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June 18, 2019

J.H.NAYLOR 双芯安全灯(炭鉱用カンテラ)

   Naylorwigan1 Naylorwigan2 Naylorwigan3    イギリスの炭鉱地帯マンチェスターに隣接する現在のグレーターマンチェスター州ウィガンという炭鉱町に存在したJ.H.Naylorにより作られた安全灯です。この会社の創業その他の詳しいことはよくわかりませんでしたが、おそらくは1800年代後半から1960年くらいまで存続した金属加工メーカーのようで、真鍮加工品(ブラスウェア)がメインの会社だったようです。創業時はJames Henry Naylorという人の個人商店のような形でスタートし、後に会社組織になったときにはおそらくは炭鉱用で使用される砲金のボイラーマウント、各種バルブなどを生産していたようです。技術的には取立てて目を見張るような革新的な発明はないものの、唯一1930年代に入ってからのSPIRALARMという一種のガス警報ランプのような安全灯を製作しており、このランプはメタンガスで筒内爆 発を起こすとスイッチが入って底の赤いランプが点灯しメタンガスの危険を警報するというもののようです。他にはこのメーカーは棒芯の数を双芯はおろか3芯にまで増やしたランプを製作していたことが特筆され、高輝度ではあるもののメタンガスに対するリスクがどうなのかというのも心配な安全灯ですが、通常の製品は平芯スチールボンネットのオーソドックスなマルソータイプの油灯式安全灯でした。

 このウィガンという町は2001年の人口が81,000人余りの決して大きくない町ですが、往年のプロレスマニアには有名なビリー・ライレージムがあった場所だということを今回初めて知りました。通称スネークピット(蛇の穴)として力自慢の炭坑夫たちに盛んだったランカシャースタイルレスリングを伝えた名門ジムで、「プロレスの神様」カール・ゴッチや「人間風車」ビル・ロビンソンなどが門下生として知られています。タイガーマスクの虎の穴はここから名前を拝借したものですが、ルール無用の悪の覆面レスラーを養成しファイトマネーから上納金を搾取するという秘密組織ではなく、あくまでも真剣勝負のストロングスタイルのレスリングジムで倒されても蛇のように攻撃し続けるファイトスタイルからスネークピットとして一世風靡した名門ジムでした。安全灯のほうに話が戻りますが、このJ.H.Naylorの安全灯は油壷などにNaylor Wiganと刻印が打たれているのが普通で、そのためにNaylor Wiganというのが社名というか安全灯の商品名で、Wiganというのが所在地だということは今回調べてみて初めて知りました。1800年代末までは普通のマルソータイプの石油安全灯を製作していたようですが、1900年代初期からか油壷の底ネジで炎の長さを調整するタイプのマルソー灯を製作したようです。今回の双芯安全灯もその時代の構造と同じものですが、炎の調整というのが芯を繰り出すのではなく、何と芯の外筒の長さを変えることで結果的に芯の頭の出かたを調整し、それにより炎の高さを調整するというものです。その外筒に該当するのが底ネジに連結したシャフト先端に装着されたギアとかみ合う内側にネジが刻まれたギアで、このギアが芯のガイドステムに刻まれたネジ山を上下することで芯の頭の出を調整するというシロモノです。なんとも発想の転換が奇想天外で、このバーナー形式を何というかは調べがつきませんでしたが、芯のほうを繰り出さずにギアが芯のガイドステムを上下することで炎を調整するという事を知って何か狐につままれたような気がしました。このギア式のバーナーは芯のほうが焼けて短くなった際にはニードルか何かで芯を引き上げてやる必要があり、それを非合理だと考えたのか、後のNaylor Wiganの安全灯は芯を保持するリテーナーをギアで繰り出す方式に変わったようです。双芯ともなるとさすがに単芯の安全灯よりも灯油の消費は激しく、使用時間10時間以上を想定したのか揮発油安全灯のような大きな油壷がついており、揮発油安全灯は中が綿が充填されているのに対しこちらは中は空洞と思いきや中綿が充填されている気配があります。というのも油壷の注油リッドの中に金網のストレーナーがあり中身が確認出来ないからなのですが、確か英国では鉱山保安法でパラフィンマッチ式再着火装置のある揮発油安全灯が持ち込めなかったような話を聞いたため揮発油安全灯が普及せず、当然灯油使用かと思ったのですが、もしかしたら揮発油兼用ということもあるかもしれません。ボンネットとトップは銀色の地肌が出ており、黒のエナメルを失って鉄の地肌が出ているのかと思っていたら、こちらは双方共にアルミ板で出来ていました。なぜかこの銀色ボンネットのNaylor安全灯にロックシステムがないものが多く、こちらも例外ではなかったために不思議に思っていたのですが、どうやら坑道内の測量などの用途で一般坑員ではないちゃんと安全教育も受けた職員の技師にのみ使用されたため、ロックシステムが不要ということだったのでしょう。日本の本多式ウルフ検定灯でも最初からロックシステムがないものもよく見かけます。アルミの安全灯は坑内測量の際の磁気コンパスに影響を与えないために、一般坑員用には鉄のボンネットでなければ強度的に検定が通らないイギリスでは坑内測量用の特殊用途としてよく作られましたが、当時の日本ではアルミの生産も加工技術も伴わなかったのとキャップランプがすぐに普及したため、まったく見られない安全灯です。 この個体はもうかなり以前に兵庫県の神戸に隣接する町から入手したもので、つり下げるためのフックが欠品でした。どうも神戸港に入港した外国船の備品かなにかのようです。よく歴史ある国際貿易港の町からは外国製の安全灯が出て来ることがあり、当方もそのような外国製安全灯を入手しています。正規には日本にまったく輸入されなかった安全灯のため、そうでもなければ日本でお目にかかる安全灯ではありません。どこかの船の不良セーラーがわずかな飲み代欲しさに船から持ち出したものだったのでしょう。

