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June 21, 2019

英国WOLF TYPE FS 安全灯(GPO LAMP)

Wolf_fs1 Wolf_fs3  Wolf_fs4 イギリスは中部のサウスヨークシャーのシェフィールドで現在も盛業中のウルフセフティーランプカンパニーによって製造された普通型ボンネットのマルソー型安全灯です。この安全灯も2年ほど前に入手したのですが、G.P.O.1963の銘板に惑わされてしばらくその正体を探るのを放棄して放り出していました。というのもG.P.Oというのは英国のGENERAL POST OFFICEのことで、日本で言うとさしずめ日本郵便というよりも昔の逓信省あたりに近い組織の気がします。その歴史はさすがに英国だけのことはあり1652年ですから江戸時代の初期だとのこと。日本ではそれから220年も経過しないと郵便制度も確立しなかったのですからさすがに社会のインフラの構築が早かった英国は違います。そのGPOがなぜ炭鉱でも殆ど使われなくなっていた安全灯を必要としたのか、その答えがなかなか見つからなかったのです。さすがに日本の旧国鉄のように炭鉱を経営したとはどうしても思えず、まさが郵便配達に安全灯を持たせたわけでもないでしょうし、その納得出来る答えが見つからずに苦労したのです。
 それから2年余り経って見つけた答えはこの安全灯はGPOが通信設備のある地下下水道などで通信ケーブルの敷設・点検のために作らせたものとの事。このWolf Type FSはGPOの依頼のもとに1957年から1958年にWilliam Norman Bishopという人によって設計された10-20点のサンプルのうち、実際に採用されたF型をさらに改良したもので、1962年から実に1988年までの長きに渡り年間1500-2000個作られたとのことです。納入価格は£20だったようです。
GPOだから郵便事業ばかりかと思ったら戦前までの日本のように電信電話はおろか放送事業まで統括していた組織のようです。そのため、古くは電信用のケーブル、後には電話用のケーブル布設・点検などの業務のために安全灯がある程度の数量が必要だったようで、戦前はPattersonやThomas Wiliamsなどの炭鉱用安全灯もそのままGPOの銘板を付けられて使用されていたようです。国防上の観点からかなり早い時期に通信インフラの地下化が行われていたのでしょうか?
 なぜ地下工事に安全灯が必要だったかというと下水道はメタンガスのリスクがあったかどうかは知りませんが、地下道は酸欠という問題が大きかったようで、安全灯の炎の勢いが急に小さくなったら急いでその場を離れるという配慮が必要だったからでしょう。同様にアメリカのケーラー安全灯も地下工事用途のために近年まで新品で購入出来たみたいです。
 製造元の英国ウルフセフティーランプカンパニーはドイツフリードマン・ウルフ商会の代理店を1912年に引き継いだWilliam Mauriceが設立した会社で、当初パラフィンマッチ式の再着火装置が英国の鉱山保安基準を満たさないため使用できず、さらに油灯がメインで揮発油灯がなかなかそれに取って代わることが出来なかった英国で当初は英国の保安基準に合致する普通型のウルフ揮発油安全灯を製造発売していたものの、William Mauriceがそもそもは電気系の技師だったため、おそらく当初から揮発油安全灯ビジネスにはあまり乗り気ではなく、これからの主流になるであろう蓄電池式の防爆安全灯やキャップランプのほうにビジネスの主軸を移した事で、今でもWolf Safety Lampを名乗る唯一の会社として残っている訳です。
 皮肉な事にもその電気安全灯の英国ウルフが1960年代から80年代まで製造した安全灯ですが、その当時炭鉱用安全灯を新たに作れるメーカーが残っていなかったのでしょうか?このWolf Type FSは揮発油ではなく灯油を使用する油灯式のマルソータイプの安全灯です。油灯ながら油壷に中綿が充填されており、油壷底のつまみで棒芯を繰り出すタイプの安全灯で当然の事ながら再着火装置はありません。一見マグネチックロックの出っ張りがあるのですが、ロックシステムはありません。さすがはレプリカではなく本物の安全灯らしくボンネットは分厚いスチール板で油壷もウルフ灯らしくスチールの外皮を被った真鍮製でかなりずしりと重みのある安全灯です。
 この個体はG.P.O.1963の銘板のあるType FSとしては初期の生産に属します。日本でいうと昭和30年代末から平成に時代が変わる前年まで作られていた安全灯で、その用途からしてもさほどダメージの少ないものが意外に沢山残っているようです。実際に炭鉱で使用されたものではなく、歴史も浅いためか有り難みは薄いのですが、それでも日本では見かけない珍しい安全灯です。
 入手先はすっかり忘れてしまいましたが最近多い匿名配送だったからでしょうか?そのため、日本に入って来た経緯も不明です。

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