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August 13, 2018

Kenko 7x35mm 11°BL型超広角双眼鏡(光機舎)

Dvc00072 1円のゴミ双眼鏡の類ばかり覗いていたら目玉が曇りそうだったのでたまには当時の高性能双眼鏡として今でも人気のある超広角低倍率双眼鏡を入手。実はこの種の双眼鏡は狙っていたのですが、100円双眼鏡のほうが忙しく超広角双眼鏡一台とゴミ双眼鏡10台を計りにかけたらゴミ双眼鏡のほうが重かったということで後回しになってしまっていたのです。
 入手したのはケンコーのおそらくは昭和40年代初期の7x35mm 11°のBL型、いわゆる米軍が使用して進駐軍が日本に持ち込んだボシュロム型です。標準だと7.3°くらいが無理のないところ11°という超広角双眼鏡でこれがおそらく手持ちの双眼鏡の限界値かもしれません。
この手の広角双眼鏡は昭和30年代半ばころから輸出用として作られるようになり、Zタイプの7x35mm10°くらいが広角の限界だったものをBL型にしてプリズムを拡大し、光路を広げて11°まで高めた超広角双眼鏡が現れるようになったのが昭和30年代の末ごろでしょうか。その超広角のBLタイプの双眼鏡が得意だったのが光機舎と大塚光学だったようで、国内の光学各社へもこの2社の超広角双眼鏡がOEMで入り込んでいます。そもそもケンコー自体が光学総合商社として殆どの商品をOEMで国内各社に作らせていたために、種別や年代でいろいろな業者のものにお目にかかる可能性があります。ただ、そのために同じケンコーブランドでも年代種類により出来不出来の差があるようです。
 そのケンコー、現在はレンズメーカーとトキナーと経営統合し、ケンコートキナーになりましたが、そもそもの母体は昭和30年に輸出双眼鏡組立業として世田谷区北沢に設立された研光社(J-B108)なのです。ワルツカメラが倒産したことがきっかけで参入したカメラのフィルターが業界ナンバーワンのシェアを獲得したことを手始めに次々にカメラアクセサリー分野に積極的に進出し、短期間で光学総合商社として急成長した会社です。
 そういう雑多な混成軍の様相のあるケンコー製品ですからピンがくるかキリがくるかの楽しみがあるのですが、今回入手した7x35mm 11°の双眼鏡がキリのわけはなく、刻印されていたナンバーからJ-E25のダイキャストを使用したJ-B21の光機舎の製品であることがわかります。この超広角双眼鏡は他に大塚光学あたりも得意としており、たとえ仕向け先が変わってもだいたいこの光機舎もしくは大塚光学に当たる確立が高そうです。
 この双眼鏡は当時のケンコーの高級双眼鏡に共通した黒の牛革ケースに入った黒の牛革ストラップをまとったBL型双眼鏡で、35mm双眼鏡にしては横幅が大きく巨大な印象を受けます。また非常に重い双眼鏡で重さも960gと50mmのZタイプ双眼鏡よりもわずかに軽い程度の双眼鏡で35mmクラスの双眼鏡としては文句なしのナンバーワンでしょう。ちなみにニコンのマルチコート7x35mm 7.3度のZタイプは600g強しかありません。まだ大塚光学の超広角のBLタイプに行き当たっていませんが、他のズームタイプの双眼鏡の例からすると光機舎の双眼鏡よりも大塚光学の双眼鏡のほうが軽そうです。
この光機舎超広角双眼鏡の筐体は同社の8-15x35のズーム双眼鏡から流用しているようでどうりで大きくて重いわけです。専用のBL型筐体を用意すればもう少し小型化できそうなものの超広角ということから光路に余裕のある大きなプリズムが必要かつアイピースも太くなるため、ズーム双眼鏡と共通というのは必然性があったようです。
Dvc00071 革ケースを開けてびっくり金目鯛のような大目玉を持つ接眼レンズは対物レンズと見まごうほどの大きさ。見口のプラスチックも極端に短いということはアイレリーフが短いということで、これは正真正銘のエルフレが装着されているようです。エルフレというと往年のビクセン天体望遠鏡にエルフレ20mmが付いていたので、その性質はよくわかっていますが、真ん中の解像力はそこそこながら周囲の像は収差が大きく、コントラストが比較的に低いというようなことでしょうか。でも当時超広角というとエルフレあたりしかなく、その視界は驚異的に広かったものの、天体望遠鏡の接眼レンズにエルフレが必要だったかどうかは疑問でした。まあエルフレは低倍率の双眼鏡あたりのほうが使い勝手が良かったのでしょうが、こういう特殊どころの双眼鏡ではないと接眼レンズはケルナー止まり。こだわりの無いユーザー対象の双眼鏡はラムスデンで十分とディスカウント同眼鏡にはけっこう2枚玉のラムスデンが混じっていることがわかり始めましたが、このエルフレは真ん中のレンズが3枚貼り合わせの3群5枚構成です。当然接合面が多い事から光の損失が多く、ラムスデンなんかと比べるとヌケが悪く暗くなりそうな感じです。
