですね。

Posted by: YOSHI | October 12, 2013 05:42 PM

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