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August 25, 2018

東京光学機械陸軍89式7x50mm7.1°双眼鏡

Dvc00104 日本の軍用双眼鏡はコアなマニアがいるためにオクでも当方が首を突っ込むような落札価格ではないのですが、こちらは希望落札額が付いていたためにタイミングよくゲットした物件です。出品者はどちらが本命と思ったのかは知りませんがミノルタ版EOS KISSのようなプラボディのオートフォーカスフイルムSRLカメラと交換レンズ2本の抱き合わせでしたが、この時代のプラスチックカメラにはまったく興味が無くレンズも内部カビ玉だったためこちらは完全放置状態。
 いわゆる陸軍の監視用双眼鏡である89式7x50mm7.1°ですが、兵庫県内の対空監視所もしくは高射砲部隊で使用されたらしく、ボール紙にカーキ色のキャンバス地を被せた布ケースが付属していました。このケースは以前入手した88式7.5cm高射砲の付属物である砲金製弾道計算尺のケースと作りと同じです。
 この東京光学機械製89式双眼鏡は日本光学のノバーの光学系を採用しながら対物筒などにアレンジが加えられ、当時のツアイスの双眼鏡のように対物筒が二重になっています。そのため、海軍用のノバーよりは衝撃などに対して丈夫なのでしょうがやや重い双眼鏡です。これを手持ちで敵機の来襲を監視していた兵はさぞかし大変だったと思います。陸軍の砲隊鏡などと同様に右の接眼部に十字のMILスケールが刻まれています。
 東京光学機械、後のトプコンは昭和の7年に陸軍の要請で服部時計店の資本で昭和8年に板橋区の志村に設立された光学会社です。それというのも日本光学は海軍主体の海軍色の強い会社だったため、非常時に光学兵器を滞りなく入手するためには日本光学とは別の会社が必要だということだったのでしょう。これが後に陸軍の御用光学会社集まりである八紘会に繫がってゆくようです。
Dvc00103 戦時中は東京光学機械では捌ききれない受注を抱え、この八紘会の光学会社が補助的に13年制式6x24mmなどの双眼鏡を生産してゆくのですが、板橋の志村周辺にはそれらの双眼鏡の部品の外注業者が数多く集まり、戦後はそれらの外注業者が輸出用双眼鏡の生産を始めるという歴史がありました。
 その東京光学機械製89式7x50mm双眼鏡ですが、多くの戦前戦中双眼鏡と同じくグッダペルカ(天然樹脂)で作られた貼革がほんの僅かしか残っていません。まあ少しでも残っているだけマシなんでしょうが、この素材は代替品がないので困ってしまいます。今出来の酢酸ビニール製の皮もどきは厚みが薄すぎて本体の重厚感に負けてしまいます。鏡板などのプレスパーツは肉厚の真鍮製で少々のことでは凹みそうもないのはさすがに陸軍用だけのことはありそうです。
 この双眼鏡、対物筒の外筒が斜めに無理やりねじ込まれていて内筒がなかなか抜けず、構造も理解していなかったため苦労しましたがとりあえず対物側のプリズムを取り出せるまで分解することに成功。戦時中の双眼鏡なのでレンズにはまだコーティングがなく、少しでも内面反射を抑えてコントラストを高めるために内部は丁寧な反射防止塗装がなされ、プリズムには遮光カバーが被さります。コーティングがないおかげでレンズもプリズムもきれいに拭きあげることができましたが、日本光学のノバーのようにバルサム切れはありませんでした。このバルサムはカナダバルサムで戦前に輸入したものを消費していたらしいですが、本当の戦争末期になると代替品として国産の松脂から精製したバルサムでも使用していたのでしょうか?それを考えるとまだ物資が枯渇し切る前の製品かもしれません。グッダペルカも分厚い革シボ模様の入るものでしたし。
 プリズムポケットは対物側も接眼側も工作精度は良好でした。接眼レンズは外側が2枚貼り合わせの2群3枚のケルナータイプで右側の接眼筒に十字のスケールが刻まれた硝子がはめ込まれています。
 実際に遠くの送電線鉄塔の先端を見ながらエキセンリングで視軸はピタリとあわせることが出来ました。ノーコートのレンズ・プリズムの組み合わせですから反射ロスで視野が暗いのは仕方がありませんし、日中のコントラストも低いのですが、シャープネスはその割りに高くて解像力もある感じはあります。
 まあ光学兵器の類ですからこの双眼鏡で敵機を見落として空襲警報が遅れるわけにはいかないため、押さえる部分は押さえてあるという感じでしょうか。これ、レンズすべてとプリズム類を今出来のものと取り替えてしまうことも可能ですが、それをやってしまうと戦時資料としての価値が無くなるので、これはそのままにしておいたほうが利口でしょう。
 それで今回気が付いたことなのですが、この89式双眼鏡の見口はベークライト素材でネジ部分は金属が埋め込んであるなどとても手間の掛かった作りなのですが、どの見口も合わなかったダウエルのIF双眼鏡にぴったりでした。微妙にネジのピッチが合わなかったのですが、実はダウエルの成東商会は戦前双眼鏡の部品などを貯めこんでいて注文があるたびにそれを引っ張り出して使用していたのでしょうか?プリズムカバーなども戦前双眼鏡の手法ですし、貼革も妙にごつごつな感触なので本物のグッダペルカかもしれません。もしかしたらこのダウエルの双眼鏡は戦時中の部品をどこからかかき集めてきてそれを組み立てていたのかもしれませんな(笑)

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