 早速覗いてみたら遠くの送電線の鉄塔先端がわずかに分離して見えるのと、やはり長年の放置でグリス類の揮発成分が蒸発してプリズム表面を曇らせていたため、どっちみちオーバーホールです。
 まず、対物レンズ側から分解して対物レンズを取り出しますが、この対物レンズはBL型なのにエキセンリングで保持されていました。最終的には外側から視軸調整が可能なほうが生産性が向上するのですが、BL型のプリズム取り付けプレートのネジによる視軸調整の方法がいかに面倒くさいかということが今回も身にしみてわかりました。対物レンズを洗浄し、エキセンリングにグリスアップして元に戻し、今度は接眼側の分解に入りますが、こちらも通常のCFタイプのZ型同様に下陣笠を外してそこからマイナスドライバーを差込み、視軸シャフトの止めネジを外し焦点調整リングを回せばて接眼アッセンブリーが取り出せます。そして接眼ガイドスリーブをベルトレンチで外し、鏡板のネジ一本を抜いて鏡板を外すとプリズムプレートが現れます。このプリズムプレートの3本のネジを外すことで2つのプリズムが固定されたプリズムプレートを筐体から取り出すことが出来るのですが、このプレートを抜くのも嵌め込むのも少々コツが要り、特にはめ込む際はドツボに入り込んでしまい、なかなか嵌められないという現象に遭遇(笑)
 今回この2対のプリズムは底面も曇っていたためプレートから外して無水アルコールで洗浄することになります。プリズム表面はシングルコートされ、対物側のプリズムには遮光カバーが被せられているのですが、このカバーが黄色い光を放つ黒染めも無いブリキの板で、ダウエルの双眼鏡についていたものと大して変わりません。なぜ遮光カバーかというと広角の双眼鏡は視野がけられるので対物筒に遮光筒が装着できないのです。いままで「遮光筒も省略されているようなコストダウン」などと散々批判してきましたが、8x30mm双眼鏡なら視野角8.5°以上で遮光筒を逆に付けられないようです。これ誤解してました。
 それで洗浄して元の場所に収めたプリズムはプリズムポケットの加工も良好でポケットの端にたがねを入れてピタリとはまり込むようになっているため、それこそ一度外したところでさほど狂いは生じないと思ったのですが、一旦仮組みしてみると、何と左右の水平が無視することが出来ないほど狂っていました。こればかりはエキセンで修正するわけにいかず、けっこう数時間あれやこれやと試行錯誤繰り返したのですが、その間、プレートを再度外してプリズムを付け直してみたり、プレートがすんなり嵌めこめなくなったり問題解決まで本当に半日くらいの時間を費やしたことになります。
 結局はベースプレート上の1.5mmφくらいのイモネジ3本を対象物を観測しながら微妙に調整することで像の倒れと像の離れを解決。エキセンリングも併用して視軸の調整は完璧になりました。このネジ、もう少し調整しやすいように大きくして欲しいのですが、予めこう大掛かりに調整するのではなく、何らかの冶具上でプリズムベースプレートの水平か何かを出しておいてそのまま組み立て、あとはエキセンリングで最終調整するという方法を取っていたのかもしれません。
 調整の終わったこの双眼鏡の実際の見え方は周辺部は歪むののさけられないものの圧倒的に広い視野は大迫力でさすがは超広角というところですが、やはり接眼レンズの構成枚数が多い分だけ光の損失も多く、コントラストとシャープネスはあまり良くありません。真ん中付近の解像力ももう少し欲しいところですが、やはり解像力と像の均一性を求めるか、あくまでも広い視界を求めるかのコンセプトの違いでしょう。エルフレはアイレリーフが極端に短いので全視野を見るにはメガネを外すのは必須ですが、メガネを掛けたままでも並みの双眼鏡以上の視界で見えてしまいます。あと後玉の口径が大きく、曲線を描いているためためにもし後ろに太陽や明るい壁などを背負った場合、コントラストの更なる低下は避けられません。というよりそういう使い方は避けたほうが無難。
 それでも圧倒的に広い視野は星野や野鳥の観察、動きのあるスポーツ観戦や舞台鑑賞などに威力を発揮するのでしょうが、重さだけは避けようがありません。せめてこのクラスの双眼鏡が500gだったら常用しますが、プラスチック多用じゃ光学製品としての愛着は沸きそうもありませんしね。
 今NYヤンキーズで大活躍しているピッチャーの田中将大、駒大苫小牧高校2年のときに夏の北海道大会決勝で9回にリリーフで出て来たのをたまたまニコンの7x35mm7.3°で見ていました。そのときの相手の北照高校のバッターに投げた変化球が視野から消えてしまい、次の瞬間ライト側スタンドに入っていたというリリーフでホームランを打たれるシーンに遭遇しましたが、この双眼鏡ならボールをスタンドまで追い続けられたかもしれません(笑)

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