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August 10, 2015

オーティス・キングス円筒計算尺L型

150810_133912 計算尺の精度を高めるためには有効基線長を高める必要がありますが、通常の10インチの計算尺の読み取り精度を一桁あげるにはその二乗の長さ、すなわち100インチの計算尺が必要だということになります。そんな長さの計算尺を部屋の中で使うわけにもいかず、またそのような長さの計算尺に精密で狂いのない目盛りを刻むのも至難の技であるため、20インチの計算尺に80インチの基線長を4分割で目盛りを刻んだものが実質的な超精密計算尺として認知されているわけです。その計算尺の精度をより高める試みは古くから円筒に目盛りをスパイラルに刻んでゆくことは誰しも考えたことなのでしょうが、特許を取って実際に商品化したのは1878年にジョージ・フーラによって考案された円筒計算尺やエドウィン・サッチャーが1881年に特許を取得し、スイスのディモン・シュミットという会社が市販した円筒計算尺などがありましたが、どちらも研究室などで使用することを想定して、外に持ち歩くということは考慮されておらず、タイガー計算機なみの可搬性しかなかったと思います。その円筒計算尺を思い切って極小サイズにしてポケットに入れて持ち運びを可能にしたのがイギリスのカービックという会社から発売されたオーティス・キングスという円筒計算尺です。おそらく世界で一番成功した円筒計算尺でその販売期間は1921年から1972年という長きにわたり、基本構造がまったく変わらずに発売し続けられました。長期間にわたりかなりな数が出回っているため戦前から日本にも入ってきているようですが、一般の用途にはここまでの精度は要求されないので、おそらくは大学などの研究室や企業の設計開発部門などの業務用に使用されたのでしょう。また輸入品としてさぞかし高価な計算道具だったはずで、それゆえに国内にあったものが中古市場に出てくることはけっこうまれです。でも本国イギリスでは最終価格が4ポンド25ペンス少々とかなりお安い計算具であったため、電卓出現後も一定の需要があったようで、在庫分は1978年ごろまで売られていたというような情報もあります。おそらくは英国内ではヘンミの計算尺のほうがはるかに高価だったのでしょう。

 大阪から届いたオーティスキングスは形式Lと呼ばれる分類上TypeCという形状の戦後から終末期まで作られたもののようです。黒の皮もどきの貼り箱でぺらぺらの説明書とポンド・ペンス・シリングおよび反対側がインチの単位などでよく使用される分数をデシマルに換算する換算表が付属していました。箱の中はそれ以上のスペースがないのを見ると、この時代は皮ケースは別売りアクセサリーだったのでしょうか?元から日本にあったものらしいのですが、時代が下ったためかさほど使用されずにしまい込まれてしまったらしく、新品に近いほどの程度抜群の個体でした。形状が何かノーベルの特殊警棒そのままで、振ったら中子が出てきて長い警棒に変身しそうですが、このオーティス・キングを伸ばして見せても一般の人は警棒と勘違いするかもしれません。おそらく「金属の棍棒類」に該当として航空機機内持ち込み制限品に該当しそうです(笑) 売主は計算機の類だとはわかっていたようですが、円筒計算尺というものの存在は知らなかったようで、うまいタイトルで出品してくれたおかげで鵜の目鷹の目で珍品を漁っているライバル諸氏に発見されず、開始価格で難なく落札できたものです。とはいえその落札金額は当方の通常落札品の中ではかなりの高額でした。

 このオーティスキングスは収納長がちょうど6インチです。5インチのポケット計算尺の全長にほぼ等しくシャツのポケットに収まるくらいのサイズですが、基線長が60インチ(152.4cm)と20インチの計算尺を遥かにしのぎます。 しかし、印刷した紙のスケールを円筒に巻く構造のため、ある部分の精度が担保されていないらしく、精度に関しては80インチ4分割の20インチ計算尺に劣るようです。
 
オーティス・キングスの目盛りは初期が目盛りを印刷した紙にニスコーティングだったものがいろいろ材料の試行錯誤があって、末期は目盛りが印刷された紙のビニールコーティングラミネート構造のようです、金属の筒とこすらないように分厚いフェルトを介してカーソルおよび金属の筒が収縮するようになっており、古いオーティス・キングスでこの目盛りを刻んだ紙にダメージを受けているものはよほど酷使されたものです。この目盛り板には形式があってTypeCのLは上がLog尺を含むスケールNo.430、下がスケールNo.429です。TypeCのKはNo.423とNo.414の組み合わせです。オーティス・キングスには割と初期のTypeAのものからシリアルナンバーが打たれており、それはアルファベットと4桁の組み合わせて、例外として初期はアルファベットなしの1から始まって9999まで行くと次にA1というように続けられ、いつのまにかX0001のような空数字を入れるようになりました。そのシリアルナンバーによっておおよその製造年代が特定されるようです。またこのシリアルナンバーはKもLも関係なく連番になっているようで、末期にZ9999まで使い果たしたあとはA0001に戻って二順目のBXXXXまで使われたようです。今回入手したLはシリアルナンバーがY0314とかなり新しく、イギリスのコレクター情報ではおおよそ1965年前後の製造のようで、どうりであまり使用されていない個体なわけです。乗除に関しては高価でしたがすでに国産の電卓が出回ってきており、対数計算もまもなく電卓でカバー出来る時代がそこまで来ている時期で、多くの通常計算尺同様に急速に衰退してくるタイミングの生産だったため、殆ど使われていなかったために状態がいいのは当然でしょう。製造総数ですが、あまりこれに触れた資料がないため、判然とはしないのですがシリアルナンバーの頭に頭文字のない初期のもの9999本を含めてA0001からZ9999までが総数269,973本、二順目A9999とBが半分くらい作ったと仮定して5000本を足したとしても1921年から1972年まで総数284,972本で「おおよそ30万本が約50年間の総生産数」となり、これが多いと見るか少ないと見るか、判断に苦しむ数字です。

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