 この個体はフックが欠品でバーナー部品の芯押さえも欠品だと思われていたため、今まで3年程非常に冷遇されていた安全灯で、何と2階の猫トイレの脇に置かれ、長い間猫どもがトイレに入ったのちにこの安全灯のトップで前足についた砂を掻き落としていました(笑)
 しばらく行方不明だったガストーチバーナーが見つかり、小柳式安全灯のガートピラーを作った真鍮の丸棒を炙って加工し、釣り下げフックを自作することになり、改めていろいろ調べてみるとなかなか興味のある事実が発見され、さらに部品が欠品だと思われていたバーナーがこれで完全品とわかり、加えてボンネットとトップもアルミ製と判明して一気に興味を引かれる安全灯に変身したのです。

短くなった芯がガイドステムの中で石のように固まっていましたので、ドリルを通して除去。長いピンポンチを通してみると、やはり油壷には固まった中綿のようなものの感触があり、中空ではありませんでした。そうなると限りなく揮発油灯の構造という気もしますが、これに関する燃料の記述がパラフィンという以外の記述は見つからず、油灯にしてもなぜ中綿があるのか不思議です。最新のグラスファイバーを芯にした棒芯を入れてみましたが、油壷の中綿が邪魔でそう長い長さの芯は入ってくれません。燃料のリッドは横にスライドする蓋で、揮発油安全灯のようなねじで密閉する蓋と比べると気密性が劣るので、やはりパラフィン(灯油)仕様の安全灯なのでしょうか?また、一時期英国では盛んに高輝度安全灯が盛んに工夫されて製造されましたが、芯を単純に増やして行ったのが単に高輝度を得るためだけであたのかも何らかの記述には行き当たりませんでした。マルソータイプの空気の流通からすると、単純に芯の数を増やして行ってもその燃焼に見合うだけの空気の流入量を増やさなければならないと思うのですが?

 

 

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