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March 08, 2014

鉱山用手提げカンテラ油燈

140306_102924  幕末から明治の初めにかけて、家屋の照明といえば蝋燭が非常に高価だったためになかなか普段使いにできず、主に種油を、ときには種油に魚油を混ぜたようなものを使用した灯明や行灯などが使用されましたが、ポータブルの照明として蝋燭の手燭以外に西洋から入ってきた器具を、そのままの形で真似して日本で製作された吊りカンテラが一般でも使用されたようです。このカンテラという語源はオランダ語のカンデラーで、英語のキャンドルと同意語のようですが、日本では主にひょうそくと呼ばれた陶器製の灯火器に類似した土瓶のような形のものの口に綿芯を立て、種油や魚油、ときには臭水(原油)などの液体燃料を使用した灯火器をカンテラと呼んでいたようです。ほとんど西洋から入ってきたものそのままの姿で製作されましたが、材質に鋳物と真鍮の主に2種類が認められます。鋳物のものは形態的に2種類あり、西洋でレンチキュラーランプと呼ばれる鋳物製の比較的に薄手のもので、蓋にピーコックなどの装飾摘みがついているものと、小型の土瓶のような姿のものが認められます。また真鍮製は土瓶型で、いずれも手燭でも梁や長押に引っ掛けても使えるように、鉤のついた柄のようなものが付いています。また朝鮮から渡ってきたカラスの頭のような形の比較的に小型の鋳物の吊り灯火器もあり、こちらは鎖がついていてその先端に鉤が付いているというもので、一般的には手燭兼用のものが屋内の台所や風呂場などで使用されたのに対し、こちらは主に鉱山で使用されたとも言われておりますが、これらの灯火器の歴史には詳しくありません。江戸期の金属鉱山の坑内では、灯明皿を使用した灯火や巻貝に芯を立てた灯火器などが使用されてきたようですが、幕末あたりから西洋渡りのカンテラを模したものが携帯用の灯火器として使用されるようになったようです。
  明治に時代が変わり、旧鉱業法が発効して誰でも国から鉱区を取得すれば地下の資源を自由に採掘できるようになり、各地に炭鉱や鉱山が次々に開鉱しますが、坑内の照明といえば江戸期と殆ど変わりませんでした。しかし、江戸期にはほとんど利用されてこなかった石炭が当初は製塩用に、のちに工業用や船舶用のボイラー燃料として大量に採掘されるようになるにしたがって、採掘場所もだんだん深度を増し、そろそろメタンガスの洗礼を受け始めてガス爆発の被害をこうむるようになる明治20年代後半からメタンガスに引火しにくいデービー安全灯やクラニー安全灯などの油安全灯が普及するようになります。
 その安全灯普及期まで主に炭鉱で使用されたのがそれまで一般で使用されていたブリキや真鍮製の手提げカンテラです。炭鉱用のカンテラは、主に産炭地周辺のブリキ屋がブリキの空き缶などを再利用して製作した土瓶に吊り下げの鉤がついたような形の灯火器で、やはり原型は西洋の鉱山用手提げカンテラそのままのようです。何せ軽く100年以上昔のブリキ製品ですから火にさらされ水にさらされ続けて錆びて朽ち果ててしまい、今となっては残っているものを目にすることは非常に稀です。現代に残っているのは腐食に強い真鍮板を使用したもので、おそらく本多船燈製造所や小柳金属品製作所のような灯火器専門の板金工場が安全灯製作以前に手がけていたものだと思われます。筑豊などで使用されていたブリキの手提げカンテラは断面が丸ではなく角のものが多いようですが、西洋のものに四角い油壷のカンテラが見つからないので、これは加工を容易にするための筑豊オリジナルなのかもしれません。地元のブリキ屋が空缶を利用して作っていたのでは数百個単位での受注に応じきれず、後のものは専門の灯火器製造業者の製作だということは容易に想像がつきます。今回入手した手提げカンテラは銅と真鍮板で出来ていますが、錆びて朽ち果てることはないにせよ、これだってけっこう珍しいのです。この手の灯火器は大抵芯を装着する土瓶の口に相当する部分が二重の構造になっていますが、これは一重だとすぐに熱が伝わってハンダが融けてしまい、ハンダ付けしてある土瓶の口が取れてしまうことと、当時の植物性油は粘性が高くて垂れてしまい、それを油壷に回収するためなんだとか。そういやそのためか口に円い鍔のついた灯火器も見かけます。また安全灯同様に吊り鉤がついていますが、ここの部分に鉄で作った「ひあかし棒」を取り付けて、坑木などに打ち込んで使用していました。金属鉱山のようにメタンガスの心配のない鉱山では明治の後期になるとポータブルのカーバイドランプに取って換わられますが、油灯カンテラからひあかし棒だけ取り外してカーバイドランプに取り付けることはよくされていたようで、今でもひあかし棒付きのカーバイドランプは昔鉱山が近所に存在した地方の納屋や農機具小屋などからよく見つかります。


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