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September 19, 2016

フラー円筒計算尺

2_2 イギリスはロンドンのW.F.スタンレー社によるフラー円筒計算尺No.1です。カービック社のオーティス・キングス同様にらせん状に尺を巻いて有効基線長を高めた計算尺で基線長はなんと驚異の500インチで有効桁も4桁と格段の精度を誇ります。その分大きさも大きく、もはやポケットに入れて持ち運ぶようなものではなく、タイガー計算機なみの可搬性しかありません。同じように円筒形の計算尺としては同時代にサチャー円筒計算尺というものが作られていますが、こちらはらせん状の目盛りがあるものではなく、目盛りを分割した固定尺を星型に配置し、その中心を円筒の滑尺がスライドするという仕組みで、基本的に構造が異なります。またこのフラー円筒計算尺はオーティス・キングスの上下のC,D尺の円筒を伸縮させ、真ん中のカーソルになっている筒をスライドさせて計算するのではなく、対数目盛りは真ん中の円筒の一本だけで、真鍮の自由に動く2本のポインターをセットし円筒を回転させて計算するというオーティス・キングスとは真逆の方式の円筒計算尺です。
 このフラー円筒計算尺は北アイルランドのベルファスト市にあるクイーンカレッジの土木学の教授ジョージ・フラー博士が1878年に開発し1879年に特許を取得したものをロンドンのW.F.スタンレー社が商品化したものです。

 重厚な木箱に収納されており、真鍮製のスタンド金具を使用して木箱の片面から斜めにセット出来るようになっています。この箱と金具がセットになっていないと相当価値が落ちてしまうようです。

 このフラー円筒計算尺は特に計算精度を要求される研究部門などに限って使用されたようで、実際には内藤多仲博士がドイツ製の5インチポケット尺で殆どの建築の構造計算(実際は手回し計算機を併用)をおこなったくらいですので、一般の用途にはまったく必要ないものでした。そのため、製造は1878年あたりから1960年代まで牛の涎のように細々と続いたようですが、その間の製造総数たるやイギリスのコレクターの調査によると14,000本あまりにしか過ぎません。また製造終了後も1978年ころまで探せば店頭入手可能だったという話です。製造年数80年の長きにわたり14,000本の製造総数というと一年の出荷数でたったの175本です。需要もさることながら殆ど手作りだったという証拠でしょう。ありがたいことにすべての個体にシリアルナンバーが打たれており、末尾の二桁が製造年を現しているため、各個体の製造年の確認は容易です。

アメリカではK&EがOEM先として1895年から販売され、当初のモデルナンバーはNo.1742でしたが1901年よりNo.4015に改番されます。1895年のNo.1742のカタログプライスは28ドル、1901年のNo4015のプライスは30ドル、時代が下った1925年のプライスは42ドルと年々価格は上がっています。しかしK&Eは自社で製造したサシャー円筒計算尺No.4012のほうが力を入れて販売していたのは当然で、こちらのほうが若干値段が高く1892年版のカタログプライスは30ドル、1913年版のプライスは35ドルです。3_2 また後の年代にNo.2というLog計算に特化したフラー円筒計算尺が発売され、こちらのほうは円筒にある500インチのC尺はそのままですが、内円にプラスとマイナスのべき乗尺が刻まれ、対数計算が精密に行なうことができるというものです。1941年発行の説明書には追加でNo.2のべき乗尺の解説が載せられています。しかし、WEB上でNo.2の存在を詳細に解説してあるところが見つからず、いつから追加になったのか、シリアルナンバーがNo.1に含められているのか、それども独立しているかはよくわかりません。少なくとも昭和の始めくらいの年代にはNo.2はすでに作られていたようでシリアルナンバーもNo.1と連番だったようです。

入手先は同じく道内の旭川で、なぜ東京や京都ではなく地方のそれも旭川というところからこのフラー円筒計算尺が出てきたのか、計算尺そのものよりその出自のほうに大いに興味があり、自分としてはかなり高額で入手したものなのですが、出品者の言によるとさるアンティークコレクターからの買い取り品とのことで、それ以上のことはわからないとのことでした。旭川という土地柄、旧陸軍第七師団や大手の炭鉱などの備品が流れてきたものかと妄想をめぐらせていたのですが、届いた品物の製造番号は8千番台で製造年を見たらなんと第二次大戦中の1943年の品物でした。交戦国イギリスの計算尺が日本に入ってきたわけがありませんし、シンガポールから鹵獲したとしても年代が合いません。敗戦国日本が戦後すぐにこういうものを輸入できたはずもなく、おそらくはそのアンティークコレクターが海外から買い付けたものということが言えそうです。その事実がわかってちょっとだけ興味が失せてしまいました。入手した業者はよくデパートなどの骨董フェアなどを回っている業者で、そういうイベントでの換金に失敗してオクに出したようですが、ケースに貼られていた値札には28万円となっていました。e-bayなんかの落札相場を無視するといつまで経っても不良在庫です。入手価格はe-bayの落札平均相場より若干安い程度でした。

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