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July 05, 2015

船舶用ボンネッテッドクラニー安全燈

150705_091446  炭鉱用安全燈として製作されたものは船舶用の灯火として使用するために海事用として転用されたものがありますが、これは炭鉱同様に密閉された空間に可燃性ガス(ボイラーが損傷して燃焼中の石炭に缶水が触れて一酸化炭素が発生したり、揮発油の気化等によるもの)や粉塵(船倉内に舞い上がった積荷の粉体など)が引火点に達する濃度となった場合に引火爆発する可能性があり、また船倉内には酸素欠乏箇所もあって酸素濃度を検知する必要もあり、あるトン数を超える船舶は逓信省(戦後には運輸省)の形式認定を受けた防爆燈を備える義務があったようです。実際に昭和の初期には米国本国などから石油製品を輸入するタンカーなどで気化した可燃性ガス引火事故が発生したということですし、現在でも船倉内の点検や清掃に入って有毒ガスや酸欠で命を落としたという事故があります。当方の知る限りでは戦前戦後を通して唯一本多電気(本多船燈製造所の後身)が炭鉱用に供給していたウルフ安全燈コピーの本多式簡易ガス検定燈が逓信省と運輸省の双方とも形式認定を取った唯一の揮発油燈タイプの防爆安全燈だと思いますが、双方とも形式名・製造メーカー・検定番号・製造年月・製造番号などが刻まれた大型の銘板が油壷に付されることで、逓信省と運輸省の銘板の無い炭鉱用簡易ガス検定燈と区別することが出来ます。この海事用の防爆安全燈は昭和30年代にはバッテリー式の防爆ハンドランプに完全に換わってしまいましたが、実際には相当以前から備え付け義務があったものの使われることのない備品(船舶用の銅鑼やふいご式の霧笛同様に)だったのかもしれません。というのも常時メタンガスの危険と隣り合わせの炭鉱よりも、船舶では安全燈を使用しなければいけない状況というのは酸素欠乏箇所検知を除いて少なく、また揮発油安全燈は蓋の開いたオイルライターのように充填したオイルは蒸発してしまうため、いざ使用する段に燃料充填の手間がかかり、現実には火気使用制限エリアで手あぶり程度の暖房代わりに使われたというのが正しいのでしょうか。船舶用としては昭和30年代に日本船灯によって販売された本多電気製のウルフ燈を見たことがあり、ちゃんと日本船灯の銘板が装着されていましたが、運輸省の形式番号や製造年月が記載された銘板には本多電気と記載されていました。
 今回入手した安全燈は日本製であることは疑いの無い代物なのですが、イギリス在住の安全燈コレクターが所有しているもの以外にまったく見かけたことがなく、製造所を含めて謎の安全燈でした。そのコレクター所有の刻印から得られた情報が唯一「SENTO」だったことから船燈であることを想像し、日本船燈あたりの製造ではないかとを疑いましたが、日本船燈は昭和10年代からの会社なのでこのような燈火を製造していたことは考えられず、本多船灯製造所の刻印は「T.HONDA TOKYO」でのちには松葉の菱形にHの文字の社紋となり「Sento」の刻印は一度も使用しておらず、どうやら本多製でもなさそうです。また明治時代から「船燈製造及販売規則」という法律によって船舶で使用される燈火はプレートに船燈というタイトルとともに製品種類、製造年月、製造番号、製造場所、製造会社(多くは個人商店名)が付されていて、「船燈」がすべてのプレートのタイトルとなると正体を特定するのは困難を極めます。唯一亀甲にNKのマークが確認できますが旧日本鋼管はNKKですし、こんなものに手を出すはずはありませんが、どうやら大阪に存在する中村重政の中村船燈製造所が製造した可能性が高いです。実際に届いた代物にはペイントが塗り込められたトップハットにエッジング銘板が装着されていました。剥離剤でペイントをはがして銘板の判読を試みましたが判読できた文字は「月製…株式会社…東京大阪」の結局わずかな情報しか得られませんでした。しかし、銘板の感じからするとやはり船舶用の安全燈と判断してよさそうです。あまり大きな商船で使用されたものではなく、往年の木造機帆船あたりの規模の船舶で使用されたものなのでしょうか。
 安全燈としての構造はやはりボンネッテッドクラニー燈なのですが、日本の炭鉱坑内で使用された国産のデービー燈やクラニー燈が種油などの石油由来以外の燃料専用で、精製度の高い灯油を使用するとバーナーステムから炎が燃え上がってしまうのに対してこれはさすがにクラニー燈といえども石油専用になっているようで、逆火がバーナーステムに開いたホールに引火しないようバーナーが改良されています。また空気の流入経路が根本的に改良されていて、ガードピラー下部リング側面の二箇所に網が張られてそこからピンホール3個が内部に貫通していてそこから吸い込んだ空気で燃焼して排気がカーゼメッシュを通して上部から逃げるというウルフ燈に近い空気の経路となっています。芯の上げ下げもウルフ燈同様に油壷下部のネジで繰り出すようになっています。またロックシステムも簡単なサイドボルトロックでした。また炭鉱坑内で使用するものではないため上部の吊り環は鉤ではなく直径も細い環となっていました。ところがカーゼメッシュのところが金属の円筒で囲われた明らかに国産のボンネッテッドクラニー燈がほかにも存在し、一度目にしたことのあるものは明らかに坑道内で使用された形跡のある傷だらけの安全燈でした。それは銅山が多く操業していた秋田から出たものだったのでガス爆発防止のためではなく、発破直後の坑道内で粉塵爆発防止のために試用されたものだったのでしょうか?これは油壷などの形状からして本多船燈製に間違いないようでした。
この手の安全燈に共通する構造として油壷本体は真鍮を旋盤加工してくり抜き、鉄板もしくは真鍮板製の円形底板をロウ付けするものなのですが、打撃により油壷の変形や経年劣化によって、今では灯油を注ぐと底板のロウ付け部分やウイックピッカーステムのロウ付け部分から灯油がじわじわと漏れ出してくるものがほとんどです。逆に揮発油燈はベンジンを油壷の綿にしみこませる構造なので、液体の漏れのリスクは少ないです。そのため、症状の軽いものはガストーチで半田付け部分を炙り直す程度で漏れが止まることもあるのですが、今回の安全燈は複数個所から液漏れしていたので、瞬間接着剤を何層も重ねて埋めなおしてしまいました。構造上灯油を充填するたびに芯上下のためのネジをはずさなければならなく、非常に面倒くさい構造です。また炭鉱用安全燈の腰硝子は熱処理された分厚いものなのにくらべて、この安全燈の腰硝子はそれにくらべると2/3くらいの薄いものが着いています。

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