Sky-Luc. 10-50X50mm BL型ズーム双眼鏡(鎌倉光機)
Sky-Luc.という聞いたこともないブランドの双眼鏡だったために、いままで「東南アジア製?」などと思われて粗末にというか、いままでまったく手を付けずに10ヶ月近くも放置されてきたズームの双眼鏡ですが、中を分解してその製造元が判明し、さすがは○○製だと急に株が上がってリスペクトされ始めた双眼鏡です(笑)
そもそもズームの双眼鏡自体その性能面の制約上から「ズームに名品なし」などという思い込みで興味が無かったのですが、今の東南アジア製の小口径高ズーム比の双眼鏡と異なり、大口径で設計に余裕がある低ズーム比の双眼鏡はそれなりに見えることがわかり、さらにBL型のプリズムユニットの脱着と視軸調整をマスターしたことでやっと手をつける気になったズーム双眼鏡でした。
この双眼鏡は12台まとめて504円かそれくらいで昨年の10月に入手した双眼鏡群の一台です。その中には鈴木光学やプレシジョンなどの戦後すぐの双眼鏡などが含まれており、大掘り出し物でした。
このSky-Luc.というBLタイプのズーム双眼鏡は10-50倍というズーム比で口径は50mmですが、光機舎や市川光学工業のズームタイプのBL型よりも設計がかなり新しいようで接眼レンズ筒もすっきりスマートになっており、双眼鏡自体が巨大で重いという印象がありません。実際に重量が900g台なので、かなりプラスチックを多用しているのかと思いきや、プラスチックは接眼レンズのズームカムのガイドになるスリーブと対物セル周囲くらいなもので、筐体もプラスチックではなくダイキャストですが徹底的に重量軽減のためか凹凸をなくして薄く仕上げているようです。もしかしたら素材自体も単なるアルミではなくマグネシウムが混ぜられているかもしれません。
対物レンズは深いブルーコーティングでまさに「深い古井戸を覗いたがごとく」でしょうか。いちおう紫外線カットをあらわす表記があります。BLタイプなので対物レンズ枠にはエキセンリングは仕込まれておらず、対物レンズ外枠は衝撃を和らげる目的かゴム製です。
接眼レンズユニットを外すために対物側からマイナスドライバーでストッパースクリュウを外したのちにフォーカシングリングを回して接眼レンズユニットを抜き、そのままそれぞれ2本のスクリューを抜いて鏡板を除いたあとで接眼ガイドを緩めて抜きます。
現れたBL型特有のプリズムユニットはスプリングの付いたスクリュー3本と短いスクリュー3本があり、このスプリングの付いた長いスクリューを三本抜くことでプリズムユニットを取り出すことができるのですが、このスクリューが妙に硬くて頭が舐めそうだったため、何本かインパクトドライバーを使って緩めなければいけませんでした。そしてこのプリズムユニットを取り出して現れたダイキャストの陽刻がJ-B133.。なんと製造元は世界の有名双眼鏡メーカーのOEMを手がけ、いろいろと革新的な技術を提供し、現在も双眼鏡を作り続けている鎌倉光機でした。
水戸黄門じゃあありませんが、いままで安物のズーム双眼鏡だと思って打ち捨てられていたものがJ-B133のナンバーをそれもプリズムユニットを取り除いた場所から見せ付けられて世界の鎌倉光機とわかり、急に大切に扱われることになったわけです。 鎌倉光機に関して少々歴史を書いておくと創業は昭和22年5月で会社設立は昭和25年、創業当時は多くの光学関係の会社が集まる板橋のお隣の北区志茂でしたが割りと早い時期に埼玉の蕨市に工場を構え、今では蕨市の地場産業として鎌倉光機の双眼鏡がふるさと納税の返礼品に採用されたこともあるそうな。いままで鎌倉光機のブランドで国内発売されたことがなく、すべてがOEM商品で有名どころではニコン、キャノンやカールツアイスあたりにも製品提供している技術のある会社です。
そのため、OEMの名前の有名ではない双眼鏡でも製造元が鎌倉光機だと信用できるというか、下手なものは作っていないなという安心感があるのですが、逆に板橋四畳半メーカーのようなとんでもないものに遭遇してしまう面白みに欠けてしまうのは仕方がありません。
これ、鎌倉光機のオリジナル設計なのかプリズムユニット固定スクリューにバネをかませてありますが、緩まないようにするのと同時に落としたときにプリズムユニットにショックが直接加わってプリズムがずれたり破損したりしない工夫なのでしょう。こういう創意工夫の積み重ねが今の鎌倉光機に繫がっているのでしょう。
BL型独特のプリズムユニットはプリズムは樹脂で位置決めされているので、プリズムの合わせ面が曇っていたりカビたりしていない限りは外すのは厳禁です。大抵はプリズム押さえのバネを外して表面をふき取るだけで事足りるはずです。そして肝心の視軸合わせですが、この双眼鏡は接眼ガイドの筒を装着したままで鏡板が外れるため、接眼レンズアッセンブリーを装着したままでプリズムユニットのスクリュウーで視軸調整することができます。
ただし、どうしても三脚に固定して各倍率でのズレを確認しながらの視軸合わせになりますので、すべて組み立てが完了してから外側で視軸あわせが可能なZタイプ双眼鏡より手間が掛かります。
それでなんとか視軸あわせも完了し、組み立てなおして遠くの送電線鉄塔を覗いた感想は、低倍率10倍ではけっこう破綻のない均一した画質で周辺部もゆがみが少ないのですが、もう少し広い視界が欲しいところです。解像力もシャープネスもそこそこなのですが、ズームなので仕方が無いというところでしょうか。
またズームに従って大きくなる焦点移動と左右の視差がやや大きいのが気になりました。
実用になるのは30倍くらいまでで50倍まではいらない倍率なのでしょうが、おそらく10-30倍の双眼鏡では売れないのでしょうね。高倍率イコール高性能なんていう図式は7x50mmの双眼鏡から始めたわれわれのような元天文少年なら最初から持ち合わせていない誤った固定観念なのですが。
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