Copitar 8x35mm 10度 Z型広角双眼鏡(鎌倉光機)
コピターの双眼鏡は国内でも多数出回っているブランドの一つですが、そもそもは昭和29年5月に荒川区日暮里で創業した高久光学工業が名称変更となった会社です。当初、輸出向けの双眼鏡の製造会社でしたが、いつのころからか商社化し、アメリカあたりにもコピターの名前でかなりの双眼鏡を輸出していました。昭和40年代末のドルショックを乗り切り、昭和50年代には内需の拡大にシフトして雑誌などでズーム双眼鏡の広告まで出していましたが、このコピターは現在コピタージャパンとして輸入双眼鏡のネット販売などで存続しています。
そのコピターですが昭和40年代から50年代にかけては板橋のかなり特徴のある会社にOEM生産させた双眼鏡を国内外にコピターブランドで発売しており、けっこうこの中にはOEM製造業者の中では優秀な双眼鏡もあるし、よく名前もしらないような製造業者の双眼鏡もあるという玉石混合状態であることが面白く、コピターブランドの中から玉石の玉を探し出すというのもけっこう面白いと思います。
そのコピターは昭和40年代中ごろから50年代に掛けてはやはりズームタイプの双眼鏡が主流だったようで、当初光機舎あたりがOEM先だったものの50年代には何か写真レンズのように対物レンズ内側に刻印の飾りリングがある特徴的なズーム双眼鏡に変わったと思ったらこれはJ-B56の遠州光学のOEMだったようです。
中には超広角双眼鏡として各社のOEMがある光機舎のBL型8x35mm11°という玉もあれば凡庸なZタイプ板橋輸出双眼鏡の石っころもあるので、同じコピターの双眼鏡群でもいかに玉を掴むかという面白さがあります。
このコピター8x35mm10°の広角双眼鏡は先日オクで入札していて、これだけでは送料がもったいないとテルスター2台まとめてと一緒に入札したら、このコピターだけ高値更新され余計なテルスターだけが手元に届いたという因縁の双眼鏡です。そしてこちらは某フリマサイトで660円で購入しました。というのも直前に扱ったLinetのFIELDMASTERそっくりの外見だったので名前はコピターでも中身は某社製ということいを確認したかったということもあります。
届いたコピターの7x35mm10度の双眼鏡は取り説こそありませんでしたが外箱にソフトケース、キャップ一式にシリコンクロスと接眼レンズに嵌めるタイプの黄色いフィルターまでそろっています。対物レンズの内側が若干曇っているだけのシロモノでしたが、全体的にタバコのヤニでコーティングされているような状態で、外箱は拭くわけにはいきませんが、ソフトケースや本体はまずマジックリンと歯ブラシでヤニのクリーニングから始めなければいけませんでした。
そしてとりあえず表の送電線鉄塔を覗こうと思ったらフォーカスリングがまったく動きません。多条ネジの部分のグリースが固着しているのかと思い、下陣笠を外してここからチューブを差し込んでCRC-556を少し吹き込んで少し時間を置いてもフォーカスリングはまったく回らず、最後の手段と上陣笠を外してそこから接眼レンズ部分を分解しようと思って真鍮のストッパーネジを外しにかかったら何と昇降軸がぽろりと折れてしまいました。昇降軸は金属の挽きものではなく、何と亜鉛ダイキャストにユニクロメッキかなにかを掛けただけのもので長年湿気にさらされたことによる経年劣化で内側に止めねじを嵌めるためのネジ穴加工された多条ネジ部分が加水分解して膨張し固着。さらに材質自体が湿気の進入で砂を糊で固めたような状態になってしまったためペンチ挟もうとすると崩れてしまうように劣化してしまっています。
普通だったらここであきらめて送料分含めて大損だったと後悔するのでしょうが、そういうときに部品取りで使えるようにストックしてある本当のジャンクの双眼鏡の中から昇降軸とフォーカスリングを流用してしまえば何とかなりそうだとひらめいて、取り出したのがプリズムの端が欠けていてプリズムが平行に置けないテルスターのSports 120GXとかいう茶テルスターの12x30mmでフォーカスリングの色は違えどもデザインはまったく一緒。昇降軸もこちらは金属の引き物なので寸法さえ合えば流用が可能だと思ったのですが、実際にやってみたらこれがビンゴでした。元の接眼レンズアームビボット部分に残っていたダイキャストの残骸が固着していて抜き出すのが大変でしたがテルスターの昇降軸の寸法は寸部の狂いも無く取り付けることができ、一件落着です。 ただ、昇降軸の受けの部分のスリーブに若干の寸法誤差があるためか、ややガタがある感じがしますが、同寸で加工されていてもメーカーの違いで誤差が生ずるのは仕方が無いでしょう。でもやはり双眼鏡折りたたみ動作のときのバックラッシュは気になります。
それでこの双眼鏡の製造元はLinet同様に鎌倉光機で間違いないと思います。ただ、対物レンズはまったく同じ濃いパープルとマゼンダのコーティングの組み合わせでしたが接眼レンズのコーティングが異なり、Linetは対物レンズと同じマルチコート風のコーティング。こちらは薄いシアンのシングルコートでした。ただ、Linetが7x35mmの10.5°でこのコピターが8x35mm 10°という違いがありますが、見え方や見える範囲などは双方に違いは殆どありません。何かLinetよりも空が若干狭くなった気がするのですが、それは実視角よりも倍率によるものでしょうか。
真ん中の解像力はそこそこですが、やはり周辺部は直線が曲線になるのは仕方がありません。
このコピターは付属品が充実していて接眼部に被せる黄色のフィルターや角付きのゴムアイカップは透明なビニールケースに入れられたままの未使用でした。また両方の接眼部を覆う長円型ゴムの接眼覆いも小雨に遭遇したときなどには重宝しそうですが、こういう細かい付属品をそろえて割りと定価が高めで実売価格はそこそこというビジネスだったのでしょうか。
コピターは雑誌広告なども行っており、箱のデザインなんかも凝っていますが、いまひとつブランドとしての地位が確立しなかったのは仕入先がバラバラで「これ」という商品イメージがなかったことで高級品になりきれなかったことが大きいかもしれません。何か一つ業界を驚かすような超高級なアポクロマートの天体観測専用双眼鏡などというものが一つでもあったらもっとメーカーとしてのステータスはあがっていたでしょう。企業にとってはこういう企業を代表するイメージリーダー的な商品は必要です。
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