ワイズ複素数計算尺 Whythe Complex Slide Rule
Whythe Complex SlideRuleという複素数に特化した計算尺です。イギリス表記なのでおそらく日本語読みではワイズ複素数計算尺でしょうか。
複素数というと交流や高周波の電力などのべクトル計算のために必須で、iではなくjという虚数記号を使用しますが、当方も1級アマチュア無線技師や通信士試験受験のために改めて勉強し始めたものの、結局は試験問題に複素数が絡む問題に遭遇しないうちにすっかり電気工学系計算にも疎くなってしまいました。
そんな電気工学系必至な複素数計算ですが、それを計算尺にしようという試みはいろいろあるものの、このWhythe Complex SlideRuleは商品化された数少ない複素数専用計算尺の一つです。
見かけはフラー円筒計算尺そのものですが、構造的には円筒状のチャートがこの範囲内で上下するだけという構造。製造はフラー円筒計算尺と同じW.F.スタンレー社です。 この複素数計算尺はD.J.WhytheがイギリスBBCのために設計し、W.F.スタンレー社が商品化したもので、1961年の発売ですから日本で言うと昭和36年ということになります。そして1969年まで作られていたというか商品として残っていたようですが、果たしてどれくらいの数が製造されたのかはわかりませんでした。
フラー円筒計算尺が80年で14,000本しか作らなかったのを考えると、この特殊な計算尺は歴史も新しいということもあり、極めて少数しか作られなかったのでしょう。
マホガニーのケースに入れられているというスタイルはフラー円筒計算尺とまったく変わりませんが、驚いたことにこの複素数計算尺は構造は木製ではなくベークライトのような樹脂製に変わっています。おそらくは生産性を上げるための工夫だったのでしょうか?
発売当時の価格は210ポンドだそうですが、現在の貨幣価値にするとおおよそ500ドル相当だそうです。さすがに竹製計算尺の比ではありません。
日本では個人的にパソコンでチャートを印刷し、それを使用して複素数計算尺を作るという試みはされていますが、さすがにこのワイズ複素数計算尺のように商品化されたという話は聞いておらず、またワイズ複素数計算尺自体発売が新しいためか、その存在も日本では知られておらず、大学の研究室にフラー円筒計算尺はあってもワイズ複素数計算尺の姿は見たことがありません。 シリアルナンバーは6289で昭和37年製の89番、実はKT-3326という備品番号がエングレーブしてあり、ここでピンと来たのが相当以前に厚木在住の無線の大OMさんから譲っていただいた米軍落ちのHEMMI No.266電子用計算尺。このブリッジには備品番号KTA-12939がエングレーブしてありました。その番号の類似性からするとおそらくは米軍の同じ部署(通信隊?)あたりで使われた備品が民間に流れたものだったのでしょう。出た場所も相模原との境界線に近い町田市の北部ですし、前出のNo.266と同じく座間か厚木もしくは立川基地あたりとの関連が疑われます。
さすがは米軍で日本の貧乏な研究機関にもないようなものが備品がごろごろ転がっていたのでしょう。昔、今から40年前というとベトナム戦争で多用された払い下げの電子パーツや計測器がまだまだアメジャンとして大量に出回っていて、16号線沿線には専門の店もあったものですが、今やそれも昔話になりました。16号線沿線にアメジャンが多かったのは横浜線矢部駅近くに米軍のデポがあって、大抵のサープラスはここで扱われていたのに理由があります。
米軍落ちということもあるのでしょうがマホガニー製のケースに斜め45°に立てるための真鍮の棒と取り説が欠品でした。それでもこの時代に製造されたフラー円筒計算尺同様に金属のスタンドは鏝状ではなく単なる曲がった棒なので、自作は出来そうです。
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